私とおじいちゃんの話

川面を眺めながら、私は考え事をしていた。
私はまだ、5歳だ。幼稚園に通っている。
お母さんは幼稚園の正門の辺りで、担任の先生と立ち話をしている。
私は、空を見上げる。そこには、何もない。
私には大好きなおじいちゃんがいて、心の中には常に
大好きなおじいちゃんの後ろ姿や温かい胸の温もりを
思い出すことができる。だけれど今日は、おじいちゃんはいない。
おじいちゃんは、遠いここから離れた県へ旅行しに行っていて、
だから私の傍にはいない。
私の大好きなおじいちゃんなのに。私だけのものなのに。
そんな浅はかな非現実的な思いに、私は胸を痛ませながら、
おじいちゃんの帰りを待っている。
お母さんはおじいちゃんが帰ってくるのは明日よ、と言うけれど
お母さんの言うことはあてにならない。
おじいちゃんは、きっとすぐに帰ってくる。だって
私が待っているという事を知っているのだから。
私は空を見上げながら、おじいちゃんに自分の気持ちを伝えた。


なきじゃくりながら私は、おじいちゃんの帰るのを待っている。
おじいちゃんは、まだ帰ってこない。
もう明日は来ている。昨日の明日は。
だけれどもう夕方の5時だというのに、おじいちゃんは帰ってきていない。
私は、もうれつに不安になった。
もしかしたら、このままおじいちゃんは帰ってこないのかも知れない。
そう思った。
私はおじいちゃんが思っているほど、自分を信じてはいないのだ。
おじいちゃんの好きな私は、もういない。
おじいちゃんは、きっと他の誰かを好きになっちゃったんだ。
私は、ずっとずっと待っているのに。
おじいちゃんは、
私を信じてくれてなかったのだろうか。
幼稚園児の私は、おじいちゃんと自分との絆を、深く考えさせられた。
そんな時、


玄関からがらがらがら、と音がして「ただいま。」と、人の声がして、
私は、びっくりした。
おじいちゃんが帰ってきたからだ。
まさか、いまさら帰ってきてくれるとは思わなかった。
私は、泣きじゃくりながらおじいちゃんの傍へと駆け寄った。
そして、勢いよくダイブした。その胸に。
おじいちゃんの胸は、心地が良くて、あったかくてぽかぽかしていて、
まるで真冬の家族団らんのコタツを思い出させた。
私は、言った。おじいちゃんは私の顔を覗き込むようにして、そっと笑っていた。
「おじいちゃんね。私のこと、好き?」
私は、窺うようにして、おじいちゃんのかおを覗き見た。
おじいちゃんは心得たように、笑って、
「もちろんだよ。ちはなちゃんのこと、大好きだよ。」
と、言った。


私とおじいちゃんの世界は、クルクル回る。
そうして、次の日も朝が来る。
たくさんたくさんの朝を超えて、私とおじいちゃんは、魂の親友になった。

私とおじいちゃんの話

私とおじいちゃんの話

小さな可愛らしい女の子と、女の子思いの朗らかなおじいちゃんの話です。 久しぶりにほんわかな話が書けました。 読んで頂けると、幸いです。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-10-20

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