説得

那珂村コウ

「大丈夫だって、心配ないって」
「大丈夫じゃないよ、やめときなって」
「何言ってんのもう、心配性だなあ」
「そっちが不用心なの! そんなの危なすぎるよ」
「大げさだし。ちょっとご飯食べに行くだけだって」
「そんな、クラスの人と遊びに行くのとは違うんだよ?」
「時代遅れだなあ。クラスで知り合おうが、ネットで知り合おうが、そんな変わんないでしょ」
「変わんなくないって」
「いまどきは変わんないし。ミキとジュンヤだって最初はネットで知り合ったんだから」
「それはたまたま運がよかっただけだよ。みんながみんないい人とは限らないんだから」
「ヒロはいい人だもん」
「直接会ってもいないのに、何が分かるっての」
「ずっとやり取りしてたら、どんな人かくらい分かるって」
「どうする、そんなこと言って、実はオジサンとかだったら」
「いや写真見てるから。3コ上だって言ったじゃん」
「でも、会ってみたらスッゴイ悪いヤツかもよ?」
「ヒロのこと悪く言わないでよ。もう行くよ」
「待ってよ! 悪かったって。ヒロくんのことを悪く言いたいんじゃないの。ただ心配なだけなの」
「何がそんなに心配なの」
「……そうやって会いに行って、殺されちゃった事件だってあったんだよ」
「それは特別な話でしょ」
「特別って何さ」
「フツーあり得ないでしょ。そんな事件のせいで、私の行動まで制限されちゃたまんないよ」
「でも分かんないよ? そうまでいかなくても、襲われちゃったらどうするの」
「私みたいなの、誰が襲うの。いつも私のことブスとかデブとか言うくせに、こんなときだけ変な心配してさ」
「悪かったって。でも、女子高生ってだけで変な目で見る人いるんだからね?」
「そんな訳ないでしょ。女子高生なんてそこらじゅうにいるじゃん」
「それはアンタが女子高生だからでしょ」
「とにかく、ヒロはそんなことするような人じゃないから」
「それはそういうふうに見せてるだけだって」
「そんなことないって」
「あるって。男の人なんて、紳士的に振る舞ってたってアタマのなかじゃ変なことばっかり考えてるんだから」
「いい加減にしてよ。そんなこと考えてるアンタの方がよっぽど変態だって」
「アンタが世の中知らなすぎんの! とにかく、ダメなものはダメなの!」
「ヤだよ! だいだい、なんで私がアンタの言うこと聞かなきゃいけないのさ」
「そっ…………それは、お姉ちゃんだからよ」
「はあ?」
「いや、その…………」
「お姉ちゃんって言っても、双子じゃん。アンタにとやかく言われる筋合いないし」
「…………」
「とにかく、行くよ」
「待って! 夜道は危ないから――」


「――夜道は危ないから、送っていくよ」
「えっ――ああ、うん。ありがとう」
「どうしたの? ぼーっとして」
「いや、ちょっとね。ヤなこと思い出しちゃって」
「ヤなこと?」
「たいしたことじゃないんだけどさ、お姉ちゃんが口うるさくって」
「お姉ちゃん、いたんだ」
「えっ、ああ……うん……」
「どんなこと言われたの?」
「えっと……その、いろいろだよ。世の中知らないとか、不用心だとか」
「ふうん」
「あっ、いや、そう言われたのは別に――」
「たしかに、キミはちょっと不用心すぎたかもね」
「えっ――」

 そのとき、彼の手元で、何かが白く光った。
 それがナイフだと気がついたときには、私は地面に転がっていた。

 薄れゆく意識の中で、私はやっと気がついた。
 私には、双子の姉なんていなかったということに。

 もう一度、戻らなければ。
 こんなことになるなんて思ってもいなかった過去の自分に会いに行くために。
 でも、何度やり直しても、過去の自分を変えることはできない気がした。

 世界の悪意に無自覚だったあの頃に、私は何を言えただろう。


 いや、あの頃の世界に、そもそも悪意なんて存在していなかった。
 私が知らなかったのではない。世界にそんなものはなかったのだ。
 そんな世界にいた私に、私は、何が言えたというのだろう――

説得

予想される疑問にあらかじめ答えておくと、多分、過去に戻るときにはこれから起こることを言っちゃいけないとか、自分の正体を伝えちゃいけないとか、いろんな縛りがあるんだと思いますよ。

説得

人と人の、分からなさ

  • 小説
  • 掌編
  • 青年向け
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