時空を超えて

ドリーム

佐伯雄一は工学博士号を取得している化学研究所の職員であり、自宅は鉄工所兼製作所をしている。

第一章 タイムスリップ 
1

 数日前にやっと父の葬儀を終えて佐伯雄一は製作所兼鉄工所の中にある事務所でパソコンの前に座って、ぼんやりとしていた。急に父が亡くなりショックが隠せないでいた。母も学生の頃に他界し、とうとう一人ぼっちになった。まだ嫁さんも貰っていない。こんな事になるのだったら早く結婚して孫の顔を見せて上げれば良かった。
 あまりにも研究に没頭する毎日で、それを考えると後悔するばかりだ。パソコンに取り入れた父のスナップ写真を何度も眺めている内につい涙が頬を伝う。
 パソコンの画面はスクリーンセーバーが丸い円を描き何事もなかったように同じ動作を繰り返している。長身でガッチリした体も父に逝かれて大きな体を小さく丸めていた。雄一は残された鉄工所と同じ敷地にある製作所を閉めることに決めた。母も十数年前に他界、父は落胆したが辛さを忘れる為に会社経営に没頭して来た。
 四十数名が居た従業員には残りの給料と退職金を支払って、この鉄工所と製作所はまもなく閉鎖する事になっている。
 父が居ない今となっては引き継ぐのは困難で、もともと雄一は工学関係の研究所に勤めていた為に、製作所と鉄工所の後を継ぐのは親父が引退してからでもいいと決め込んでいたのだが、経営のイロハも知らない雄一には無理だった。 
 父は癌に侵されて三ケ月と経たないうちに、あっと言う間に他界してしまった。この不景気で経営には素人の自分では持ち堪えられないと判断して、経営を断念するしかなかった。
それに宇宙工学研究には興味があったし、将来は科学衛星を宇宙に送り出すことが夢だ。大学を卒業して博士号を取得して六年、研究所では三十二歳にして主任を務めるまでになっていた。その夢が適った時こそスッパリと諦めて親父の後を継ぐことにしていた。親父は嘆くだろうが借金まで重ねて経営したのでは、それこそ無一文となり草葉の陰で父は、もっと嘆くだろうと思ったからだ。
 親孝行と行ったら自分が勤めている研究所が独自に開発した新型ソーラーパネルを、この製作所に依頼し売り上げに貢献した事くらいだ。

 まだ六月なったばかりだというのに、上空で雷が一週間も鳴り続けている。これは異常としか言えようがない。それは親父の嘆きが聞こえてくるような、そんな思いで雄一は雷の音を聞いていた。それにしても空は不気味な鉛色をして稲妻が何度も走っていた。
 東京は府中競馬場近くに佐伯鉄工所はあった。それと府中飛行場があるせいか、周りは意外と民家も少ない。雄一が勤める研究所には愛用のトヨタ・ランドクルーザーで、四十分前後で行ける新宿まで通っていた。父が残した鉄工所兼製作所の敷地と自宅を合わせて、五万平米ほどの土地を有していた。有名な容積物で例えるなら、東京ドームとほぼ同一の面積だ。土地だけでも大変な資産家だ。それから一ヶ月後、従業員の人たちと、お別れ会を開き、正式に佐伯鉄工所及び製作所は閉鎖した。そして今日も上空は鉛色の空で覆われ、相変わらず雷は鳴り続けていた。
 気象庁では異常気象と発表していたが、連日テレビでは地球温暖化に拠るものではないかと、専門家を交えて報道されていた。
 雄一は研究所に会社を整理する為に長期の有給休暇届けを出してあった。
 葬儀と鉄工所兼製作所の整理の為に、何よりも従業員の配慮に時間を有した。 
 長年、父と共に働いて来た人達だ。何も分らない息子が閉鎖すると言ったから、それは驚くし無責任すぎる。だが経営は困難な状況になっていたし、従業員には同業者の会社と交渉して三社に別れるが、全員働けるように手配を終えてホッとした処だった。

 雄一が勤める研究所からはソーラーパネルの材料を頼まれていた。ソーラーパネルの部品や関係する材料が倉庫には山積にされていた。倉庫といっても学校の体育館ほどの大きな建物だ。大型トレーラーが鋼材を積んでくるので、倉庫の中央が道路のようになっている。そのパネルの見本を自慢の愛車ランド・クルーザーに乗せて、明日研究所に届ける事になっていた。その他にも四千CC誇るセルシオを持っている。これは父と兼用で使っていたが、今では遺品のようなものだ。
 鉄工所に残された鋼材やアルミ、ソーラーパネル版、工業機械、化学薬品など鉄工所の資産を整理していた。更に製作所の方には大型蓄電池や、製作所に必要な機材が山ほどある。更に停電に備えた自家発電装置ある。それを業社に売り渡し為パソコンに製品の内訳など打ち込んでいた。
 その時だった。物凄い轟音と共に稲妻が走ったかと思うと、強烈な光が上空から敷地周辺を照らした。とう言うより襲ったと言った方が合っているかも知れない。目が開けて居られない程の光が覆った。まるで戦争映画で見る照明弾のようだった。光が強すぎて一面が真っ白になり、そのせいか一瞬気を失ったようだ。
気がついたら顔がキーボードの上に被さっていた。それは何分かの時間だと思うのだが意識が飛んだ事は確かだ。我に返って見ると停電していた。ヤバイ! 雷が落ちたかな? と雄一は思わず叫んだ。

 案の定、停電してパソコンと蛍光灯の明かりが消え、事務所の灯りも一斉に消えていた。雄一は被害がないかと事務所の外に出ようとしたが、敷地内は青空から太陽の光が降り注いでいるのに製作所の塀の辺りから濃い霧に覆われている。雄一は濃い霧の中に入って行ったが視界は二メートル先が全く見えない。
 雄一は外に出るのを諦めて、非常用の自家発電のスイッチを入れた。
 ほどなくモーター音が響いて電気は回復した。工場では停電などに備え数台の強力な発電機を持っている。停電だからと言って製作所や鉄工所の作業は止められない為に大型の発電機が必要なのだ。発電機に使うガソリンの貯蔵庫を備えてあるが、ソーラー発電も利用している。せっかくパネルがあるのだから利用しない手はないと父に進言したものだ。
 工業用の物でかなり大きい。制作所で組み立てたソーラーパネルを製作所と鉄工所の屋根いっぱいに貼り付け、工学博士ならではの技術を加えて強力な発電力がある。一般家庭の二十軒分にも相当する発電装置だ。これには生前の父も喜んでくれて、唯一の親孝行だったかも知れない。鉄工所と製作所で使う電源は万が一に停電になっても、ソーラー発電と自家発電装置で使う電気を賄えるが自慢だ。雄一はテレビを付けた。だが画面はザーとなって何も映らない。さてはアンテナに雷が落ちたか? 
 本当に薄気味が悪い霧が漂う。それにやたらと静か過ぎる。遠くに見える筈の競馬場の明かりもまったく見えない。
 仕方がなく雄一は霧が晴れるまで待つことにした。退屈しのぎに近くのゴルフ練習場で働いている友人に電話を掛けてみたが、だが無音だった発信音もしない。それならと携帯電話を取り出して電話をした。しかしこれもまた無音だ。いつも通じる筈なのに(圏外)と携帯電話の画面に表示された。やはり異常気象で電波もおかしくなったのかと思った。雄一は諦めてパソコンをネットに繋ごうとした。だがこれもまた繋がらなかった。

「嘘だろう! これでは陸の孤島じゃないか」
と笑うしかなかった。だが電気はまだ回復していない。ソーラー発電とセットになった大型蓄電器の容量を調べたが充分に電量は残っている。また翌日になれば曇っていても、かなりの電気を作り出してくれる。雄一はその晩は早めに休んで、明朝にでも雷の被害を調べることにした。 翌日六時くらいに目が覚めた。だが一向に電気は来ていない。大きな災害でもない限り一日近くも停電になるなんて生まれて初めてだ。
 大きな被害でも出たのかと思いながら外に出てみた。だが今日も濃い霧は薄気味悪く敷地の塀周辺に纏わりついているような。だが敷地内は穏やかに晴れて爽やかな風が吹いている。フーと背伸びをした。
 「さて今日は、久し振りに研究所に顔を出すか」
 と研究所の仲間たちの顔を思い浮かべて、雄一は早く研究所の仕事に戻りたくてウズウズしていた。

 敷地を囲む外壁と敷地の角ごとに、数十本の鉄柱が十メートルくらいの高さで立っている。その柱にもそれぞれ工場全体を照らすサーチライトが灯るようになっていて夜間でも外で作業が出来るようになっている。近所への雑音防止の為に塀は高く防音設備も兼ねている。外から見ればまるで、刑務所の堀のような感じがする。それも仕方がなかった、どう思われようと騒音で苦情がくるよりはいい。近くにはまったく建物が無いわけじゃない。工場や民家はちゃんとある。防音には気を使っていた。
 その塀は三メートルの高さがある。敷地内にはフォークリフト五台、ブルドーザー二台など工業用重機、十五トントラック一台に四トントラック二台、軽自動車二台などが置いてある。そのトラックには、鉄骨や鉄板を積み下ろしするクレーンが付いている。
 型は古いが山道も登れる二百五十CCのオートバイに乗って一番近い自動車修理工場に電気が来ているか見に行くことにした。 
 敷地内は晴れて空には青空が見えているのに、工場の門の辺りから外は別世界のように相変わらず濃い霧に包まれている。まるで敷地内を取り囲むような薄気味が悪い霧だ。オートバイのライトを点けて、その霧の中に入ったがライトの光も霧に遮られて二メートル先が見えないほどだ。雄一はゆっくりとオートバイを進めた。三十メートメルくらい走った所で門の外に出て十メートル程進んだ途端に霧は消えて視界が見渡せるようになった。だが、ある筈の舗装道路が見えない? それどころか、まるで林のようではないか?
 「な! なんだぁこりゃあ? 一日で林になる訳がない舗装道路もない? 俺は夢を見ているのか」

つづく

時空を超えて

時空を超えて

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 時代・歴史
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-06-11

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