ラプソディーカフェの情景

フランク太宰作品集

ラプソディーカフェの情景


この街は今日も雨だ、皆何も知らないままに。

 

このカフェに集まる連中は基本"暗い"。
今時、チェーンの喫茶店に行けないような奴等だから、察しはつくだろうが、全員が全員、なにか心に痼を持っている。
取り出せない痼が今日も疼く。
ところで、ここのマスターは変わっている。作るコーヒーは豆の買い入れから、保存方法、牽き方まで完璧だ。したがって、絶品のコーヒーを出す、一杯380円で。この街でもっとも高いクオリティーのコーヒが出せる店、もっと客で賑わっても良いだろうに。
しかし、賑わいはこの店には不必要だろう。
マスターは何も喋らない。
 "はい"という言葉で精一杯だ。
別に無愛想というわけではく、にこにこと笑い深く礼を下げる。
だから、変というのは語弊があるのかもしれないが、私はあることに気がついた。
マスターはカウンターの中の調理場からよく、店内を見ている、そして客を見る。
その目は何かを探しているようだ。1分程度の行動なので客は気が付かない。この行動は少なくとも私からすると不思議に思える。私も長らくマスターと同じ様な仕事をしていたが、わりかし客というものは、どうでも良いのだ、悪く言えば"財布"である。少なくとも堅気の人間であればだが。
今日もこのドイツ風レンガ造りの内装の寂れた店にお馴染みの客がやってくる。
ほらほら、やって来た。あの地味な服装で髭を蓄えた眼鏡男は作家だ。カウンターにいつも座る。悩ましく頬図えついて、手元で何かメモをとっている。
よくみればメモ帳には支離滅裂な言葉や下手な絵が書かれている。要するに何もアイディアが浮かばないのだ。身なりからして、売れっ子ではないのだろう、未だ若いんだから他に仕事を探せば良いのに。まっ、そう単純でもないのだろうが。
彼はいつもクリームと砂糖をたっぷりコーヒに入れる。悪いことじゃない、しかし、糖尿には気を付けなきゃいけない。
そして向こうの席に座っているのは"パンパンの姉ちゃん"だ。あっ、すまない、
"パンパン"何て言葉は今は使わないか。要するに"体が資本"の商売をしている。
悪いことだとは思わない。昔は私もよく世話になった、吉原とか墨東とかでね。あの時代はよかったよ華やかで、女も綺麗だった。
彼女だいたい、いつも、エスプレッソを一気に飲み干す。気っぷがいいお嬢ちゃんだ。
しかし、前に一度、涙目で店に来てパンケーキやらカレーやらを注文して泣きながら食べていた。苦労があるのだろう、私にはどうすることもできないけれど。あのときはマスターも苦労しただろうね、パンケーキを注文する客なんていないのだから。
そして、あれ?
見たことの無い奴等だな、カップルで来やがった。この店にカップルなんて似合わぬものを。
しかし、焦っているな、二人して。それに男のシャツの袖からは"悶々"が覗いている。こりゃ堅気じゃない、女の方も分けありだろう。
 どれ一つ盗み聞きでも
男「頼む今なら、親分も若頭もいねぇ、だから」
女「無理よ危険すぎる」
男「頼むよ」
男は涙を流し始めた。
そのタイミングでマスターが注文を取りに来た。ここのマスターは空気を読まないことができる。二人はアイスコーヒーを注文した。
女「仮に逃げられたとして、あなた変われる?私だって綺麗な女じゃない」
男「お前は綺麗だよ、俺も変わる、いや、今ならお互い変われるんだ、絶対に」
女「でも....」
マスター「アイスコーヒーお持ちしました」
二人の会話は止められた、一旦。
男の方は一気にアイスコーヒーを飲み干した。
女「コーヒ、ブラックで飲めるようになったんだ」
男「ああ、頭に鍛えられたんだ、そんなことより....」
女は男のことばを遮りコーヒを男と同じく飲み干した。
そして
女「あー苦い、大嫌いよ。もう行くんでしょ、用意は全部終わったの?」
男「あ、ああ」
女は立ち上がり男の手を引っ張った。男はよろけながら立ち上がった。
いつだって女は男より強い。人間の取扱説明書にも書いてあることだ。
二人は会計も手早に済ませ、釣り銭をもらうこともなく、雨の街へ消えていった。

 いいものがみれたね、これがあるからやめられない。
1922年からやっているんだから、もう長いよ。

 だって来年は2019年だろ?
はぁー大正は遠い昔だ。
 

ラプソディーカフェの情景

ラプソディーカフェの情景

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更新日
登録日 2019-06-26

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