絶命の少女
ぎゃあっっ!!!
と、知り合いのおじさんの悲鳴が聞こえる。
そうやって今日も、私は人間の死を意識しながら一日を終えるのだ。
私の棲んでいる場所は、狭くて閉塞感のある小屋で、
私は5歳の時からそこに入れられている。
生まれてから5歳までは、産みの母親の元で育てられていたけれど、
何故だか両親は私を育てることを放棄し、小屋の中に入れられた。
きっと私の傍には死人が絶えないからだろう。
生きていく為の糧は、全て揃っている。
食物の育て方は専門の先生に教わったし、肉は食べられないけれど、
魚は、近くに河川があるから、そこで捕ってくれば食べられる。
何不自由なき生活。だけども、そこに人同士の結託はない。
人とコミュニケーションすることは無く、当然摩擦も生まれない。
私の心は空っぽだ。
だけれどさっきおじさんの悲鳴が聞こえたように、
私が人の輪の中に入れば、必ずその輪は乱れることになる。
人の秩序を崩す女の子。
私は、死の匂いに包まれながら、悪魔に愛でられながら、
生きている。
人が最初に死んだのは、いつだっただろう。
2歳の時?いいや、もっと前からだ。
そう。それはもう、私の記憶が残るより前。
きっと、私が生まれてからすぐ始まったことだ。
私の幼いころの記憶は、白衣の男性と、人々の喧騒と、
両親の喧嘩しあう声と、お祖父さんとお祖母さんの哀しげな表情と、
周囲の人々の好奇と畏怖の入り混じった奇妙な視線。それぐらいだ。
別に、拒絶したい感覚はない。
ただ今が何もなくて、この空白をどう埋めればいいのか、
そればかりを考える日々を過ごしている。
周囲には、誰もいない。
私は、人を殺すぐらいなら(故意ではないけれど)
早急に誰かが殺してくれればよかったのに、と考えることもあるが、
そこにもきっと責任やら呪いやら色々な事情があったのだと思われるので、
息苦しいけれど、思考を閉ざす。
私は、小雨の降る頭上の空を見上げた。
雲は隙間なく埋め尽くされており、そこに私の居場所はなかった。
私は、地上に足を縫い付けられている。
どうすればいいだろう。
今日、縄で首を絞めて自分を殺そうと試みた。
けれども結局は、誰もいないこの場所で死んだところで、
何も変化などしないのだ。
だから、私は死ぬことを放棄した。
放棄した後で、息苦しいまでの罪責感に見舞われた。
自分さえ、生まれなければ。
そう。考えて。
憎しみが芽生えた。
それから少女は、復讐の為の人生を始めた。
復讐に終結などない。
それを、少女は知らない。
けれども少女は、それだけが生きる糧だと信じている。
焼けつくような胸の痛みと身を滅ぼす、人間への憎悪。
それだけが、空っぽな少女の、歩むべき道標。
絶命の少女