支配と依存
マーブル模様を描く、コーヒーとミルク。あのひとと、ぼくが、まじりあったときの、ぼくの分量、あのひとの割合、は。
造花を、いっぱい詰めた、トランクは、いつのまにか海に浮いていたし、あしたも、あのひとがぼくを好きになる確証は、微塵もなかった。
夏になったらプールに行こうという約束は、ぼくとあのひとのあいだでは、成立しなかった。あのひとは、水に顔をつけるのが、苦手なのだった。でも、いつも、たばこを吸っている、あのひとは、女児が好みそうな、かわいいキャラクター小物が好きで、ぼくは、たばこのけむりにすぐむせるけれど、あのひとからの甘噛み程度の(と、あのひとは思っている)暴力には、なれつつある。美しい、夏の入道雲と、焼けるように熱い、アスファルト。それから、蜃気楼。首を絞められたとき、見上げた、あのひとの部屋の天井には、水面が映っていた。まるで、プールの底に、沈んでいる感覚で、あのひとが満足するのを、じっと待っていた。苦しんでいる表情を、見せればよかったのかもしれないが、あのひとは、ぼくの首を、絞めているようで、じつは、ただ手を、指を、添えているだけであったことを、あのひと自身が、気づいていなかったので、かわいそうだと思ったのだった。ぼくの好きなひとは、かわいそう。
真夏の動物園の、ライオンみたいに、ぐったり眠るあのひとが、好きだ。
あのひとは、グラスいっぱいの、少し触れただけで、いまにもあふれそうな水を、抱えているみたいだ。冷房を、がんがんにつけた部屋でするセックスの、心臓が爆発しそうな快感を教えてくれたのは、あなたなのだから、責任を取ってほしい。
ぼくは、あのひとの、たばこをはさんだ指を、盗み見ながら、アイスコーヒーをごくごく飲んだ。芸能人の、誰々が結婚した、と報じるテレビのワイドショーを、あのひとはきっと、なにも思わず、考えずに観ていて、そういうところも好きだなって、思った。
支配と依存