【超短編小説】青

六井 象

 ある小さな町の、真夜中の踏切に、おーん、おーん、と穏やかな音が響いている。警報機が、昼間と違うものを迎えるための合図を送っているのだ。遮断機がゆっくり下りてきて、同時に、素晴らしく美しい青色のライトが点滅する。しばらくすると、そこへクジラが現れる。年老いた、優しい顔のクジラたちが、何頭も何頭も、線路の上を、滑るように、音もなく通り過ぎていく。クジラたちの背中の上には、ぐったりと横たわっている人や、背中を丸めて座り込んでいる人たちが、クジラたちよりもずっとたくさん見える。彼らのおでこには、切符がわりのヒトデがはりついていて、それらはみな一様に赤錆びたような色をしている。町の人々は言う。線路の先には海がある。きっとクジラたちはそこへ向かっているのだろう。しかし、クジラの背中にいる彼らがどうやって切符を手に入れたのか、そもそも彼らはどういう人たちなのか、なぜクジラが彼らを海へ運ぶのか、それは誰にもわからない。ただ真夜中の踏切からおーんおーんという音が聞こえはじめると、町の人々は、静かに手を合わせて頭をからっぽにする。薄く開けた窓から、潮の香りが忍び込んできて、からっぽの頭を満たしていく。誰に言われたわけでもなく、自然にできた習慣なのだという。翌朝、カンカンカン、といつも通りのけたたましい音、せわしない赤い光とともにいつもの列車がゴウゴウ通り過ぎていく。クジラが現れた次の日は、列車の乗客が少なくなっている気がする、と町の人々は噂しているが、駅長はその噂についてはきっぱりと否定している。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
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