プリンを一口

バンプ

 終業のチャイムが鳴ってしばらくして、すずは小腹が空いていることに気がついた。購買はもう閉じているし、コンビニも距離がある。すずはアイドル部の部室にお菓子があるという一縷の望みを持って、部室へと向かった。
 辿り着き扉を開けると先客がいた。イオリだ。スプーンで何かをすくっては口に頬張っている。一口食べるたびに、嬉しそうに長い青髪が躍っていた。
「イオリさん、何を食べてるんですか?」
「あっすーちゃん!あのねあのね、冷蔵庫にプリンが入ってたからね!おいしくいただいてます!」
「ふふっ、美味しそうですね」
「うん、おいしい!」
 イオリの微笑ましい姿にすずは顔をほころばせた。
 不意にすずはプリンを見ると、そこに書いてある何かに目がついた。それはプリンにそもそもに書かれていたものではなく、マジックで手書きされていたものだ。大きく『いろは』と。
「あ、あわわわ」
「どうしたのすずちゃん」
「い、いえ何でも……」
「んー? あっ、これ!」
 すずの目線からイオリはプリンに書かれた文字を見つけた。
「い、いえ、それは」
「ええおもしろーい! プリンに名前付けてるんだね!」
「えっ、あっ。そ、そうですね!」
「そうだ!すずちゃんにも分けてあげるね!」
「ええっ」
 突然の提案に狼狽するすず。
「で、でもそれはいろはさんに――」
「え?」
(い、言えない!)
「そ、それに、か、間接――」
「ええ?」
(い、言えるわけない!)
「食べないの……?」
 イオリはしおれるように暗い顔を浮かべ始めた。
「い、頂きます!」
「はい、あーん!」
「あ、あーん……」
 その後数分間、すずは意識を失った。

「ああああああ!!!」
 部室にいろはの叫び声が響きわたった。
「い、いいいいろはのプリン~~! すずちゃん何か知らない!?」
 いろはは机に突っ伏しているすずを見て尋ねた。
「ありが――」
「え? 何て?」
「ありがとうございます……」
「お礼? なんで?」
「ふふっ……ありがとうございます」
「おーい、すずちゃーん」
 小腹ではなく、幸せで満たされているすずであった。

プリンを一口

プリンを一口

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
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二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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