キウイ

 母が書いた手紙には『冷蔵庫の中にキウイが入っています。実が黄色いキウイです。今晩はパートが遅くなるので朝まで帰宅はしません。インスタントのルーも戸棚にありますが辛口です。甘口にしたいならキウイを混ぜて食べて下さい。ああ、あと。学校、お疲れ様です。では』と殴り書きに近い、汚い字で今日の夕飯らしき食材の説明を書いてあった。僕は家に真っすぐ帰らず、道草をして所為でそれなりに遅い時刻になっていた。あくびをする。それからランドセルをソファーに投げて、風呂に入った。熱いシャワーを頭に浴びながら思った。どうして、キウイを晩御飯としたのか? 他にも何か別のお惣菜にすればいいのにと、独り言をつぶやいて風呂場から出た。ドライヤーで髪の毛を乾かす。鏡を見ながら髪の毛を掻き分けているとスマートフォンに通知が入る。でも僕はそれに気づかない。ドライヤーのモーター音の雑音が消し去ってしまったからだ。ドライヤーのスイッチ押し片づけた後、とても喉が渇いた。机の上に合ったコップを持ちウォーターサーバーから水を汲み取り胃袋に注いだ。スマートフォンが光っていた。それに気づいた僕はランドセルに近づいて通知を見た。友達のジュンからだ。指で画面をスライドして文章を読んだ。
『さっき、遊んでいた、ゲームのカセットなんだけどさ。なくなっているんだよ。もしかしてお前が取った? でも、お前が取るわけないよな』
 僕は返信した。もちろん知らないよ、と。
 するとすぐに返信が帰ってきた。
『だよな。もしかして隣のクラスの奴らかも。あと、今日、ふざけた事に俺の夕ご飯がキウイなんだよ。デザートじゃないんだ。キウイ単体なんだ。マジでふざけてるよな。カーちゃんは古い友だちと何処かに行っているんだ』
 僕は友だちからの通知を読んで思い返した。そう言えば僕も夕飯はキウイだったな。それでキウイを食べようと思って冷蔵庫に向かい開けようとした。
 ジリリリ!!
 固定電話が鳴った。僕はすぐさまに受話器を取り耳に当てた。
「よう、てぃーちゃん。元気にしてる?」
 電話の相手は従弟だった。僕は返事をした。
「今度さ、セミを捕まえにいかない?」
 僕はいいよと了解した。
「聞いてくれよ。ボクの夕飯、キウイなんだ。好きなんだけどさ。キウイだけって手抜きだよ。ママはPTAの集まりでさ、遅くなるって。他にも食べたいよね」
 何、そういう時もあるさ。そう答えて僕は電話を切った。
 再び冷蔵庫向かった。キウイをさっさと食べて宿題でもしようも思った。すると玄関の方からチャイムが鳴った。僕はめんどくさいな。と思いつつもチャイムを押した本人をドア越しから覗いて見た。同じクラスメイトの委員長だった。何事かと思いながらも扉を開いた。
「こ、こんばんは。西崎君」
 僕はこんばんはと答えて何しに来たのか、要件を聞いた。
「きょ、教室に筆箱を忘れていたのよ。それで届けに来たの」
 ありがとうと言ったが、内心は別に明日でも渡せばいいのにと思った。僕は「あー」と言って委員長にまた聞いた。どうして僕の家を知っているの?
委員長は少し慌てた様子で「先生に聞いたのよ」と言ってから「迷惑だったからしら」と少し憂鬱そうに述べた。それで僕はそうでもないよと答えた。
 委員長はふうと息を吐いて「そう。良かったわ。ねえ。聞いてよ。私の今日の夕食、キウイだけのなのよ。手抜きよね。手抜き。ホントに意味が分からないわ。お母さんは婦人会に行っていて遅くなるっていうの。何時もならご飯を作って出ていくんだけどね」
 僕はそうなの。と言ってから委員長を帰した。
 ようやく、キウイが食えるなと考えてから冷蔵庫に向かう。僕はお腹が空いていた。それで、キウイの味ってどうだっけ? と疑問に思った。思い返すことは出来なかった。でも僕がまだ小さい頃、或る友だちが言っていた。その友だちは昔、宇宙飛行士で月や火星や金星に行ったことがあるとか言っていた。勿論、幼稚園児が宇宙になんて行けるわけがないから他の友だちからは嘘つき呼ばわりされていた。その嘘つきと言われていた奴は砂場で遊んでいる僕の隣に座って言った。
「火星に到着して3年がたった頃。そう、まだ青草があった頃。僕のメンバーの一人は詩をよく唄っていた。僕は詩が嫌いだったから、そいつが隣にいるとよく、イヤホンを耳に突っ込んでいた。火星は田舎だったから、そいつの詩をありがたって聞く奴も少しいたんだ。そうした日々に或る出来事が起きた。誰かが絵本を書いて飲み屋に置いていくんだ。僕は当たり前だが絵本は読まない。しかも手作りの絵本だ。なんか気持ちが悪い。それで何時もウイスキーを注文して飲んでいた。勿論、他に飲みにきた奴らもそんなガキが読む絵本なんて読むわけがない。だが、その絵本、新しいストーリーを創作しているのか、飲み屋に増えていくんだ。バカだよな。そんな趣味を酒の場に提供していくなって思うだろ? でもその絵本を読んでいた奴がいたんだ。あの詩を唄う奴さ。そいつも、関心がない振りをするくせに、何時もやって来てページをペラペラと開いて眺めた後に苦虫を噛み潰したような表情で本を閉じて僕の所にやってくる。それでこう言うんだ。『わたしはもう読まないわたしには合わないしつまらないしね、全然興味はないんだよ、わたしは他のひとの唄だって心を込めて言える、しゅーんしゅーん、ぽつぽつ、動物のお友達もたくさんいるんだ主に肉食で基本的に人を傷つける獣、てぇーん、てぇん、てぇーん』ってさ。僕は煩いだけだし興味もないからこっちに来るなと思ってグラスに口づける。そうそう、火星にある食い物や飲み物は基本的に人体に合わない。食ったら腹を壊す。ああ、一週間はめじゃないね。それでキウイを食っているんだ。何故キウイかって? そりゃ、キウイが火星の気候に一番合っているからさ。でも僕はそのキウイのおかげで追放されたんだ。あはは、気になるか? 僕はねキウイに『意思』与えたんだ。そうしたら、ほら、今の火星を図鑑で見て御覧なさい。学校の図書館にでも行ってね。ただの赤い星だろ」
 僕はだらだらの能書きを垂らすそいつを蹴り飛ばして帰った。そいつはニタリと笑っていた。気味が悪い奴だった。
そんなどうでもいい記憶から覚めた僕は冷蔵庫に向かって扉を開いた。キウイは小皿の上に乗っていた。しかも一個だけ。手を伸ばして触れた瞬間、家のブレーカーが落ちた。それと同時に外からはサイレンの音と爆発音が聞こえた。窓からは赤い煙も見えた。爆発は連続して続いた。怖くなった僕は冷蔵庫の扉を閉めた。キウイに触れた手は冷たかった。
それから、沈黙。

キウイ

キウイ

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-07-17

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