世界は、それでいいんだよ
春の訪れと共に、町にやってきた行商のペンギンの、背負うリュックがぱんぱんに膨らんだ頃、夏が迎えにきて、ペンギンを、次の町へと誘う。そんな季節の移り変わりを、ぼくは、きみと、ときどき、手を繋いで、学校の屋上から、見ている。深夜の、空が、深海を想わせる頃の、きみの瞳に宿る星が、好き。
チョコミントの色をした、女の子のスカートが揺れて。
コンビニで買った、梨のジュースを、飲んでいる。夏だけど。きっと、それ、梨の果汁より、砂糖が多いよ。きみが指摘して、ぼくは、原材料名を読んで、でも、おいしいからいいや、と思う。消えない痛みとか、拭えない悲しみとか、忘れられない怒りとか、そういうのをすべて、封筒につめこんで、ポストに投函して、知らない土地に配達されて、そのまま、燃えていいのに。封筒は、便箋しか受けつけないし、便箋は、文字を書かないと、拗ねる。
行商のペンギンは、アイスキャンディを売り歩いており、でも、確か、冬季限定だったはずなのだけれど、原料が雪なので、しかし、さいきんのペンギンは、クーラーボックスのなかに雪を入れており、それで、アイスキャンディを作っているそうな。ぼくたちは、あまり、ペンギンと、はちあわないので、うわさで、そう聞いている。あの、荒稼ぎしたお金、どうするんだろうね。という話題は、きまぐれに、ぼくと、きみのあいだで持ち上がり、適当に思いついた意見を述べ、ペンギンも、何かと物入りなんだよ、という結論で、その話は終わるのだった。
チョコミントの色をした、スカートの女の子たちが、深夜の町で、踊る。
ぼくたちは、季節が、春から夏へ、夏から秋へ、秋から冬へ、そして、ふたたび、冬から春に戻ってくる瞬間を、無感動に見ている。
世の中が、好きなものばかりで埋め尽くされたら、最高だと思うときは、少し、つかれているときで、きみが、どうしようもなく眠い日は、夜が、いつまでも明けないでと祈るとき。
吐息に、色がついている。
女の子たちの、笑い声が、深夜の町にこだまする。
梨のジュースは、果汁より、砂糖が多くても、梨の味がするから、それでいいよ。
世界は、それでいいんだよ