第8話-22

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 ビザンは妹が身体を軽く震わせ、唇を水中でわななかせながら語る事柄が虚言と、軽々しく断定することはできなかった。

 だが彼は科学者であるから、自らの眼で見ない限り真実と断定することはできず、顔を困惑の色に本当に染めた。

「とにかくキューブを調査、分析してみよう。これがなんであるかを判断できれば、あらゆることが解決する。わたしはそんな気がする」

 そういいつつも、なにかが判明したとき自分に浴びせられる万雷の喝采を夢想していた。

 2つのキューブは水中に浮遊して、兄妹の頭部よりも少し上部の位置で停止し、紫色の水が周囲から突如現れ、キューブを包み込んだ。そこから一筋の紫の水の筋がビザンの脳へ進み、額と繋がった。これでデータが脳が膨大な処理装置となっているこの種族に直接データが伝達される。

 結果はすぐに判明した。それだけ単純な構造だったのだキューブは。

「成分は純粋なヤクト。内部に空洞はなし。完璧なるナクヤクトの塊だ」

 彼らの言葉でヤクトは銀を意味する。つまり銀の塊ということだ。そこに兵器的要素も科学的要素も皆無という結果だった。

 これには兄妹も訝しく顔を青くする。

「しかもだ。製造された年代はここ数週間の間だ。これがどうしてあんなことができたのか、今の段階では判断できないってことだ」

 ツルッとした頭に長い指の手を乗せ、ビザンは困った顔をした。

「それじゃあどうしてお父さんはこれを商人から? 昔から探してたということでもないってことでしょ?」

 その時だ、水中を大声がつんざいた。

第8話−23へ続く

第8話-22

第8話-22

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-06-17

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