眠れない夜にチーズバーガーとバニラシェイク

あおい はる

 都会は、いつも、ぼくにつめたいのではなく、都会という場所の、漠然と建てられたようなビルや、めまぐるしく変化する流行や、まいにち残業して、心からつかれているサラリーマンや、ひとごみにうんざりしながらも、かわいい洋服や、おしゃれな雑貨屋さんや、海外から出店してきた最新スイーツのお店に、うっとりしている女子大生や、志高く上京してきたものの、テレビで観ていたような生活には程遠く、挫折を味わい、そのまま生きる希望すら失ってしまった若者なんかを、都会、という場所は、受け入れ、傍観し、ただ、ひたすらに、傍観し、つまり、見ているだけの、ものだから、つめたく感じるのだと思ったときの、ぼくは、二十四時間営業の、ハンバーガーショップで、深夜二時、べつに、おなかがすいているわけでもないのに、チーズバーガーをもくもくと食べ、バニラシェイクをずずずと啜り、ときどき、思いついたように、スマートフォンで、いつか行きたいところの、街の、国の、情報を、調べていた。
 夜は、どうしても、長い。
 でも、ちゃんと、ぼくにも、平等に、朝は訪れているので、安心している。いまは。
 ともだちからもらった、たばこを、吸わずに、突き返したときのことを、思い出す夜は、なんとなく、逢いたくなるひとがいる。アルバイト先の、七つ年上のひとだけれど、いつも、香水のにおいと、たばこのにおいが、うまいぐあいにまじって、ふしぎな香りを漂わせている、ひとだ。黒く、ゆるいパーマのかかった、肩まである髪を、耳にかける瞬間、いつも、どきどきしている。骨ばった指に、ごつごつした指輪を、していて、その、指輪をしたままの、指で、さわられたいと、祈ることもある。やさしさを、するどい、ナイフのように、突き刺してくるので、ぼくはもう、ちょっと、恋に落ちかけていて、困っているのだけれど。恋とは、ぼくを、どうしようもなくするもの、なので。
 となりの、となりの席の、スーツを着たお兄さんが、眠いのか、おおきなあくびをして、フライドポテトを一本、くちのなかにはこび、ゆっくり咀嚼をしては、はんぶん、閉じかけた目をこすり、ふたたび、フライドポテトを一本、くちにいれている。
 窓から見える、おなじく二十四時間営業の、ドラッグストアの、看板の明かりだけが、夜の、闇のなかに、ぼんやりと浮かぶことはなく、都会は、眠らないで、そう、たとえば、眠りたくても、眠らせないように、できている気がする。
 ぼくは、例の、アルバイト先の、ひとの、指輪で着飾った、指で、からだを撫でまわされる想像を、しながら、戒めみたいに、夜をひとり、越えている。

眠れない夜にチーズバーガーとバニラシェイク

眠れない夜にチーズバーガーとバニラシェイク

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
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CC BY-NC-ND
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