僕の足は、こんなところで疲れて。

フランク太宰作品集

僕の足は、こんなところで疲れて。

僕の足は、こんなところで疲れて。

ディープ・サウスを知ってるかい?
暑い日差しにもかかわらず、力強い太陽の姿は見えない場所。
凍るような寒い夜にも、輝く月は見えない場所。
今日も体の何処かが痛い、しかし何処が痛いのかは分からない、そんな場所だ。
ひょんなことから、ここへ来た。
金になる甘い話があったんだ。でも、今になって考えれば、嘘っぱちだった。
"カリフォルニアには雨が降らない"
そんな話と一緒だよ。
現実世界は何時でもどしゃ降りだ、何処にいたって。
昨日、借金の取り立てが俺の部屋に来た。脅しにかかってきたが、今の俺には抵抗する気力も命乞いする気力もなかった、いっそう懐に隠してある拳銃で頭を吹き飛ばしてもらいたいぐらいだった。
借金取りは柄にもなく、まー勝手なイメージであるけども、派手なスーツもシャツも着ていなかった。サングラスはしていたけれど、黒い普通のスーツ姿だった、恐らく高いものだ、少なくとも就活スーツではない。
彼は一通り脅しをしてから、こう言った
「あんちゃん、金が返せないなら、仕事してもらわなきゃな、お前が悪いんだよ、俺も仕事をしてるだけだ。まー少しは同情するがね」
現状を考えると、どうしたって 金は返せない。それに借金取りは俺を殺してはくれないだろう。だから真夜中にベランダを飛び出し何処かへ逃げたんだ。
ドアから出たんじゃ、監視している借金取りにばれるかもしれないし、個人的にベランダから飛び出したいとは常々思っていた。異常な行動だと人は思うだろうが、俺には朝から晩まで真面目に働き、たまった洗濯物を週に一回、ベランダに干す一連の行動を続ける、一般的な若者の方がよっぽど異常に見えたし、時間になったら洗濯をし、旦那が帰ってきたら飯を作り、子供には偽善的な道徳心を教え込む一般的な主婦層の行動も、バチカンの淫乱な神父と同じに感じられた。
とにもかくにも、俺は月の輝かない、寒い夜に飛び出した。黄ばんだシャツに革のジャケットを羽織っただけの姿で。
月の代わりに、せっせと街路灯が俺を照らしていた、大通りに出ると、これまた一般的な酔っぱらいがフラフラと道を歩いていた、他にも金色の髪をした男とショートヘヤーの女が寄り添い合いながら、ホテルの方へ向かって歩いていた。
彼らは人間として、ずいぶんと正直な醜態を見せつけているのに、俺には自動車工場の鉄板にネジを差し込むだけの、ロボットとの違いがわからなかった。
そんな大通りを走り抜け、駅へ向かった、なぜ駅なのか?
何処かへ行くにも、真夜中じゃ終電もない。
しかし、俺はこんな、歯車仕掛けの世界から、ただただ抜け出したかった。
ポケットの中の金の事を考えてみれば、そんな遠くに行ける気もしなかったが。
駅の建物が見えたとたん、俺の足はなぜか突然疲れて、動かなくなり、体はその場にへ垂れ込んだ。
回りを見渡と、そこには何もなかった。
一見、広野に放り出された家畜の気分になったが、よく見ると、ブランコが見えた、そして、その奥のベンチでは新聞紙にくるまった爺さんが寝ていた。
そう、此処は公園だ、子供のいない公園。
俺はその場に寝転がった 、背中は小石でゴツゴツと違和感があったが、そんなことはどうでもいい。
そして、星もない、暗いだけの空をただ、見つめた、そうしていると、暗い空にふと満月が姿を現した。
月ではウサギが、せっせと餅をついていた。

僕の足は、こんなところで疲れて。

僕の足は、こんなところで疲れて。

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