dream less
プロローグ
黒から生まれた黒い子供等は生まれた時から自分が一番だと思い込んでいます。彼らは互いに負かしあって一番を主張します。それが生き方なのでした。
都心より離れた場所で、人工海上都市計画が実践され、十数年に及ぶ区画整理などを経て、現在最先端の街として知られる海上都市「砂島」は生まれた。人口は年々増え、現在一千万人が住むこの街の特徴は、最先端を売りにした機能性。例えば、この街限定でこそあるが、アンドロイドの試用が成されている。自動レジの店番兼監視役、また一定間隔で置かれたスポットには、緊急時に対応しているアンドロイドが設置されていたり。残念ながら外見はロボ感満載だが、それでも愛着は湧くもので、特に駅内での車掌アンドロイド「シャショウ」は道案内から乗り継ぎ、果ては本日最安値のスーパーまで教えてくれる万能型タイプで人々から親しまれている。
もちろんアンドロイド以外にも様々な技術がある。高校では実践的な体験のため、ARでの授業があったり、オートドライバー型のタクシーは太陽光で動くソーラーカーであったり。来るだけで楽しいとまで言われいる。そんな砂島に新しく住むことになった幸運な学生が、新しい春を迎えていた。
砂島には小中高と一貫制の学校がひとつだけあり、大学からは3つに分かれ、それぞれ専門性に富むようになっている。なので当然昔馴染みというのが多い環境が出来上がる。この環境下での転校転入生はいささか馴染みにくいものだが、仲間意識はそれほど固くもなく、つまるところ普通の転校生となんら変わりはなかった。筈だった。
「今日から新しく加わる伊佐早君だ。仲良くするよーに。」
「伊佐早ミライです。砂島には来たばかりで、迷惑をかけるかもですが、よろしく。」
彼は少し特殊だった。
「席は一番後ろの空いてるとこ。あと教科書とか渡すから、この後職員室に寄って。」
「はい。」
歩きだす彼の髪は赤く、またその身なりは制服である学校のルールを度外視したロングコート。せめてコートを脱げばよいものを彼は脱ごうとはしない。まして担任もそれを咎めようとしない。
「じゃー今日の予定だけど特に無いから。近々学校祭の役割決めがあるくらい。じゃーHR終わり。」
やる気が無いのか気怠げな声の担任もまた異質ではあるが、それすらも彼の雰囲気の中では普通だった。
「伊佐早!伊佐早って珍しいな、どっから来た?」前の席に座っていた子犬のように目を輝かせた少年が、彼に興味を抱いていた。
「前までは都心の端。ってか、職員室行かなきゃなんだが、職員室ってどこ。」
「ああわかんないか、じゃ案内すんよ。行こうぜ。俺、新田っていうんだ。新田アキヒロ。」
立ち上がってわかったのは本当に子犬じみていたという事。背は伊佐早よりかなり低く、平均からみても低い方だったが、その反面活発な印象を体全体から溢れさせていた。
「てかお前セーフク無いの?それにしたってロングコートってどうよ?」
「ああ…ちょっと自分でもどうかと思ってるんだけどさ。なんて言うか事情があって…」
「ロングコートじゃなきゃならん理由?アレか。朝起きたら体が女になっててとかか。」
「まあそう思っといてくれ。いつか話すよ。」
「マジか!期待してるわ。あ、ここな」
去り際も小走りで戻っていく姿はお使いを頼まれた子犬だった。
「失礼します。伊佐早です。担任の…」
「あーこっちこっち。」
比較的広めな職員室の最奥にいた担任は手を上げて伊佐早を呼んだ。実の所まだ担任の名前は知らなかった。
「先生、教科書の量ってどれくらい…」
「あーそれは後で運んであげるから、それよりちょっといいかなぁ。」
空いていた隣の席の椅子を差し出して座るよう担任は伊佐早に促す。神妙な面持ちで伊佐早も座った。
「なんですか?」
「いやなんですか?なんだけどさ。髪はまぁ想像つくから聞かないけど、服はどーしてそれ選んだわけ?」
「あ…いや、あのですね?えっと…先生は悪魔を信じますか?」
「そこは普通天使とか神さまとかじゃない?まぁ信じてあげよう。」
「昨日契約したって言ったら信じますかね?」
「あちゃーそっち方面伸ばしてきちゃったかぁ。」
「デスヨネー。」
「で?正直に言ってなんで?制服渡してあったよね、届いてなかった?」
「いや、昨日着てみて街散歩してたぐらいなんですけど…その帰り道で…その、契約した時に…」
「破れちゃった?」
「破いちゃいました…」
「そっかー一着しか渡してなかったもんなぁ。でもアレだよ伊佐早、そうゆう時は私服でもいいんだよ?制服まだもらってなかった、とかいくらでも方便できるし。」
「え?先生?信じてます?話通じてます?」
「信じる信じる。契約はまぁ中二…アレだとしても、要は破いたのは事実なんでしょ?ならいいじゃん。嘘ついてないわけじゃん?」
「はい。嘘ついてないです。」
「じゃあ話終わり。伊佐早端末あったよね?制服買える店の場所送っとくから。あとサービスで後でもう一着はあげよう。はい解散。」
ポンッと間の抜けた手打ちで担任は伊佐早を解放した。物分かりのいい先生で助かった。と彼は思ったそうな。が、未だ担任の名前は知らない。
まだ学校も初日だから授業もないし教科書渡してないから今日はもう帰っていいよ。担任
P.S.明日からは制服で来てください。
職員室を出た瞬間に伊佐早の携帯端末に送られてきたメールは彼をさらに喜ばせた。速攻で帰った。帰り際に教室にバックを取りに戻った際、子犬こと新田アキヒロ以外は凄まじい目で彼を見ていたのは、おそらく彼の今後の悩みだねだろう。
学校を出たタイミングで都合よく例の制服を買える店の場所が送られてきた。家に帰ってもやる事はあるが急ぎでもなく、また今は少しでもこの街を歩きたいというのもあって、直に向かうことにした。
伊佐早の通う高等学校は街から少し離れたところにあり、その分運動場の確保が成されているが生徒からは店が遠いと苦情がある。さておき、この街独自のシステムであるオートバイクというものがある。自動販売機のような感覚で設置されているスポットに置かれた自転車に、利用時間料金を払うことで自転車を借りられるというもの。その特徴は砂島のロードマップを搭載したAIにより、時間が来ると自動的に元のスポットへ戻っていくというシステムだ。ちなみに利用時間の延長は出来ず、苦情も少しはあるがその融通の利かなさが逆に時間を遵守させる作用があるとして、現在改良の予定はない。
このオートバイクは各施設に常備されており、特に学校に設置されている物は料金の代わりに学生証を提示する事で使用者と使用頻度などのデータこそ見られはするがその分無料という事で学生達には人気だ。伊佐早もそのオートバイクを使って街を散策ついでに制服を買いに行こうとして、ピタリ。音が聞こえたかのように彼の動きは静止した。
「俺学生証もらって無くないか…?」
撤回しよう。彼は望んで街まで歩くことにした。
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近未来都市でアンドロイド…それ系か!と思わせてからの…です。プロローグにしても短い。こんな空気感ですってゆうお試し版だとお思いくださいませ