永遠の観測者
願望はない、夢もない、欲はない、腹は減らない。
滅びかけた地球で、海はなく、コンクリートに囲まれた湖だけが点在している。大雨がふり、嵐が吹き荒れる。大地は荒れ、凄まじい寒暖差が昼夜を揺さぶる。最後にのこされたコロニーは、球状の中心にある塔をそそりそびえたたせていた。
そこは地の底だった、地の底には、人間の生産物をろ過する半分人間の死人のような人々しかいない、彼等ももはやおいた。後継者はいない。若いころには嫉妬があった、それも向上心からかけ離れたものだ。
コロニーが惑星のあちこちにできたとき、昔大陸の中央に柱ができて、もはや科学は人間を半分ロボットに変えた。地球環境は悪化して、最後には、一つの大陸にすべてが集まった。そこでもとより高い能力を有する人間は、地の底をはいでて上をめざした。家族や友人さえも時折犠牲にして、そしていつしか塔は柱になり、秀でた能力の高い人々は高身を目指して宇宙にとびたった。
醜きものたちは掌の番号それだけを手に乗せ、それだけが人間個体の識別手段になる、鋼鉄の体で細胞を覆っていつか自分たちの出番が来ることを願う。そのうちにも嫉妬はたまり、見下すものを見下し、否定すべきものを否定する。そのうちに何も生れないことをしりながら。肉体のサイクルは矛盾をかかえ、けれど死はそれを救わない。死はそれよりも長い苦しみ……細胞は悪く利用されてしまう。
同じ時間、さらに最下層、上ることを諦めたものたちは、ただ上から降りてくるものを消化し、自然に戻す作用を働かせる。階級差はさらに広がって、けれど最下層の住民にも気が付いたことがある、不満をいえば、ここにとどまれる。その最下層。嫉妬も向上もない最下層で働きくらすものだけが、かつて人間が平凡だったことをしっている。
嫉妬、怒り、不満はない、いつからだろう、そこにいるはずの誰かを見失ってしまったのは。
永遠の観測者