ラスト・スターダスト・スター
四時からのおしごとは、夜のあいだに空から落っこちてきた星を、拾い集めるという内容の、けっこう大変そう、と思われるのだけれど、コツをつかめば、意外と容易い、という感じの、おしごとです。
労働後のカフェラテは、美味しい。
おしごとは、一時間ほどで終わります。否、一時間で、終わらせなくてはいけない。太陽が昇りきってしまうと、星は、かがやきを失い、ただの石ころとなってしまうからです。仄暗いなか、ぼんやりと、鈍く光る星は、見知らぬ土地で果てることを、どう思っているのでしょう。星のきもち、なんてものを考える日は、少しばかり、星を拾う手も重くなります。星は、ひとの体温に触れると、弱々しい光も途絶え、つめたく、黒いだけの、石と化し、きっと、それが、その、星、としての運命であり、最期なのだと想像しながら、バスケットのなかの集めた星だったものたちを、愛おしくも思う。
「この子のように、わたしもどこか、知らない場所で、いつか、最期を迎えるのかしら」
ほれぼれと、うっとりしている調子で、ただの石となった星のかたまりを眺めて、ツインテールの先輩は言います。
ぼくは、どうでしょうねぇと答えながら、拾い集めた星の表面を、指で撫でて、このおしごとは、サラリーマンや、コンビニの店員より、楽かもしれないけれど、でも、しんどいところも、ある、と語っていた、あごひげの先輩のことを、思い出していました。
朝が来れば、拾いきれなかった星たちは、そのまま石となり、ゆくゆくは、カラスのくちばしに銜えられたり、にんげんに蹴られたり、削られたり、高いところから落とされたり、川や海に投げられたり、カラーマジックで色を塗られたりするかもしれません。夜になればまた、空から、星が落ちてくる。あたらしい星が、星が生まれる限り、降ってきます。投身自殺みたい、と呟いたのは、ツインテールの先輩で、ときどき、先輩の栗色の長い髪と一緒に揺れる、真っ赤なリボンの、赤がなんだか生々しくて、吐き気がしますが、それは先輩にはもちろん、内緒にしています。あごひげの先輩は、いつのまにか、このしごとを辞めていました。収入の安定している職業に転職した、とのこと。ご結婚をされたそうで、それならば、きっと、サラリーマンにでもなったのか、はたまた公務員か、何にせよ、労働内容は、このおしごとよりも、きついのだろうなと思います。
労働後の、カフェラテを飲んだあとの、セックスは、どこか切ない。
胸が、ぎゅっ、としめつけられるときが、あります。それは、セックスの相手に、恋だのなんだの、という感情を抱いてのそれでは、ない。果てる瞬間の、あたまが真っ白になる寸前に、大気圏を突き抜け、真っ逆さまに落ちてゆくしかない、星の最期を、想うからです。
ラスト・スターダスト・スター