俺の日記(迷探偵、俺)

ヤリクリー 作

注意事項
①男性1人用声劇です。
②カッコの中で、登場人物の気持ちを表したりしている箇所があります。読んでください。
③このお話はフィクションです。

俺の日記(迷探偵、俺)

  私の名は、石本大和(いしもとやまと)。警察官でもなければ私立探偵の者でもない。何なら、国家公務員・地方公務員ですらない。単なる、鉄道清掃員ってわけだ。そこそこ大手の鉄道会社に勤務しており、成績は、そこそこ優秀。次期所長、なんて声を掛けられたりもしているが、それがどうしたと私は思っている。声をかけてくれるのは、素直にありがたい。ただ、私は地位向上や名誉のため、金のために努めているわけではない。自分の人生の結果がこれだったというわけだ。
 そんな私でも、人生を進んでいくうちに、不可解な事件や怪奇的な出来事に巻き込まれることがある。今回は、その中でも特に印象的だった、とある事件の内容を話していくことにしよう。異常すぎるほどの衝撃を受けて、その日の内容を日記にまとめていたのだ。この日記帳は、結構久しぶりに開くわけだが…。
ゴッホンゴッホン!すご、く埃(ほこり)っぽい…。ゴッホンゴッホン!
そりゃそうさ。あれから、20年近くも経っているんだ。

1990年4月1日。AR(エーアール)中央に入社。ARとは、“Automatic Railway(オートマチック・レールウェイ)”の略称。AR自体が我が国の幹線鉄道となっており、幾つか支社がある。その中で、私は中央を選んだわけだ。鉄道学校なる、鉄道の知識及び運転技術を学べる学校に3年間通ったかいがあった。ちなみに、鉄道学校は3年間通うルールで、落第的なものもある。そんな学校でトップの成績を収め、無事入社。初めての担当は、“新幹線の運転士”であった。新人が最初の運転をするには難易度が高すぎる気もしないではなかったが、変更は効かない。始点から終点までの片道5時間を、きっちりと運転を終えることができた。

1994年7月7日。七夕である。悲劇の始まりである。
その日も絶賛勤務中だった私。珍しく、午後2時に私の勤務が終了となった。どうやら、私をこき使わせた上司が監査にばれたらしく、数年間(確か、3年ほどか?)は勤務時間を縮小させろとの緊急業務命令が出た。その説明を受けている最中(さなか)だった。時間としては、夕方の4時になる寸前か。突然建物全体に響き渡る、女性の悲鳴。悲鳴の発生源からして、第4給湯室と推測できた私。他の社員と共に現場へ急いで駆けつけると、そこにはナイフで胸部を貫かれている40代前半と思しき(おぼしき)の女性社員と、同じく40代前半、若しくは30代終わり頃の中年男性が頭を何かで殴られた後を残して倒れていた。当然、流血していた。彼ら目を合わせているように見え、何かを共有しているように思えた。

急いで警察を要請し、要請後3分程経て到着した彼らと現場検証が行われた。彼らは無能だった。“男性が女性をナイフで刺し、男性は自殺を図って頭を何か鈍器(どんき)で強く打ち付け、証拠隠滅・迷宮入りを試みた”という結論に至ったわけだ。しかも、それを公の場で公表してしまったわけだから、クズさ加減が手に取るようにしてわかる。彼らには解決できる力なんてない。刑事も当然ながら検証の際にはいたが、これまたポンコツなわけで。警察の存在意義を、今一度洗い流しておく必要があることを明確化できた。
おいおい。“とりあえず解決させました♪”的なまとめは不要だ。簡素な推理で解決とは、世間の目もそこまでヤワなものではない。
その日の夜から、約一週間の期間をかけて、AR中央の全社員が取り調べ調査を受けることになった。一週間という期間は、社員数が異常なほど多いため、必然的にそうなってしまったのだ。(母数が多ければ、アクションを起こすのにそれ相応のコストがかかるのは理解がしやすいはずだ)。

7月8日。私の取り調べは明後日の10日となることが判明。警察の許可をもらって、第4給湯室に入らせてもらった。昨日、飲む予定だった未開封のオレンジジュースを取りに行くためだ。このジュースは、事件の関連があるか調査を受けるために開封され、少量持っていかれたが、私は文句は言わなかった。現場付近にあるものは、片っ端から調査されていくわけだから、私の飲料も例外ではない。武器として使用されていた、なんて話になれば、私が容疑者扱い、良くても容疑者候補としてブラックリストに載ってしまう。そんな話はまっぴらゴメンだ。冷蔵庫を開けると、調査のため開封したとのメモがあり、事件には何の関係もないことが記載されていた。すると、その隣に、“大和様へのお詫び用”と記されたポストイットが貼ってある、2リットルのオレンジジュースを発見。いちよ、調査されたジュースの500ミリペットボトルには、自分だとわかるようにRPGゲームのモンスターが描かれているテープを貼ってあったんだけど、スタッフの誰かが教えてくれたのだろう。新品のジュースが用意されていたのだ。しかも、“大容量”。
そこで、“調査済み”のを取り出しコップをとろうとすると、一枚の小さい小さい封筒が棚の戸の隙間に入っていた。開封すると、
“この給湯室は誰も使わないのであろう?つまりは、ここで何をしても良いわけだ。”と記された1枚の手紙。もう一枚には、
“この手紙が見つかるころには、既に誰かが命をひきとっているはずだ。 Dfault(デフォルト)”との文字。“Dfault”の部分だけが筆記体なのが気になり、何と読めばよいのかわからなかったが、警察にこのメモを届けたところ、「デフォルト、って読むのではないのか?」との返答を聞いた。
帰宅後、“デフォルトの謎”を解明すべく、和英辞典を引っ張り出し調べてみると、“default”というのが正しいスペルだそうだ。犯人は不明で、謎のメッセージ。ますますわからなくなってきた。不可解な出来事に巻き込まれながらも、飲みかけのジュースをボトルごと喉に流し込み、大きめのボトルに手をかける。

7月10日。取り調べ日当日。8時間もの間取り調べを受ける羽目になってしまった。とは言っても、開始して30分後で私が事件に何の関係もないことが判明した。この頃になると、徐々に犯人候補が絞り込まれていき、取り調べ中にも、事件と無関係な人には、その旨が伝えられ、早いと30分もかからぬうちに終えてしまうそうだ。だが、生憎、私は先日のメモの一件があるため、そう簡単には解放させてくれなかった。その分、とは言っても7時間以上は、メモのことで話が持ちきりだった。筆跡鑑定(ひっせきかんてい)の結果、事件の被害者二人はどちらもこのメモを記しておらず、容疑者扱いされていて被害者の一人でもあった男性は犯人ではないことがわかり、容疑は晴れた。これで、彼も無事に極楽浄土で安心してほしいものだ。

私が取り調べを受けた時点で判明していたのは、以下の通り。
・犯行が行われていたのは、7月5日の夕方から夜頃(15時から18時の間か)
・メモの筆跡は男性で、20代終わりから30代前半。
・単独犯による犯行の可能性が高い
・犯人の当時の服装は、運転士の服もしくは駅員の服か。(スーツではないらしい)
・現場付近に鈍器の存在が確認できず。
・犯人の服装と鈍器の存在より、運転士か駅員が、持っていたカバンで殴ったか。

運転士のかばんは角ばっていて、確かに、あれで殴られたらひとたまりもない。最悪、命を落とさせることも不可能ではない。

取り調べが終わる際、新たな情報として、“武器として、社員専用のかばんが使われたらしい”との結論が出た。司法解剖の結果らしい。

7月13日。事件の進展に大きな変化が。前日の取り調べにて、焦って階を降りる男性を目にした女性社員がいて、その男の姿は駅員だったらしい。筆跡の推定年齢とその男性の見た目の年齢はほぼ一致しているようだ。その後、会社が履歴書を総ざらいしたそうだ。あの時の条件から、現在の年齢に当てはまりそうな者の男性社員のを片っ端から目を通したそうだ。だが、数が数で、3日間かかるらしい。しかし、これで犯人をさらに絞り込める。

7月15日。ついに、犯人の候補が絞り込めた。5人までに狭まった。容疑者候補は、“利根和弘(とねかずひろ)”、“延岡良樹(のべおかよしき)”、“高梨平二(たかなしへいじ)”、“筒川歩(つつがわあゆむ)”、“西浦春馬(にしうらはるま)”。以上だ。

そして、武器と思しきカバンの情報で、私は1つ気づいてしまった。それは、事件当日の午後2時頃。カバンの数が1つ足りないことに気付いたのだ。二時間に一回のペースでカバンの数の確認をしているのだが、予定の数とは1個足りなかったのだ。ありがたいことに、カバンの一つ一つに4桁の識別番号が振られているのだが、“0123”、この番号のかばんがなかった。もし、予定の数で一致しないのであれば、本部か監査に連絡を入れるのが常識なのだが、その連絡すらなかった。
すぐさま、警察に電話をし、会社の監査にも確認をとった。やはり、例の番号のカバンは確認できていなかった。

7月16日。武器となったカバン、“0123”が見つかった。なんと、会社から75キロメートルも離れたところに埋められていたのだ。血痕も若干だが付着していた。さらに、犯人を目撃したらしい女性の調査によって、“利根和弘”、“筒川歩”、“西浦春馬”の3人に絞られた。候補に挙がっていた残りの2人だが、2人とも部屋でデスクワークをしており、課長やマネージャー、チーフがその場に、その時間にいたことが判明。存在の確認が取れ、容疑は晴れた。
また、日付が変わる直前、西浦氏の容疑も晴れた。理由として、本社の沿線沿いからは遠く離れたところで4日ほど車両を運転しており、その日は2日目。時間的にも抜け駆けが出来ず、事件発生時も車掌として仕事をしていたそうだ。使用していたカバンのナンバーは“8633”。これも裏が取れており、犯人候補から外れた。

残るは2人。“利根”か“筒川”か。また、ここからの解決が早く済むのか、長引いてしまうのか。そろそろ、この空気にも耐えられなくなってきた。

11月11日。未解決のまま時間だけが過ぎていく。気づいたら、もうすぐ年末。このまま年越しとなれば、嫌な気分のまま新年を迎える羽目になる。なんとしてでも解決をしなければならない。最悪、天皇誕生日までに解決が出来ればそれでいい。せめて、クリスマスだけでも楽しませてほしい。
相変わらずのポンコツ警察。役立たずの存在に、ようやく会社の面々も気づき始めたようで、あきらめの雰囲気が出始めていた。どうでもよくなってきていたのだ。それもそのはずだ。いくら調査をしても、いくら事情聴取をしても、時間が経てば風化していくものだ。何なら、偽の情報をばらまいたって問題にはならないし、彼らも気づかない。私はやってはないが。

12月12日。犯人候補の2人に進展があった。“利根和弘”が、いつのまにか辞表を提出し、逃亡をしていたのだ。
また、これとほぼ同じタイミングで、筒川の容疑も晴れた。何故なら、カバンの調査を別の20代の女性従業員と行っており、2人でチェックの報告を上司にしていたのだ。カバンチェックの一部始終は、種々のスタッフが把握していたようで、容疑者は確定。“利根和弘”、コイツだ。

後は、奴を追っかけてとっ捕まえるだけ。私は、一か八かの賭けに出ることにした。上司に頼み、2週間の連休取得を頼んだ。私の日頃の行いが良かったのか、あっさり承諾してくれた。
ここからは、俺が奴をシバき倒す。それだけだ。

12月18日。週の始めから降り続いていた雪は止み、久しぶりの晴天。空気の乾燥だけが気になるが、いちいち構っていられない。

私には、彼が逃亡しそうなところに目星がついていた。何故なら、奴は事件発生の3ヶ月ほど前に、日本のとある場所に行きたいと熱望をしていたのだ。その地に関して熱く語っていたのは、今でも覚えている。何故今思い出せたのかは自分でもよくわからないが、思い出したとき、自分は近くの焼き鳥屋にて、同僚と食事をとっていたのだが、その際のフラッシュバックなのであろう。思い出すことに成功をした。
また、メモに薄く残されていた数字、“1223”これは、12月23日の“天皇誕生日”を指しているのであろう。確か、奴は極左だった覚えがある。言わば、“過激派”というもので、このような日にはうるさくなるのだそうだ。以前、本人がそのような話をしてくれていた。

一日でたどり着けるような目的地ではないので、近くのターミナル駅のホテルで一夜を過ごすことにした。プランは、既に練って(ねって)ある。

12月21日。まさか、ホテルで追加の二泊を過ごさねばならぬとは。原因は、猛吹雪である。昨日までは、猛吹雪のためホテルであくびをかみ殺していた。また、既に体も悲鳴を上げ始めていたので、ホテルの追加宿泊料金の2日分を支払い、ホテル内のエステで身体(からだ)を休めた。この際だと思い、ホテル内のレストランを生涯初めて利用した。奴の事も気になるが、体が資本の仕事をしているため、休息に当てることにしたのだ。

この日は、一気に移動を進めた。そして、午後4時。目的地に到着。“ヘップ温泉”である。近くの宿を予約してみたが、独り身だと、案外、即日の宿泊も可能だったりするものだ。
それはさておき。
宿の近くを中心としたスポットを駆け巡り、奴がいないかを探した。結論を言うと見つからなかった。しかし、「ここ数日、間欠泉あたりで同じような人がうろちょろしている」という目撃者情報を確保。その間欠泉の情報を得たところで、今日は終了。
勝負は、明日だ。

12月22日。勝負に出た。チェックアウトができる時間になった瞬間を狙い、その間欠泉に直行。“奴はいた”。

「利根、久しぶりだな。よくここまで逃げられたな。」
奴は静かに答えた。「俺は気づいていた。あいつらが入籍したこと。事件の前日に役所で婚姻届けを出したこと。勤務から戻った際、彼らは談笑をしていた。
俺は、あの女を手に入れるはずだった。デートに何度も足を運んだ。だが、アイツはあのジジイと籍を入れやがった。頭に来たから、2人まとめてdelete(デリート)しておいたわけだ。彼女はキリシタンだったから、細川ガラシャのような最期を迎えてあげることにした。現代版でな。
ジジイに関しては、カバンでヘッドショットさせ、コキーナクラッチっていう絞め技をかけて窒息させた。所謂(いわゆる)、オーバーキルてやつだ。」

あのメモに関しても聞いてみた。
「メモに書いてあった1223ってのは、明日のことか?」
予想通りの返答だった。
「その通り、天皇誕生日の日さ。…だが、お前にばれちまったからには、もう一生足を運べそうにもないな。」
「それと、メモを残した理由とDfaultの意味を教えてほしい。」
容疑者は淡々と答えた。
「メモを残したのは、俺の最後の置手紙(おきてがみ)ってわけだ。“立つ鳥跡を濁さず”ってのもいいけど、何も残さずに立ち去るのも、何だか胸糞悪くてね。
それと、Dfaultの意味ね。あれは“デフォルト”って読む。“Death(デス)とfault(フォールト)”を掛け合わせた造語さ。“死の罪は、誰との契約によっても起こらない怠慢行為”ってわけだ。」
「なるほどね。

今、警察を要請したけど、最期に言いたいことは?」
「彼女に謝るよ。こんな真似をして済まない。そして企業ぐるみの大事件を犯してすまなかった。」

 12月22日午後0時10分22秒、利根和弘容疑者を殺人の罪で逮捕。悲劇は幕を閉じた。

12月24日。俺は彼女とクリスマスデートを楽しんだ。久しぶりに見た彼女は、まさしく天使そのものであった。ポロっと、「俺と一緒に生活しないか?」なんてうっかり口にしてしまったが、彼女は笑顔で頷いてくれた。この日は一泊二日のデートだったこともあり、役所に出かけ、婚姻届を提出した。“クリスマスの奇跡”とでもまとめておこう。

12月31日。大晦日。肩の荷がようやく降ろせたと思うと、疲れが急に重くのしかかり、笑わずにはいられなかった。年越しそばを2人でほおばりつつ、この一年を振り返ることにした。
…とは言っても、ハイライトは先日の事件なわけで、それ以外は全く覚えてなかった。妻も同じだったようで、事件が発生した後、私のことをすごく心配してくれているようだった。だから、年が変わる瞬間、私たちは強く抱き合った。これで、一緒に居られることを共有した。

1995年1月1日。妻と初詣に出かけた。企業の今後の安定と夫婦の末永い幸せを願った。帰宅した後は、手作りおせちと雑煮をそれぞれの一家総出で楽しんだ。

1月3日。今年度初出勤。私の昇格が決まり、本社所属となった。また、警察から感謝状も頂いた。事件の迷宮入りを防げたのだ。

4月1日。1995年度の入社式で祝辞を述べさせてもらった。気が引き締まって、非常に緊張した。良い経験が出来たものだ。

6月6日、念願の結婚式を挙行。家族は勿論だが、高校・大学時代の友人、社長に上層部メンバーが祝いに来てくれた。責任感の必要性を、改めて感じることが出来た。妻のために、会社のために、私は戦わねばなるまい。妻の応援を背に受けて、明日から私は出勤するのだ。


こんな感じでどうだろう?小学校の作文発表会みたいになってしまったが、このようなことを経て、今、社長のポストにいる。ポストにいるといっても、そこまで怖がらなくていい。気になることがあれば、素直に聞いてもらって構わない。社員の声を聞くのも、仕事の1つだからな。それに、何かニュースがあればすぐにでもキミに伝えよう。情報を持っておくことは、とても大きな意味を持つからな。
今日の勤務はここまでにしよう。時間も、午後5時とベストタイミングだからな。よかったら、この後、食事にでも行くか?最近、キミも疲れ気味だから、スタミナの付くようなものでも食べにいこう。焼肉でも構わないよ。丁度、妻が高校の同窓会に出席しているから問題はない。高級焼き肉店でもいいんだよ?私がおごるからね。
「お願いします!」と。素直でよろしい!さぁ、行くぞ!食べ過ぎだけには気をつけろよ。

俺の日記(迷探偵、俺)

訂正情報
・7月11日(木) 本文の一部を訂正及び追加。
・7月16日(火) 本文の一部を訂正及び追加。
・7月19日(金) 権利情報を変更。

俺の日記(迷探偵、俺)

人は生きていると、奇怪な出来事の1つや2つに遭遇したりするものだ。これは、そんな経験を日記にまとめていた1人の男のお話。とある殺人事件に巻き込まれた男の一部始終を見届けよ。

  • 小説
  • 短編
  • サスペンス
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-07-09

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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