とある島の昔話

バンプ

 それはとある島に伝わるお話。
 ずっとずっと昔のこと。三郎という大層悪い男が住んでいたそうだ。酒癖が悪く、目が合えばすぐに殴りかかる。仕事も大してせず、酒を飲んでは寝ての繰り返し。住人は三郎をひどく忌み嫌っていたそうだ。
 ある日のこと、島の一番の長寿、ひこ婆というおばあさんが妙なことを言った。ひこ婆はよく先を占い、よく当てていたことから住民からよく慕われていた。ひこ婆は「この島はしばらくして沈むじゃろう」と告げた。住人はそんなことあるものかと訝しんだが、あのひこ婆が言うことだ。急いで身支度を初め、島を出ようとしていた。
 だがみなが準備をしている中、三郎は全く手をつけていなかった。それどころか焦る人たちを冷ややかな目で見ていた。
「全くばかばかしい。島が沈むだと? ふんっ」
 三郎はいつも通り酒を口に運び、悪態をついていた。
 数日と経たない間に住民のほとんどは身支度を終え、船に乗り込んでいた。
「おいあんたは乗らなくていいのかい!」
「いいよ。いいよ、勝手に行ってな」
 三郎は去っていく住民と船を笑いながら見送った。
 実際、島には何も変化がないのだ。婆さん一人の言葉で慌てる住人たちが笑えてしかたなかった。
 それから数週間、三郎は一人残った島を満喫していた。店に置かれたままの酒や飯をたいらげた。ゴミもろくに捨てずその場に投げるものだからみるみるうちに島は汚れていった。
 まるまる一か月。島には変化ない。
 三郎は一人の生活に飽き飽きしていた。それどころか酒も尽き、飯も無くなり、途方に暮れていた。何も考えずぶらぶらと島中を歩いていると、地蔵を見つけた。地蔵の足元には、日本酒が置かれていた。三郎は飛びつき、日本酒を口に運ぶ。久しぶりの酒は体に染みた。
「うめぇな~~」
 久々の酒はすぐに三郎を酔わせた。
「ああ、何見てんだあ?」
 酒癖の悪さからか、地蔵に喧嘩を売っていた。
「へっ何か言えってんだ」
 酒を頭から地蔵へと注いだ。三郎は高笑いをした。
 ふと見ると、地蔵が赤い目をしていることに気がついた。酔っているから何かの見間違いだろうか。三郎が怪訝な顔をしていると、
「んお?」
 しばらくすると妙な地響きが起こった。島全体が揺れている。
「な、何だ!?」
 走って港へ出てみると、波が見えないくらいに引いていた。海が消えていたのだ。
「ま、まさか」
 そう思った頃にはもう遅い。
 向こうから得体のしれないものが轟音と共に押し寄せてきていた。波だ。とんでもない高さの波がやってきていた。
「ひ、ひっ」
 その後波は島を覆うほどに襲い、その島には建物すら跡形もなく残らなかったそうだ。
 もちろん戻ってきた住人たちは三郎をみつけることはできなかった。

とある島の昔話

とある島の昔話

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted