冷めたポトフ

卓上に置かれた

ラップの敷かれたボウルの横に黄色い付箋で置き手紙

「あたためてたべてね」

あたためてたべた

たべたけれど

微かに具材の味が味蕾を徐に浸透していくだけで

食感や温度はわからなかった

ひとりでたべることには慣れた

慣れた

つもりでいた

保冷効果のある水筒

いつも氷いっぱいに入れてあった

少しだけ残っていたから

遺さず飲んだ

食材を口に運ぶより水をコップ二杯飲んだほうが遥かに容易い

安い菓子を食後にそれで飲み下し

易い歌詞を贖罪にそれで推敲し続け

浅ましい自分と決別する術を模索していた

言いなりになるのなら

言いくるめられるのなら

逃げろ

今すぐ逃げろ

はやく はやく はやく はやく

二年半使い古したシューズはいつもと変わらない表情を浮かべていた

いや 地味に口角が上がっている気がしたかな

ひとりの夜は苦しい

狂おしいほどに苦しく儚い

何十年後かの死海のような色を放って

わたしを下目線で嘲笑する憎たらしいポトフ

おしえてよ こたえてよ

きれいなものはなぜきれいなのか

冷めたポトフ

冷めたポトフ

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-07-04

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted