無駄

暗闇から見た外の明るさほど希望を与えてくれたものはなかった。自分がいまどこに立っているのかすら危うい場所で、這いずりながら出口を探した。
暗闇は恐怖をぶつけてきた。本当に出られるのか?出口なんて最初からないのでは?背後から何か得体の知れないのが自分を狙っているかも・・・
恐怖とはキリがないものらしい。
手の先に何かが触れた。生きた虫だった。気持ち悪さが思い出されると同時に弾き飛ばした。どこまで飛んで行ったか知らないが、目の前に出てきたのが悪いのだ。そう、何も悪いことなどしてはいない。
耳が捉える音は這いずる自分の音だけで、この耳が無くともなにも支障はない気がした。気がつかなかった音は、ずっと自分の事を探してくれていた音だった。
出口から這い出て、身体中に光を浴びる。人間には光が必要だ。希望だろうが、ライトの灯りだろうが、光であればそれでいい。こうも清々しいのはむしろ不気味に思ったが、心の有り様とはこうあるべきだと、誠実に生きた証を感じた。


跳ね飛ばした粗末な命など微塵も覚えようともせずに。ただ清廉を誇る、虚栄。それが誠実だった。

無駄

本当になにもしてないですか?
私は悪くないと言えますか?
あなたの手は何色に染まっていますか?
ドス暗くて汚らしい筈です。それでいいんです。
真っ白い手ではなにを掴もうと染められる。
なのにまだ清廉を主張する、くだらなさ

無駄

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-07-03

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted