ピエロになった僕

 「おかあさん、おかあさん。」
 しょうちゃんは、鼻のあたまをおかあさんの口紅で赤くぬり、
ついでに、ほっぺたも赤くぬって、タオルでほっかむりをして、
頭にはザルをかぶっています。
「やすーきー。」
 あらあら、しょうちゃんは、どこで覚えたのでしょう。
腰をペコペコ前や後ろに動かして、どじょうすくいを踊っています。
それを見ていた、お姉ちゃんとおかあさんは、おなかをかかえて笑っています。
次の日、
「見て見て、おかあさん。」
しょうちゃんは、お風呂場からパンツ一枚で登場です。
裸のおなかいっぱいに、まゆげや目や鼻や口が口紅で書かれています。
それを見て、お姉ちゃんは台所でごはんのしたくをしているおかあさんを呼びました。
「おかあさん、しょうちゃんが」
おかあさんが飛んできました。
「あれまあ」
しょうちゃんは、ちょっぴり得意げに胸を張って、ポコポコ、クネクネと、
おなかを揺らしています。
すると、おなかに書いた顔が、泣いたり、怒ったり、笑ったり、
またまた、おかあさんとお姉ちゃんは大笑いです。
 それから、次の日も、次の日も、しょうちゃんは、おもしろいことを見つけては、
おかあさんとお姉ちゃんを笑わせました。
 ある日、おかあさんはしょうちゃんに聞きました。
「しょうちゃんは、なんでそんなにおもしろいことばかりするの。」
「だって、ぼくピエロになったからさ。」
「なんでピエロになったの。」
しょうちゃんは、しばらく下を向いたまま黙っていました。
「だって、だって。」
そう言うと、しょうちゃんは、おかあさんに抱きつきました。
そして、泣きだしてしまいました。
すると、そばで見ていたお姉ちゃんが、
「えりわかるよ。」
すると、おかあさんが、
「なにがわかるの」
「おかあさんさ、しょうちゃんやえりが寝た後、泣いていたんだもん。」
おかあさんに抱きついていたしょうちゃんが、
「ぼくが、おしっこに起きた時、台所でおかあさんないていただろう、
ぼく、おしっこ我慢して、布団の中で静かに泣いたんだ。」
すると、お姉ちゃんが
「えりもしょうちゃんから聞いて、夜こっそりおかあさん見たんだよ。」
「僕決めたんだ、ピエロになっておかあさん笑わそうって」
おねえちゃんとしょうちゃんの話を聞いていたおかあさんは、
おねえちゃんとしょうちゃんを、強く抱きしめました。
ふたりは、おかあさんの耳元に、
「おかあさん笑ってね」
「えりちゃん、しょうちゃんごめんね」
そう言うと、おかあさんはたんすからゆかたを取り出し、
化粧台の前でお化粧をはじめました。
「こんどは、おかあさんがえりちゃんとしょうちゃんに、踊りを見せちゃう。」
ふすまを開けて、おかあさんの登場です。
「見ててよ、かぎやでふう踊るわよ」
おねえちゃんとしょうちゃんは、
「ワアー、きれい」
目をまるくしています。まるで天女のようです。
でもちょっぴり寂しい気持ちもしました。
「ぼくぜったいに、おかあさん、お嫁さんにする。」
よーく見ていると、天女とちょっぴり違っていたのは、踊りの最後にお尻を突き出すようにして、
クネクネさせたからです。
おねえちゃんとしょうちゃんは、そんなことしなければいいのにと、
ちょっぴりザンネン。
でも、きれいでやさしいおかあさん、いつも笑っていてね。

ピエロになった僕

ピエロになった僕

母子3人暮らしの親子が支えあって生きてゆく姿を、子供の視線からとらえて書いてみました。 子供って案外敏感で、それでおとなの行動よよく見ているんだなと思うことがあります。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-03-24

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