命の在り方

先日書いたエッセイ『たかが待ち受け』の続きになります。

モラハラ気質な元彼Yと、なぜすぐに別れられなかったかと言うと……。

彼の鋭い攻撃をもろに受け入れてしまったことで私自身が自己肯定感をどん底まで落としてしまい、物事の判断能力を鈍らせていた。それもおおいに関係ありますが、それ以上に、彼の親友Hの存在が大きく横たわっていました。

先のエッセイにも登場した、Hです。

彼は、私達との交流中、ある日突然、自ら命を断ちました。
訃報を受けた時は信じられない思いでした。
ただ、予兆はあったのです。

亡くなる前日、HはYに、会いたいと電話していました。
アパートで一人暮らしをしていたH。
彼は、何か話したそうにしていたそうです。
でもYは、私との時間を優先したかったとのことでその誘いを断り、後日また会おう。と言って電話を終わらせたそうです。
いつもなら一人暮らしのHの元へすぐに駆けつけていたのに、なぜかその時はそうしなかったのです。

Hの死の真相はいまだに分かりません。

あくまで勝手な想像なので当たっているかは自信がないけれど、私なりの考えを書きます。

Hは多分、寂しかったのです。
親友がいて彼女がいてもなお、孤独感が拭えなくて人知れず苦しんだのではないでしょうか。
(この時彼女とは別れていたそうですが、時系列順に、私から見ている体でこう書きました)

なぜそうなるに至ったか。
誰かに自殺の罪を与えるような物言いはしたくないのですが、どうしても私の頭はこの結論を導き出してしまうので書かせて下さい。
Hは、親友Yにも言えなかった思いを心に閉じ込めていた。だから一人思い詰めてしまったのではないか。そう思います。

『たかが待ち受け』でも書きましたが、Yは酔っ払った勢いでHの彼女とキスをしました。
私が傷つきYに腹を立てたように、Hだって相当嫌な思いをしたと思うのです。だって、親友だと思っていた男が酒を飲んだらそばにいた彼女にキスしてしまうんですからね。
彼女だって、驚いただろうし不快感極まりなかったでしょう!彼氏の親友にキスされてしまって、後々、二人はケンカや気まずい空気になったかもしれません。
もし私が彼女だったら、Yの顔にグーパン三発くらいかましてやりたいと思うほど憤る案件です。

それくらい、女性にとって性的な行為はデリケートなことです。それを分かっていない男性のなんと多いことか。
話がズレましたので戻します。
Yのしたことは、大きな罪で。
酒のせいにしてやっていいことではないはずです。

Yは、酔った勢いでキスしたことなど酒の席の出来事だと軽い認識をしていましたが、それは間違っています。
亡くなってしばらくしてYから聞いたのですが、結局、Hは彼女と別れていたそうです。様々な理由があり離れたのだと思いますが、キスの件は無関係ではなかったはず。

Hの遺体を目の前にして、Yはむせび泣きました。
私は声を我慢し静かに涙をこぼしました。
他に二人いたHの友達も、瞳を閉じた彼に向かって声をかけていました。
窒息しそうなほど重たく苦しい空気の中、耳にするのが最もつらかったのはHのお母さんの泣き声でした。

警察から渡された、透明なビニール袋に入ったロープ。Hの自殺の方法は首吊りだったらしく、それに使われたロープは遺族の手に渡ったのです。
遠方に住んでいたHの両親からしたら、遠くに住む息子の突然の死。
一人自活しながら元気に働いているとばかり思っていた両親は、大きなショックを受けました。

どうして死んだの?
なんで?
死んでほしくなかった!

叫ぶように何度もそれらの言葉を繰り返し、Hのお母さんは袋入りのロープを悔しそうに握りしめ泣いていました。
似たような光景を、ドラマでなら何回か見たことがありました。作り物でもひどく悲しかった。ドラマと比較してはいけないと思うほどに、実際の出来事は心がえぐられるようにつらかったです。
私は子供を産んだことがないしこの先も産む予定はないけれど、お母さんの痛みが自分の中に落ちてきたかのように、よけい涙が溢れて止まりませんでした。

お母さんは、Hを産み育ててきた人なんですよね。
可愛い赤ちゃんの頃から、反抗期の難しい年頃まで。

享年二十三歳でした。


通夜から帰ってきて二人きりになると、Yは私に言いました。

Hが亡くなったのは慶ちゃんとの時間を優先してしまったからだ。俺が悪い。あの時電話で、Hは何だか寂しそうな声をしていたから、慶ちゃんを放置してでもHに会いに行けばよかった。

Yの人間性に、さらに愕然とした瞬間でした。
反省するの、そこ?と。
見えているようで、この人何も見えていないのだな。と。

ただ、YもYでひどく苦しみ、日々罪悪感を膨らませていったようでした。

だから、私はYを見放せませんでした。
馬鹿ですよね。
そんなひどい男、放っておいて逃げるべきです。
今の私ならそうします。
けれど、当時の私はYを独りにはできなかった。
情けなのか、情なのか。

それだけ、人一人の命が失われてしまうということは、周りに大きな影響を与えることもあるのです。

自殺はいけない。などと、短略的で無責任なことは言いません。言うつもりもありません。
それぞれ人の事情は異なります。Hと違い、泣いてくれる両親や友達すら本当にいないという、物理的あるいは精神的に孤独な環境下で生きる方もみえるでしょう。

それでも、どうか、これを読んで下さる方がみえるなら。それだけで感謝したいです。
ただ、読んで下さってありがとうございます。
身勝手な持論に耳を傾けて下さった。
それだけで、書いた意味がありました。

どうか、思い詰めないで下さい。
自分を大切にしてください。

偉そうに言える立場ではありませんが、言いたくなりました。

長文、付き合わせてすみません。
書けてよかったです。

命の在り方

命の在り方

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-06-27

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