満月とライオンと王女

フランク太宰作品集

満月とライオンと王女
  1. 満月とライオンと王女
  2. 3年前のAの日記
  3. Aの日記 二
  4. とあるダンサーの日記

満月とライオンと王女

草原の草の根の擦れ合う、音が聞こえる。満月の優しい光が大地に降り注ぐ。
僕の前には。焚き火の火が、この大地において唯一の異端者であるがごとく、強い光を放つ。動物達はこの異端の炎を恐れ近づいては来ない。
僕の太ももには女王が眠る。暑い毛布にくるまり、まるで芋虫を思わせる。横たわる女王の前には、全体的に青く中心に赤い星がプリントされている、さっきまで、暖かい羊の乳が入っていたカップが置いてある。そのデザインはどこかの共産圏を思わせる。しかし、社会主義も資本主義も遥か遠い話だ。この永遠世続くように思える、緑の大地にはイデオロギーは必要ない。
女王の顔が焚き火の光で照らされる。美しい横顔だ。おでこが広く、鼻が高い、そしてどこまでも白い、白人の肌よりも遥かに。彼女の顔がはアジアの誇りといっても過言でない。まさに女王の名に恥じない顔だ。例えどこの国の王族でなくとも、領土拡大を続ける、蛮族の姫でなくとも、僕にとって彼女は女王だ。僕は彼女に全てを捧げている。遠い北の極寒の大地で、出会った頃から、それは変わらない。僕は大変、光栄に感じる。今僕の膝の上で女王が眠っていることを。
ふと、視線を感じると僕の前方、焚き火から十メートルほど先に獣がいた。よくみると、それは立派な毛を生やした、オスのライオンであった。僕は銃にてをかけようとしたが、不意にライオンと目があってしまった。僕はライオンと強く見つめあった。僕は女王とここまで強く目と目で見つめあったことはなかった。それはあまりに不躾に思えたからだ。
ライオンと見つめ合ううちに、ライオンはテレパシーを使って話しかけてきた。
彼は言った 「馬鹿者がいつまで、その女に固執するのだ。貴様がどんなに願ったところで、その女はてに入らない、今、お前の太ももの上に居るのは、お前の妄想が作り出したものだ。本物は今頃、どこかの大都市で一人か二人か、それとも三人の子供達と暮らしているだろう。いつまで、お前はその女に苦しめられるのだ!お前はその女のために、どれだけの時間を無駄にした!?どれだけのチャンスを無駄にした!?いくらだって、他の方法で幸せになれただろうに」
うるさいライオンだ。
ライオンの話は終わらない、彼が話している間、僕は願い続けた。早く女王の安らかな寝顔を見つめたいと。#__i_ed8d0e4f__#


・患者Aについて
「また彼は例の女の夢をみたらしいわ」
白衣を着た髪の長い、女医がカルテを机に投げた。
コーヒーを飲みながら、椅子に座っていた男性医がカルテを手に取った
「患者A、27歳、身長165センチ、強い妄想癖ありて社会生活を送るのは難しいか」
「で、その例の女っていうのは、誰なんだい?」
女医が答える。
「家族の話では、彼が海外で生活しているときに会った女らしいわ、でも実際に会ったのは二三回だそうよ」
女医はそういいながら、コーヒーブレイカーに近づいていった。
「馬鹿よ、どうかしてる」
男性医が答えた。
「どうかしている人たちのための、わが病院だよ。投げ出さないでくれ」
「わかっているわ、でもかわいそうで、彼も、その家族も」
男性医はコーヒーカップをもったまま、椅子を回転させ、窓の外を見た。窓の外には、紅葉も終わり、たんに葉のない骸骨のような木と白い空が見えた。風の音がする。外はそうとう、寒いようだ。彼は呟いた「忘れじの人か」
そして、たっぷりのミルクと砂糖の入った、コーヒーをすすった。カップの色は青だった。

3年前のAの日記

彼女と最後にあったのは、9月だった。二年前と変わらず彼女は美しかった。
しかし、確実に大人になっていた。
私は彼女のためにここまで来たのだ。
彼女ともう一度で会うために。でも、どうだい、 全て無駄であった、彼女は私のものにならず 、彼女は私を気持ち悪く思う。彼女には美しい男がいるのだ。であるから、私は何であろう?
もう、半年もあっていない。友人ですらない。ただ彼女が別れ間際に携帯で見せた。「私の部屋に来ますか」の文字は文明の力のミスであったのだろうか?何故、あのままバイバイしてしまったのか。どうして私たちは言葉が通じないのか。何故人類はバベルの塔を立てようなどと思ったのか。
君よ全てが間違えだ。間違いに間違っている。君は幸せに成れない。君はこんな時代にそんな感じで生まれてしまったのだから。中国女もそれを察したのさ。
 君は本当に無駄に生きている。

Aの日記 二

そう、あいつは狂人になっちまつた。
自分も人生を悔いて悔いて、とうとう。私がワルシャワにいるときに絶縁した。人の話ではあいつは私を羨んでいるようだ。バカなやつだ。何を羨むと言うのだろう?
 しかし、あれほど苦難を共にしたというのにひどい話じゃないか。友情とはそれほどのものなのだろうか?それとも、彼奴が狂っているだけか?何にしろお互い真に幸せに慣れそうにもない。きっと似た者同士だ。私も狂っている。

とあるダンサーの日記

Tap踏める者達は限りなく幸せに思えて、我もと思い立つも、向き不向きの定め理解し、楽しみなく生きる人の一人となりて我悲しくも仕方の無い事であろうと半ば諦める。
もし、上手く踊れる人であれば悲しさも辛さも、今よりましでありて、後悔無き人生送れるる様に思う。我Sammyであらば、人々に幸せ運べる人になれる。
無駄に生きることも、辛きかな人生。
楽しく可笑しく生きようではないか。時代変わるのならば、我の根本も同じく変わらんかと。
死を諦め、生きるも諦めることはできないと、確信しならば安息の地を求める旅人となりて世界中を回りたく思う。でなければ、ただ後悔のうちに我廃人となるしかなく、それは我自身、納得するところにあらず。できれば世界変える人になりたく思は我の欲望なり。ではまず自身からと、努力するも壁高く、何時の時も我影の下で一休みしたまま。

満月とライオンと王女

満月とライオンと王女

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