赤い

16

 あからさまに欲を孕んだ指先で彼の腹をなぞると、いつもよりも赤みをさした唇からは細い息が漏れた。
「赤い」
すると彼は眠たそうに目を細めて頷く。
「体質なんです。たくさん飲むとまだらに」
 その腹には彼の言った通り、無数のまだら模様が描かれている。模様は鳩尾の辺りから臍の下まで広がっており、薄く溶かした絵具をぶちまけたかのようだった。赤くなっているのは胴体だけではない。わずかに疲れの見える顔や形のいい耳、彼の身体はすでにいたるところが赤く染まっていた。染まった部分はまるで果実のような艶やかさで、とりわけ普段は快活な光を宿した瞳が美しい。その光は今や濁った満月のようである。ふ、と吐かれた息からアルコールのにおいが立ち上った。
「眠りたい」
 しっとりと腹に吸い付かせた手のひらも無視して、彼はその瞳を閉じる。情欲のままにその無防備な首筋に唇を寄せると、あはは、と色気のない笑い声がひとつ上がった。首筋からはコロンとタバコ、疲れた都会のにおい。顔を上げると、彼のもう一度開かれた満月と視線があう。粘性のある膜を張った白目が、どろりと光を反射していた。ああ、彼もひとしく都会に飲み込まれ溺れている。

赤い

赤い

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日 2019-07-02

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