DREAM

Shino Nishikawa

DREAM

夢の意味は、全て良い。

DREAM
フィリピンの高校で、窓際の席で眼鏡をかけ、読書をするフェリックス青年。
「あんたさー、俺たちより年上なんだろ?フェリックス先輩!」
男のくせにチビのレイチェルは、友人たちと戯れながら、フェリックスを冷やかした。
「それが、どうかした?」
眼鏡をかけ直しながら、フェリックスは聞いた。

「別にー。でも、へーんなの!」
「あははは!ダメだぞ、そんなこと言っちゃ。」
ジャスティンが、レイチェルをこつんとした。

「フェリックスさんって、子供の時にインドから来たんですよね。大変でしたね。」
アンジェロが言った。

「うん、そうだよ。どうして知っているの?」
「お母さんから聞きましたよ。」
「そうだったのか。」

「もう行こうぜ。」
「では、僕たちはこれで。」

「あいつ、インドから来たんだなー。」
レイチェルが言った。
「そうだよ。だから子供の頃から、学年が一つ遅れてしまったんだ。」
「ふん。」
レイチェルはフェリックスを睨んだ。


次の日、体育委員会の者が、クラスマッチの説明をした。
競技は、バスケ、バレー、サッカー、野球、ドッジボールがあるらしい。

レイチェルはつまらなそうに、机をガタガタと鳴らしたので、眼鏡のフェリックスはレイチェルをちらりと見た。
フェリックスは聞いた。
「どうしたんですか?レイチェル・アンダーソン。」
「すみません。クラスマッチの競技に興味がないので。」
「でも、クラスマッチは、全員が強制参加です。必ず、どれか選んで参加してください。」
体育委員が言った。
「えー、やだ。」

授業が終わり、レイチェルの下にジャスティンとアンジェロが来た。
「レイチェル、クラスマッチに興味がないってマジ?俺、超楽しみだぜ。」
「興味がないのはマジ。クラスマッチの競技にはね。」
「じゃあ、何ならやりたいだよ?」
「体操。」

「体操?」
「オリンピック競技のだよ。」
「それはもちろん分かるさ。お前、体操が出来るのか?」
「わかんない。でもさ、レスリングのマットで一度回転できたんだ。」
「ああ‥。」

ガタン
フェリックスは立ち上がった。
「フェリックスさんは、何に出るんですか?」
アンジェロが聞いた。

「まだ決まってない。」
「そっか。」

「こいつ、体操やってたんです。」
ジャスティンがレイチェルを指した。
「やってねぇよ。」
レイチェルが言った。

「いいね、頑張って。」
フェリックスはにっこりと笑った。

フェリックスは、早足で家に戻る。
塾を見て、うつむいた。
フェリックスは塾に通わせてもらえていない。
「何かスポーツをすればいいのに。」
背が高いフェリックスに、両親はそう言った。

「でも、僕、医者になりたいんです。」
フェリックスがそう言うと、ガンジーに似ている父親が言った。
「お前をインドから養子に迎えた時、この子は、将来、すごい事をすると思った。
成長する過程を見て、それはきっとスポーツ選手としてだと感じたよ。」


少し年上の若者がたむろしていて、お洒落な先輩マイケルが、フェリックスに手を振った。
フェリックスもニヤリと笑い、手を振った。
「知り合いかー?」
「うん。」
マイケルは立ち上がり、ダンスを始めた。
他の若者もダンスを始めて、楽しそうにしていたので、フェリックスは振り返り、嬉しそうに笑った。


家に帰ったレイチェルが母親に言った。
「クラスメイトのフェリックスさんって、俺たちよりも一つ年上なんだぜ。」
「ええ、そうみたいね。フェリックス君のお父さんと、お母さんはハトコなのよ。」
「えー、そうなの?」
「うん。だから、フェリックス君に酷い事をしないでね。」
「わかった。」

「兄ちゃん、いつ帰ってくるって?」
「わからない。大学の勉強は大変だからね。」
「へー、つまんない。‥あー、クラスマッチ、出たくねぇ‥。」
レイチェルは、本を顔の上に広げた。

「ただいま。」
お父さんが、小学生の三男パトリックの手をつないで、帰ってきた。
お母さんが聞いた。
「おかえりなさい。パトリック、塾の勉強、どうだった?」
「楽しかった。」

「うわー、きもぉ‥。」
レイチェルは、パトリックをじろりと見た。
「パパー。」
「なんだ?レイチェル。」
「俺さ、体操競技をやりたいんだよ。」
「あれは特別な物だ。レイチェルには無理だよ。勉強をしろ。パトリックのように。」
「えー、なんでだよ!!」
「ダメ。あれは難しいんだ。」

クラスマッチの日、レイチェルはドッジボールをすることになった。
同じドッジボールに参加をする、フェリックスが話しかけた。
「レイチェル、今日はよろしく。」
「はい‥。」

「頑張れよー!」
アンジェロとジャスティン、他のクラスメイト達も応援をしている。
ピー
ホイッスルで試合が始まり、
「うっ‥。」
フェリックスはすぐに球に当たってしまった。
「トロー。」
レイチェルは、フェリックスを睨んだ。
最後の一人にレイチェルが残ったが、最終的には負けてしまった。

応援席で、クラスの女子ベラが言った。
「お菓子作ってきた。」
「えー、嘘でしょ。」
他の女子は怪訝な顔で、ベラを見た。
気にせず、ベラはクラスメイト達にお菓子を配り始め、クラスメイト達は少し引いて、お菓子を受け取った。ベラは美人だが、変わっていたので、少しだけ嫌われていた。
「ありがとう。」
アンジェロだけが笑顔で受け取った。アンジェロはベラの事が好きだったのだ。
ベラは自分が嫌われている事を知っているようだった。それでも、普通に振る舞うベラを尊敬していた。ジャスティンも無表情でベラを見たが、アンジェロはベラを嫌う必要ないと分かっていた。アンジェロにとって、ベラは生き方の先生のようだった。

試合を終えたレイチェルとフェリックスに、アンジェロが言った。
「ベラがお菓子を作ってきてくれたよ。」
「うえー。」
レイチェルが舌を出した。
「ベラさん、お菓子ありがとう。」
フェリックスがベラに声をかけた。

アンジェロとジャスティンは、サッカーに参加をした。
ジャスティンは、小学生の頃はチームに入っていたが、中学ではテニスをしていたので、サッカーからは離れていた。
アンジェロは中学でサッカーをしていたが、クラスマッチだからといって、なめていた。
かなり本気の試合だ。
ジャスティンは、高校までサッカーを続けている奴に、目の前で、ボールで遊ばれたが、クールだと思い、立ちすくんだ。

「何やってんだよぉ!」
レイチェルが言い、
「大丈夫?」
アンジェロがジャスティンにたずねた。
「うん、ごめん。」
そう言って、ジャスティンはまた走り出した。

「がんばれー!」
フェリックスが大声で応援した。

アンジェロはPKのチャンスに恵まれた。
ちらっと見ると、ベラも応援している。
アンジェロは、PKを決め、チームは勝った。
チームメイトにハグされながらも、アンジェロはベラを見た。

帰り道、アンジェロ、レイチェル、ジャスティン、フェリックスの4人で歩く。
ジャスティンがフェリックスに聞いた。
「フェリックスさん、よければ、僕らの仲間に入りませんか?」
「仲間?もうなっていると思うけど。」
「ああ‥。」

「それ、グループのことだろ?」
アンジェロが言った。
「そう。フェリックスさんも、俺たちのグループに入らないか?いつも俺たち、3人で行動しているだろ?」
「えっ‥。いや、僕、普段、グループとかそういうの全く意識していなかったから。」
「じゃあ、無理?」
「無理じゃないけど‥。」

レイチェルが言った。
「あんたさー、年上なのに混ぜてもらっているんだから、もうちょっと俺たちに合わせてくれてもいいんじゃないか?」
「わかった。時間が合う時は、一緒に過ごそう。」
「よし。」
「これから、よろしくね。フェリックスさん。」
ジャスティンとアンジェロが言った。

お昼休憩や、空き時間に、フェリックスは、3人と一緒に過ごすようになった。
ジャスティンは高1の途中だが、サッカー部に入部することにした。

アンジェロとレイチェルとフェリックスの3人での帰り道、レイチェルが言った。
「明日、おじさんのレストランが新装開店するから、パーティーをするんだ。よければ、来ないか?」
「マジ?行きたい。」

フェリックスが言った。
「レイチェルのおじさんのレストランって、イタリアン『トマ・トパ・セリ』だよね?」
「うん。」
「あそこの料理、美味しいから、家族と一緒によく行くよ。」

次の日、トマ・トパ・セリには、ジャスティンを含めた4人と、レイチェルの家族や知り合いが集まった。
「うわああ、美味しそう。」
おじさんは、定番料理や新メニューをふるまった。

フェリックスが聞いた。
「あの子は、レイチェルの弟?」
「うん。小学生なのに、塾に通っているんだぜ。」
「そうなんだ‥。」
フェリックスは、少しだけ悲しくなった。
「算数のテストで、0点を取ったから、親が許したんだよ。」
レイチェルは、手でお金ポーズを作った。

満腹になると、大人達はワインを飲みながら、談笑した。
悪い事をしている連中は、経営について聞いてくる。
その後、人の悪口だ。
大抵、普通の人達は、自分の家の工事の話や、自分の畑の話、仲間同士の思い出話、最近の近況を話すだろう。
あとは、家族の話や、人から聞いた赤の他人の話をしたりする。

子供達4人は、人の悪口を話す事をしないようにしていた。
でも、学校の先生については例外だ‥。
あとは、興味がある分野の話や、その分野の有名人の話‥。
学校の誰と誰が付き合っているとか、そういう話だ。
あとは、○○君が、どこ大を狙っているとか、進路の話‥。

「体操やりたいよ。‥お母さん、俺、体操競技やってもいいだろう?」
レイチェルが大声でたずねた。
「ダメ。」
「やだやだやだやだ。やりたいよ!」
レイチェルは泣き始めた。

「お友達の前でみっともないわよ!」
「レイチェル、おじさんが、パソコン使っていいってさ。」
お父さんが来た。
「ホント?イエーイ!」
レイチェルは元気になった。

「ほらほら。行きましょう。」
「すまないね。」
両親は、レイチェルをパソコンの前に連れて行き、残りの3人は苦笑した。

レイチェルはソリティアをやっている。
「どうだ、楽しいか?」
お父さんが聞いた。
「すごく楽しい。」
「よかったな。」


夜、アンジェロは、両親に言った。
「レイチェルが、オリンピック競技の体操をやりたいんだってー。」
「そうかい。」
「俺もやってみたいなー。」

「体操は危険だから、止めておきなさい。」
「えー、やだ。やりたい。」
「ダメ。ケガでもしたら、どうするの?」
「そうだよ。お前には、天性の才能がある。」
父親は、アンジェロの手を握り、壁を見た。
アンジェロが描いた絵が貼ってある。

「漫画を描いてみたらどうだ?」
「きっとすぐにベストセラーになるわ。」
両親は言った。
「そうかな‥。」
アンジェロは照れて、鼻をかいた。

「ただいま。」
弟が帰ってきた。
「おかえりなさい。」

「オスカー、ピアノを弾いてくれないか?」
「わかった。」
弟のオスカーは、華麗なピアノ曲を弾いた。

「兄は絵の天才、弟は音楽の天才。うちは恵まれている。」
両親は幸せそうにした。


フェリックスは、社会勉強のため、街を歩いて、知らない道を見つけるのが好きだった。
「あれ?」
マイケル先輩たちが、ビルにぞろぞろと入って行く。
「こんにちは、マイケル先輩。」
「おお、フェリックス。俺たちは今日、このビルにあるダンススタジオで練習をするんだ。プロのダンサーが見に来る。よければ、見学をするかい?」
「いいんですか?」
「うん。もちろん。」

フェリックスは、先輩たちのダンスを見学し、最後の方は混ぜてもらった。
「結構、うまいじゃん。」
マイケルは笑い、フェリックスとハイタッチを交わした。


休日のサッカー部の練習の休憩中、ザカライアが、ジャスティンに聞いた。
「やっぱり、プロになりたいか?」
「うーん、それはまだ分からない。そこまで強くなれるか、自信がない。」
「そうだよな。でも、やっぱり、俺はプロに憧れている。」
「そうか。頑張って。」
ジャスティンは笑い、ザカライアと握手をした。

ジャスティンはプロになるなら、一次リーグでないと意味がないと思った。
それでも、下が強いから、上が強くなるものだが、二次リーグや三次リーグで、必死で練習しても、もらえるお金が少ない。
それで、副業をして、サッカーをしても、一次リーグの奴らに永遠に叶うはずがない。
人生のドラマチックな急展開は感動するが、サッカーはやっぱり、早いうちから目を出しておく必要があるだろう。
その方が有利になる。

サッカーの動きがかっこいいし、鍛えていい男になりたかった。
でも、ワールドカップの選手のような体になるには、一体あと何年かかるのだろう?
正直‥ジャスティンが考えてしまう事は、
『サッカー選手って、本当に、サッカー選手になりたかったのか?』

結論を出そう。
『俺はいつか、サッカーを辞めてやる。』
俺は、何になりたいんだ?
答えを言おう。
『俺は、君のための男になりたいだけだ。』

君が誰かは、まだ知らない。
君に嫌な思いをさせたくない。
本音を言うけど、
『安全な奴らじゃない。サッカー選手は、君に嫉妬させたいだけ。』

それでも、君が好きなら、俺はサッカーをやる?
答えはノーだ。俺はサッカーをやらない。未来ではね。
ただ単に、いい男になりたいだけから‥。
そうすれば、君は、絶対に、僕に振り向くだろう。

なんでもそうだが、一流の道を歩みたいのなら、
『神様との約束』が絶対に必要になる。
結婚や子育ての道でも、神様との約束が何か分かれば、一流の道を行くだろう。
男と女が出会い、真っ当な愛を貫くことは、本当に道徳的な事だ。

スポーツ選手になって、海外でトラブルにあった時、仲間が辞めることになっても、
神様との約束がある選手は、守られるだろう。

サッカー選手は、下手なスキャンダルを見せるので、それが嫌だった。
あの下手くそなスキャンダルは、素人が考えた物だろうか?

スターになれば、一番大切な人が、自分の姿を見えなくなる。
だから、ずっと、想い続け、語り掛ける必要がある。

そうしないと、自分が海外の試合に行っている事を知らず、その人はずっと一人芝居を続けることになる。そして、テレビを見て、絶望する。
ネットニュースを見て、絶望する。
下手くそなスキャンダルで、手首を切る。

大好きなスターの下手くそなスキャンダルで、ファンは、長く続けた会社で雄叫びを上げる。
そして、首になる。

自分がパーティーや飲み会に出席している時、運命のその人は、あなたに料理を作って、一人芝居をしている。

『そういう事が、スターになると、起こるらしい。
運命の女性よ、未来で会おう。
僕は必ず、君を幸せにする。』
ジャスティンは思った。

学校の休み時間、アンジェロとレイチェルとフェリックスは、談笑しながら、廊下を歩いた。
ジャスティンは、サッカー部の男子と仲良く話している。
3人はジャスティンを見て、「よぉ。」ジャスティンは声をかけた。

「最近、あいつ、外れている。」
アンジェロが言った。
「そうだな。アイツはもう、グループ卒業かもな。」
「えー、そんな。せっかく仲良くなったばかりなのに。」
レイチェルとフェリックスが言った。

ドン
教科書を両手で持ったイーヴィーが、アンジェロにぶつかった。
「ごめんなさい。」
「ううん。」

「イーヴィーちゃんってさ、アンジェロの事が好きなんじゃない?」
レイチェルが言った。
「えー、そうなの?ごめん、俺、他に好きな人がいるから。」
「へぇ、その人、誰?」

ちょうど、ベラが前から歩いてきたので、アンジェロは下を向いた。
フェリックスが言った。
「こんにちは、ベラさん。」
ベラは無視をした。

「アンジェロの好きな人を教えてよ。」
フェリックスは気にせず、聞いた。

「もしかして、アイツか?」
レイチェルがベラを指した。

「うん。」
「ええ~!」
「じゃあ、告って、付き合えばいいじゃないか。」
「そうだね。機会があれば、告ってみる。」
「うまくいくといいね。」
フェリックスが言った。


「一緒に帰る?」
「うん。」
しばらくして、アンジェロとベラは付き合うことになり、休み時間以外は、アンジェロはグループを辞めた。

「アンジェロが女と付き合うなんて、すごいよな。」
「そうだね。」
レイチェルとフェリックスは2人で帰り始めた。

レイチェルは体操の話を始めた。
レイチェルにとって、体操の話を真剣に聞いてくれるのは、夢で会う神爺さんとフェリックスしかいない。
白いシャツを着たさわやかな男ネイトが通ったので、フェリックスは声をかけた。
「ネイト、さよなら!」
「また明日!」


立ち尽くすイーヴィーに、ネイトが声をかけた。
「イーヴィー。どうしてこんな所にいるんだい?」
「ネイト。ちょっと、友達を待っていたから。」
「それって、アンジェロの事?アンジェロなら、ベラと付き合い始めたから、もう無理だよ。」
「分かってる。」
「そんなに、アンジェロが好きだったの?」
「そこまでじゃないけど、まさか、アンジェロがベラを好きだったなんて、知らなかったから、悲しいわ。」
「気を落とさないで。イーヴィーには、僕がいるよ。」
ネイトは、イーヴィーの事が好きだった。


夕方、アンジェロとベラは、公園のベンチで過ごしていた。
子供が遊ぶ姿を、母親が見守っている。
アンジェロがベラにキスをしても、こちらを見ないことが不思議だった。

こちらをずっと見ていない。多分、2人は今、透明人間なんだと思った。
2人は楽しくおしゃべりをして、アンジェロがベラの手をとり、何度かキスをした。

夕方、暗くなってきて、2人は歩きだす。
部活終わり、おしゃべりをしながら自転車をこいでいたジャスティンが振り返って、2人を見た。

「ただいま。」
ベラが家のドアを開けると、弟と母親が心配そうにこちらを見た。
「おかえりなさい。」
「あの‥、お父さんは?」
「上司の家に行っているわ。」
「そう‥。」

「あなたの学校のリリーちゃんのお父さんが、うちのお父さんの上司なのよ。」
「そんな。」
リリーは、ベラと同い年だった。

「ただいま。」
「おかえりなさい。」
母親のカリスタは、夫であるベラの父親のジェイラを愛していたので、どんな仕事でも許していた。
それでも、思春期のベラには、友達のお父さんが、父親の上司というのは、気になる事だった。

「おはよう、ベラ。」
次の日、アンジェロが、ベラに声をかけた。
「おはよう。」
ベラは、アンジェロと話すと心が落ち着いた。
でも、本当は、それが良くない事だった。

ベラは思春期で、母親が父親を愛する気持ちなど、想像出来なかった。
父親の仕事がうまくいっていない事に、腹を立てていた。

さらに、リリーは読者モデルをしていて、ベラはモデルがしたくて泣いたが、出来なかった。
時々、ベラは学校でも自撮りをしてみた。でも、うまく撮れなかった。

アンジェロと話して、心が落ち着くのは、今のベラにとっては、麻薬のような危険があった。

アンジェロと学校でもキスをして、ベラは放心状態に陥ってしまうが、アンジェロもそれが分からなかった。

レイチェルとフェリックスは、アンジェロが何をしているのか分かっていたが、ベラを困らせているかは分からなかった。
でも、念のため、聞いた。
「アンジェロさ、学校でも、ベラさんと会うんだ?」
「うん。」
「お互いのために、少し、離れてみたら?」
「あー‥、今度、話してみる。」
アンジェロは言った。

授業の合間に、ロッカーでぼーっとするアンジェロに、ジャスティンが耳打ちした。
「ベラとキスしていただろ。」
「なんで、知っているの?」
アンジェロは赤くなった。
「見えたから。お前たち、気をつけろよ。学校でキスをしたのをバレたら、2人とも、退学になるぞ。」
「わかった。気をつける。」
アンジェロは少し落ち込み、ジャスティンはアンジェロを睨んだ。

イーヴィーは、アンジェロを見つめた。
「ベラの事、そんなに好きなの?」
「うん、お前には、関係ない。」
そう言って、アンジェロは、教室に入った。

正直言うと、アンジェロは、イーヴィーにも少し興味があった。
ベラは、窓際の席で静かに教科書を見ている。
以前、クラス内で、付き合っていたカップルがいて、先生に大声で叱られていた。
悪い事はしているのに、自分にはそういう事が起こらなったので、不思議だった。

でも、ついに、その日がくる。
1限目に化学の授業があったが、先生は開始時間を10分すぎても、現れなかった。
すると、学年主任と、教頭が入ってきた。化学の女教師も、後ろで睨んでいる。
「ベラ・ワーナー。こっちに来い。」
ベラが呼ばれたので、アンジェロは息を飲んだ。

ベラは、仕方ないというように立ち上がったが、足も心も震えていた。

廊下に出たベラに、学年主任が静かに聞いた。
「リリー・ハーマンを殺したのは、ベラか?」
「はい。」

「ああ‥。」
教頭と、化学の女教師は、本当に残念そうな声を出した。

「警察に一緒に行こう。」
「うん。」
ベラは、嗚咽して、化学の女教師がタオルでベラの口元を抑えてくれた。

1時間、先生は戻らず、チャイムが鳴った。
心がキンキンしていた。
廊下に水があり、みんな、それをよけた。
アンジェロは、それが何か分かり、拭こうとした。
でも、化学の女教師が首を振り、雑巾で、水を拭いた。

アンジェロは、膝がガクガクして、全身で震えた。
震えは、次の授業中もその次も止まらなかった。
心配したフェリックスとレイチェルとジャスティンは、アンジェロに話しかけたが、アンジェロは震えを抑えることができなかった。
3人は、ベラがアンジェロと校内でキスをしたのが、バレただけだと思った。
アンジェロも、それだけだと信じたかった。

でも、そうではない。ベラは、リリーを殺し、警察に行ったのだ。
警察に来た両親は泣き、刑事に謝り、母親は土下座をした。


「ベラが捕まったってさ。」
ネイトが涙目で、フェリックスとレイチェルとジャスティンに言った。
「どうして?!」
3人は息を飲んだ。

「リリーさんを殺したんだって。」
「なんてことを。」
「どうして殺したんだ?」
「リリーさんのお父さんが、ベラのお父さんの上司で、嫌がらせをしていたんだって。」
「酷いな。だからって、殺すことないじゃん。」
それでも3人とネイトは泣き、教室のアンジェロを見た。

アンジェロはまだ机にいる。
イーヴィーが心配して覗き込んだ。
「大丈夫?」
イーヴィーが、アンジェロの手をさわり、アンジェロもイーヴィーの手を握ったので、ネイトは目を開いた。

「気にすることない。あなたは何もしてないのだから。」
イーヴィーは言った。

3人はアンジェロがグループに戻ってくることを、内心喜んでいた。
アンジェロが立ち上がり、トイレを漏らしているかと心配して、ジロジロ見たが、漏らしていなかった。
帰りは、4人で帰った。
アンジェロは呆然として、口を開いてくれなかった。
3人は、アンジェロの家まで送り、迎えたアンジェロのお母さんに、ベラの事を話した。
母親は、部屋のベッドで眠るアンジェロに声をかけたが、返事はなかった。
父親も帰ってきて、声をかけた。
アンジェロは返事をしなかった。というよりも、何も聞こえなかったのだ。

レイチェルとフェリックス、ジャスティンも、泣いて、両親にベラの事を話した。

次の日、アンジェロは学校を休んだ。
ベラと歩いた道を見ると、ナイフで心がさされているような気分だった。
橋の上で、アンジェロは立ち尽くした。
曇りだった空は、晴れてきたので、恨めしい気持ちで、アンジェロは天を見上げた。
橋の下に降りて、大きな石で、太ももを叩いた。

『アンジェロ、太ももは無いとダメなんじゃない?』
「うん、じゃあ、どうすればいい?僕はもう、終わりたいんだ。」
『終わるのはダメ。私達が、愛し合う事が、できなくなる。』
それは、イーヴィーの声だった。

次の日は、アンジェロは登校した。
アンジェロは両親に、エンジェルに近い名前を与えられていたので、神や道徳に反する行為をしたくはなかった。
イーヴィーは、アンジェロに近寄らず、女友達やネイトと話したので、アンジェロは気が楽だった。
体育の授業では、陸上用のパンツをはき、アンジェロが思い切り走ったので、レイチェル達は安心した。

『どう?もうすぐお別れになる膝の感覚は。』
「へ?」
授業中、頭の中に声が響いたので、アンジェロが教室を見回すと、レイチェルが『静かにしろ。』のジェスチャーをした。

それでも、アンジェロは、ふとした瞬間や夜は、涙がこみ上げ、時には大声で泣いた。

ベラが捕まってから1カ月後の雨の日、アンジェロは、ダンプカーにはねられた。
アンジェロは膝から下を失くした。

アンジェロに、家族が声をかけ、最初はよく分からなかったが、だんだんと聞こえてきた。
オスカーは、「ずっとお兄ちゃんのそばにいる。」と言った。

レイチェル、フェリックス、ジャスティンも来た。
アンジェロはトイレに行かれないので、繋がれていたが、3人は気にしなかった。
3人は、アンジェロの体の上で泣いた。
アンジェロも泣いたが、3人が帰る頃には、気が楽になっていた。

「これ、お兄ちゃんに買わない?」
オスカーは、両親に、本格漫画用の画材の資料を見せた。
「まだ、アンジェロには無理だ。」
「どうして?お兄ちゃんは絵を描けばいい。」
「なぜ、こんな事になったのか‥。」
父親はうなだれ、母親は泣いた。

オスカーはため息をつき、ピアノの前に座った。
楽譜を書き始めた。なんでもいいと思った。
兄を励ますためだけの曲だ。
オスカーは目を閉じ、素晴らしい曲を弾いた。
この曲で、演奏会をすれば、きっと、素晴らしい技師が、兄のために良い義足を作ってくれるはずだ。
もしかしたら、兄も、音楽ができるかもしれない。
オスカーは、バイオリンのカタログを見た。

「何をしている?」
赤い目をした父親がのぞいた。
「え?」
「アンジェロが退院して帰ってきたら、ピアノを弾くな。」
「なんでだよ。」
「うるさいんだよ!」

アンジェロは義足が無く、トイレに行かれなかった。
だから、車椅子で、トイレに行き、ズボンを降ろしてから、トイレに座るしかない。
若い男の看護師が来た時は、拒否をした。
だから、男の老人看護師が来て、アンジェロの手伝いをした。
あとは、オムツにするしかなかった。
でも、オムツを脱いだり、捨てたりは出来た。
でも、ベッドの上でしっかり拭くことが出来ないので、大体はそのままにするしかなかった。
風呂に入った時、何もでなかったので、天使のはからいがあったように思えた。
風呂に入った時は、老看護師の手伝いを拒否した。
アンジェロは、手だけで浴槽に向かったのだ。

アンジェロは、ベラ宛てにメールをした。当然、返信はない。
両親が、友達に迷惑をかけちゃダメだと言ったので、アンジェロは、アドレスを変えた。

イーヴィーは、アンジェロの病室をのぞいたが、アンジェロは寝ていたので、お花とお菓子と手紙を置いて帰った。

アンジェロと理学療法士は、義足の相談をした。
理学療法士は、アンジェロに新しい人生の提案をした。
パラリンピック選手の話や、障害があってもうまくいっている人の話をしたので、アンジェロは理学療法士を好きになった。

退院をした時、アンジェロは老看護師にハグをした。
両親は、医師や老看護師に頭を下げた。

アンジェロは、良い気分になり、オムツを外した。
良い感じだったが、やっぱり膝から下がないと、感覚がちがったみたいだ。
本を読んでいたアンジェロはトイレを漏らし、アンジェロはトイレの中に倒れ込んだ。
父親が入ってきて、片付け、アンジェロにオムツをつけるように言った。

高校の勉強を始めたが、
「こんなのもう意味ないじゃん。」
アンジェロは大泣きした。
あまりにもアンジェロの元気がないので、父親がアンジェロの頬をうち、アンジェロは仕方なく、勉強をした。
数日後、オスカーが、アンジェロに漫画の本格画材セットや書き方の本を渡し、アンジェロはようやく、少しの元気を取り戻した。


「やっぱり、メール届かないよ。」
ジャスティンは、レイチェルとフェリックスを見た。
「アンジェロの家に行ってみようか?」
フェリックスが聞くと、レイチェルが言った。
「この前、行ってみたら、アンジェロのママが入れてくれなかったんだよな。」

『ごめんね、今は無理なの。』
『えーなんで!』
レイチェルは悲しくて、泣いた。

『俺、部活辞めます。』
『そうか。仕方ないな。』
ジャスティンはうなずいた。

『フェリックス、また一緒に踊らないか?』
『あの‥実は、友達が事故にあって、両足を失くしたので、スポーツを控えることにしました。』
『えっ、マジ‥?』
マイケル先輩と仲間は顔を見合わせた。

『ダンスとか、あんまり意味なくねーか?』
仲間の一人が言い、マイケル先輩たちもダンスを控えることにした。


レイチェルは赤い目で、体操の雑誌を見て、投げ捨てた。
それでも、上半身を鍛える事には意味があると思ったので、筋トレをした。

アンジェロが両足を失った事は悲しかったが、周りの人の不幸を奪ってくれたようだった。
みんな、悲しみの中でも、心がすっきりしていた。


アンジェロの家に、刑務所のベラからの手紙が届き、父親がゴミに捨てた。
『なんで、そんな事するんだよ!!』
アンジェロの亡霊が見えたが、すぐに消えた。

「こんにちは。これ、アンジェロ君に渡したくて‥。」
イーヴィーは、お気に入りの歌を集めたCDを作ってきた。
「ありがとう。よければ‥アンジェロに会っていく?」
「はい。」
イーヴィーは、アンジェロの家に入った。
「アンジェロ、お友達が来たわよ。」
アンジェロはイーヴィーを見て、笑みを見せた。
「イーヴィー、来てくれたの?」
「うん。CDを持ってきた。」
「ありがとう。」
アンジェロはジーンズの先を結んでいたが、以前のハンサムなアンジェロのままだったので、イーヴィーは安心して、満面の笑みをうかべた。

アンジェロは漫画の練習をしているみたいだ。
「漫画を描きたいんだ。」
「それは良い事だわ。」

「義足もきたんだけど、まだ慣れないんだよ。」
「そうよね。」
「最初は杖を使わないと、無理だと思う。」
アンジェロは言い、イーヴィーは黙った。

「少し痩せたみたいだけど、大丈夫?」
「うん。あんまり食欲がわかないんだ。外に出ると、みんなが僕を見るから、外食もできない。」
「鍛えてみたら?パラリンピック競技もあるし。」
「それも、いいかもね。」
「地元に、車椅子バスケットボールのチームがあるから、入ってみたらどう?」
「分かった。義足に慣れたら、見学に行ってみる。」

「ベラを待つつもり?」
「うーん‥。決めてはないけど、誰とも付き合えないんだ。神様の掟に背く事になる。」
「それは良くないことだわ。」

アンジェロは家でトレーニングをし、義足をつけ、なんとかトイレくらいは行けるようになった。でも、普通とは感覚が違うので、オムツを一応つける必要があった。

義足でトイレに行けるようになった頃、レイチェルとフェリックスとジャスティンが家に来た。
「アンジェロ。」
義足でこちらに歩いてきたアンジェロを見て、3人は歓声を上げた。
4人でテレビゲームをし、『トマ・トパ・セリ』に行ったりした。
車椅子のアンジェロと街を歩くのは、爽快だった。

それでも、普通の生活を失くしたアンジェロを想うと、レイチェルとフェリックスとジャスティンは涙が出た。
アンジェロとベラが歩く亡霊が見えたりしたので、妙な感じだった。
『死』という言葉を、思わず口に出してしまうが、決して、アンジェロの事ではなかった。
それでも、アンジェロの人生が大変な事になったという事は分かっていた。

イーヴィーは、義足のアンジェロと街を歩き、恋人のようになれたら、どんなにいいかと思ったが、あきらめるしかなかった。

アンジェロは、両親と一緒に、車椅子バスケットボールを見に行った。
細くて小さな選手が倒された時は、アンジェロはびっくりして見つめてしまった。
アンジェロは鍛えたので、細いわけではなかった。

そして、車椅子バスケットボールを始め、倒されるとやっぱり痛かった。
みんな、障害者という部類に分けられて、イラついていた。
恋人が会いにきたので、安心した。
アンジェロは辛くても、練習に耐えた。
シュートレンで、一番イラついているハワードは、少しジャンプする。
「ハワード。」
美しい恋人が現れると、ハワードのイラつきは少しおさまるようだ。
ハワードが、両親の前で、どんな風に泣いているのか、アンジェロには想像できた。

苦しい練習に耐えぬき、優勝したチームには、神様がご褒美として、誰かを健常者に戻すのではないかと考えた。
それなら、まずはハワードからでいい。

それは、誰も口に出さなかったが、みんなが分かっているような感じだった。
試合で、ハワードは倒れ、退場する事になると、チームメイトはため息をついた。
ハワードが辞めると言った時、『もしかしたら、魔法が‥。』と、誰もが思い、あまり反対をしなかった。
ハワードは本当に辞め、姿を見せる事はなかった。

「多分、ハワードは治ったんだよ。」
チビで痩せているデリックが言った。
「そうだといいな。」
アンジェロは笑った。

アンジェロは、通信制で高校を卒業し、絵の技術も高めた。
まだ漫画は売れるレベルではないが、このままだといつかは仕事になりそうだ。
車椅子バスケットボールも楽しいので、よかった。
それでも、両親の元気のない顔を見ると辛くなったし、ベラを思い出すと、イーヴィーの誘いにはのれなかった。

レイチェルは調理師の学校に、フェリックスとジャスティンは理学療法士の勉強をする事になった。
イーヴィーは、カフェで働く事にした。
ネイトは教育学部に進学する。

ベラはまだ刑務所に入っている。アンジェロは、ベラを忘れられなかったが、父親はベラの手紙を、アンジェロに渡さなかった。

イーヴィーが働くカフェに、タイプの男性が訪れたが、イーヴィーの心は絶対に揺れなかった。イーヴィーが両親と喧嘩をした時、ネイトは優しくしてくれたが、どうしても、ネイトを好きになる事ができなかった。

オスカーは、調律師になる事を決めたようだ。
芸能界がどんなに犯罪に巻き込まれやすいのか、よく考えて、決めたことだ。
作曲をする事は、隠しておく必要がある。
新しい音楽を聴く事は不快だったが、しっかりと調律をすると、ピアノが楽に動き、どんな音でも表現できる。
それは、逆に作曲が出来なくなる行為だったし、木のピアノを使うとリラックスできるが、作曲はしづらくなる。
オスカーの狙いは、そこにもあった。

でも、木のピアノは生きている気がして、辛い人生を歩む兄の近くにいるのでたまっているストレスが癒された。
木のピアノを弾くと、本当にリラックスする‥。


アンジェロは本格的にパラリンピックを目指していた。
しかし、車椅子バスケットボールの規模は、それほど小さくはなかった。
『でも、自分が代表に選ばれなければ、漫画家デビューが早まるぞ。』
アンジェロはゴッドを睨んだ。
アンジェロは普通に働けない分、漫画の技術が、本当に高かった。

「俺、バスケ辞める。」
デリックが泣いた。
「どうして?」
「やっぱり、危険だから。少しでも長生きしたいし。」
「ふーん。」
アンジェロは落ち込んだ。
以前、同じように辞めた選手がいて、ハワードのように魔法がかかったと期待したが、その後、亡くなったからだ。

家に帰り、アンジェロは、ベッドの上で、デリックにメールをするか迷った。
でも、もしかしたら、ゴッドからのお告げで、他人に魔法の事を言えないのかもしれない。

『なんで俺なんだよ!!』
アンジェロは、よく叫んでいたが、オスカーのピアノを聴くと、落ち着いた。
オスカーは天才かもしれない。オスカーが有名になる前に、自分も漫画家になりたいと思った。

レイチェルはまだ体操をやっていない。
体操の試合をテレビで見ると、息が止まりそうになったが、あきらめた。
そんな時は、全速力で走った。
走るのは、アンジェロの前ではよくないが、スッキリした。
体を鍛える事も続けている。ダンベルを買った。
2年の修行を終え、レイチェルは、ホテルの厨房に就職した。
給料は安くないし、良い料理を任された。
スーシェフは、レイチェルを信用していた。
本当に美味しい料理を提供するには、神聖に生きないといけない。

スーシェフは結婚していたが、妻の事を妹と呼んでいた。
子供も4人いるが、普段は、兄妹のような生活をしているのだろう。

スーシェフが、レイチェルにメインを任した時、レイチェルは赤くなった。
『もしも、アイツが25歳になる前に治ったら、俺は体操の世界に入るのに‥。』
それでも、レイチェルは、一流のメインを仕上げた。

フェリックスとジャスティンは、同じ大学で理学療法士を目指し、よく一緒に行動した。
ジャスティンがフェリックスについてくるような感じで、ジャスティンが他の友達と一緒にいるのを見ると、フェリックスは安心した。

ネイトは、恋にも、スポーツにも熱中できず、大学での成績は良かった。

イーヴィーは、アンジェロに会うと、好きな音楽の話をした。
イーヴィーは、芸能界にハマっていて、時々、自分に似ているスターが、本当に自分ではないかと思う事があった。
大体は、自分の中だけで片付くので良かったが、片付かないと、本当にその人になってしまう恐れがあると感じた。

正直言って、イーヴィーは、何もできない。
カフェの仕事も中途半端だ。

アンジェロが、車椅子バスケットボールの試合で、美女と話す姿を見て、落ち込んでしまった。アンジェロは漫画を描いているし、中途半端な自分では支えていけないかもしれない。
イーヴィーは、走った。
最近、ジャンプがすごくうまくいく。
もしかしたら、新体操とかフィギュアスケートとかの才能が芽生えたのかもしれない。
でも、そんな物は欲しくなかった。
イーヴィーは走り、スケボーの練習場にたどり着いた。
誰もいない場所に、古いスケートボードが置いてあったので、イーヴィーがやってみると、すぐに上手くいった。

来年に東京五輪がある。
今から、目指せば、華になれる気がした。

今まで、イーヴィーは、アンジェロの事が好きで、恋愛もせず、同い年の人達から外れていた。もちろん、正社員にもなっていない。
だから、イーヴィーには、魔法が与えられていた。
その日の夜に、イーヴィーは、スケートボードを買いに行った。
練習場で技を見せると、大会への参加方法やルールを教えてもらった。
両親は反対をしたが、イーヴィーは聞かなかった。

イーヴィーはきちんとヘルメット着用し、細い腕に、シンプルな黒いアクセサリーと指輪をつけた。

アンジェロには、テレビに出た所を見て、びっくりしてほしかったが、レイチェルとフェリックスとジャスティンと一緒に見に来た。

21歳のアンジェロとイーヴィーは、東京五輪に参加する。
イーヴィーは、開会式に参加する事にした。
正直いって、イーヴィーは、イケていた。
今まで、スケートボードとは縁がなく生きてきて、突然魔法が与えられて、両親からの反対も振り切った。
パラリンピック選手に愛する人がいる。
女性からの信用もすごかった。

イーヴィーは、五輪直前の世界大会にも出場した。
緊張はすごかったし、ネイトが恋人と見に来た。
アンジェロも、美女と見守っている気がした。

神婆さんが、イーヴィーをじっと見つめた。
イーヴィーは、自分の手につけた黒いアクセサリーを眺め、笑った。
頭はクリアだった。

東京オリンピックに、イーヴィーの2人の妹と両親が見に来た。
「お姉ちゃん!」と言われた時、くらくらとして、口の中にできている口内炎が痛んだ。
オリンピックは、他の試合と違って、なんとかしてイーヴィーを落とそうとする人達もいたが、イーヴィーが出来ると確信していた。

イーヴィーは目を閉じた。
スケートボードは最高にクールな競技で、それが与えられた自分は幸せだった。
お金があるとか、財産があるとかよりも、大事な事は、かっこよさだ。
だから、イーヴィーは思った。
『アンジェロの恋人になれなくてもいい。アンジェロのために頑張ってきたし、今日も頑張るから、必ずアンジェロを治してください。』

イーヴィーのライバル、ライカは本気だった。
ライカはブラジル出身で、裕福な家の娘だった。
ある時、美しいワンピースで、スラムを歩くと、優雅にスケートボードに乗る男が、ライカに風を運び、ライカは振り向いた。
ライカは、スラムの不良と親しくするようになり、入れ墨をいれた。
ライカが警察に捕まり、家は財産を失ってしまった。

ライカは、誤った人生を送る自分を責めたが、人生を戻そうとしなかった。

もう1人のライバルは日本の娘Cだった。
友達がアイドルになり、両親に泣いて頼んだが、オーディションを受ける事を許してもらえなかった。両親は、アイドルよりも、Cにサッカーをやらせて、かっこよくなってもらいたかった。
アイドルの管理をしている女性の小さな娘を、友人と供に誘拐した。

「娘を返してほしければ、一緒に来てください。」
小さなアパートで、娘の前で、男にフェラをさせる残虐行為をした。

女性は、C達のことを警察に話したが、Cは捕まらなかった。
でも、女性は、Cの両親に、その事を話した。

母親は、「あんたは恐ろしいことをしたんだからね。」
Cを罵った。
狂ったCは、仲間と両親を殺す計画をして、実行した。
Cが到着すると、死んだ両親が横たわっていた。
麻薬のせいで、Cは目の色を変えていた。
Cは始めたスケートボードで、両親の頭の上を飛び越えた。
死んだ父親は、目を開いて、それを見た。
もしかしたら、まだ死んでいなかったのかもしれない。


イーヴィーにも悪夢が見えたが、神聖な自分が絶対に勝つと信じた。

イーヴィーは入れ墨を入れていない。
イーヴィーが細い腕を伸ばすと、植物のタトゥーが、体に魔法をかけるように生えていった。
イーヴィーが金メダルをとった。
インタビューをする頃には、魔法はもう消えていた。

イーヴィーがフィリピンに戻り、テレビでパラリンピックの閉会式を見ると、車椅子に乗ったアンジェロが入場したので、イーヴィーは神を睨んだ。
『勝負はこれからだよ。』
神からのメッセージを聞き、イーヴィーは涙を拭いた。
金メダルをとったイーヴィーだったが、自分の中にあるイラつきは治っていなかったので、少し落ち込んだ。
一人で怒る癖は治らなかった。

「報奨金は寄付しなさい。」
母親が言い、イーヴィーは顔をしかめた。
正直言って、お金がなかった。
「日本のヤワラは、オリンピックに5回も出場した後、財産は300万円しかなかったのよ。」
「そうなんだ。でも、それは少なすぎるんじゃない?」
「彼女は立派な方だったわ。それなのに、一般の女子高生に毒殺されたの。」
「それ、本当の話?」
「日本の知り合いがそう言っていたわ。」
イーヴィーは、報奨金を10万残して、あとは寄付することに決めた。


アンジェロはスタメンで、倒されたりしたが、最後まで懸命に戦った。
途中、元気になったデリックが見えた気がした。でも、それは分からない。
美しいアンジェロは、たくさんの女性を虜にした。
それでも、歓声の中で、ベラの事を想った。

変わり果てたベラは、刑務所で、アンジェロの試合を見ていた。
アンジェロの事をすっかり忘れたベラは、最初、仲間と一緒に歓声を上げていたが、アンジェロがスリシューを決めた時、ベラは昔の事を思い出し、後ろを向いて泣いた。


「ハッピーバースデー、アンジェロ。」
アンジェロの22歳の誕生日、『トマ・トパ・セリ』で、4人でお祝いをした。
アンジェロの足は治っていた。
「パラリンピックの魔法だね。」
ジャスティンは言った。

「ありがとう。それに、今まで、迷惑かけちゃってごめんね。」

「いいよ。これで、俺は次のパリオリンピックを目指すから。」
レイチェルが言った。

マイケル先輩たちもダンスを始めた。
勉強漬けのフェリックスが追いつけるレベルではなかった。

ジャスティンは完全にサッカーを諦め、運命の女性の手を握った。

それでも、2人は、理学療法士の試験に合格した。


イーヴィーは、オリンピック直後の世界大会に誘われたが、『出なくていい』のお告げがあり、キツネに参加してもらった。
「お告げなんかあるわけないじゃない!」
両親が罵ったが、イーヴィーは、無視した。

東京五輪から2か月後、アンジェロの足が治ったので、イーヴィーは安堵したが、
『自分と恋人にならない約束』を撤回するよう、イーヴィーは神様に頼んだ。

久しぶりにスケートボードをやると、魔法は消えていなかった。
神聖に人生を送るイーヴィーに、神様は魔法を残したのだ。

それでも、イーヴィーが転び、スケートボードが宙を舞い、イーヴィーは目を閉じたが、
イーヴィーの体から外れた。

イーヴィーは、練習場のコーチと話し、スケートボードの指導の仕事もすることにした。
ネイトは、イーヴィーの事がまだ好きで、会いにくる。
イーヴィーは、ネイトと仲良くすることにした。

イーヴィーとネイトが2人で映画に行った帰り、見覚えがある顔を見て、イーヴィーは振り向いた。
「今のベラさんかな?ついに出てきたんだね。」
ネイトが言った。
「うん‥。」
イーヴィーの心は一気に重くなった。

イーヴィーの美しさは完璧ではない。まだ22歳なのに、毛穴と小じわがすごかった。
ベラの方が醜かったが、アンジェロは、ベラを抱きしめるだろうか?

アンジェロは、神様から、漫画家を目指している人としては、26歳級の腕前を言われていた。
だから、アンジェロは、宅配の仕事をするようになった。
障害者だった時、宅配便をよく利用したからだ。

今日の宅配便が、ベラの家だった。
もう、あの時の傷は癒えてきていた。
ピンポーン
「宅配便です。」
「どうも、ありがとうございます。」
そこには、変わり果てたベラがいた。
「もしかして、ベラ?俺、アンジェロだよ。」
「あっ‥久しぶりです。」
「元気だった?」
「うん。」
2人は握手をした。

アンジェロが人生を狂わすほどに悩んだ恋人だったのに、久しぶりの挨拶はあっけなかった。
『せっかく、今まで一人でいたのだから、また一緒に過ごせば?』
天使の声が聞こえた気がしたが、アンジェロは無視をした。
どうしても、一緒に過ごす気になれなかった。
また一緒に過ごせば、同じ不幸を繰り返す気がした。

もんもんとした日々が続いた。
でも、そんな中、アンジェロの漫画家デビューが決まった。
有名な漫画家のアシスタントにならないかという誘いがあったが、自分の個性が潰れる気がして断っていた。自分の作品を商品として売り出せることが決まったので、嬉しかった。

ベラは、孤独だった。
暗くなると、母校の中学校の校庭の鉄棒で逆上がりをしたり、走ったりした。
イーヴィーは、ベラの姿を見て、近づくのはやめた。
自分が、オリンピックで金メダルをとったことは、嫌味になると思った。

レイチェルはホテルの仕事を、正社員からパートに下げてもらい、空き時間で体操競技をした。
最初は、年下にも負けたので、ムカついたが、神様に泣いて頼み、魔法をかけてもらった。

レイチェルは、恋をしてこなかった。それは、ベラのためでもあった。
だから、ベラにも、体操の魔法がかかった。

2024年、負け続きだったベラだったが、最後に優勝をし、パリ五輪の代表に選ばれた。

イーヴィーはもう出る必要がなかった。
伝説を残すために与えられたギフテッドではないと分かっていた。
神聖な生き方をしていたので、魔法をもらっただけだ。

レイチェルは、パリオリンピックに出る。

25歳になったイーヴィー。それまでにネイトと恋を経験し、大人っぽい事もしたが、その甘い味で、逆に不幸になったと感じてしまった。
そして、イラつきも抑えられない。
フェアリーフィリピン(新体操)を見ると、大声で怒鳴ってしまった。
それでも、男性が新体操の人と付き合うことは、女子にとって、ミュージカル俳優と付き合うようなものだ。
ミュージカル俳優と付き合いたい女性には、あまり出会ったことがない。

「レイチェル、頑張って!!」
アンジェロ、フェリックス、ジャスティンも、オリンピックを見に来た。

レイチェルはパリに着いた時から、精霊に話しかけられるようになっていた。
『イーヴィーもアンジェロも、仲間のために五輪に出た。でも、お前は自分のためだけに、体操をしているんじゃないか。』
「ベラさんだって、そうだろ。」
『ベラは違う。自分のように刑務所に入っていた人達のために戦っているんだ。』

『落ちろー、落ちろー。』
客席から言う人もいたし、本当に悪魔の囁きもあった。
しかし、神爺さんが現れ、レイチェルに言った。
「見つけるのじゃ、レイチェル。本当の夢の意味を。このオリンピックが終わるまでにな。」

予選はギリギリで、レイチェルは決勝に進むことになった。

ベラは2位通過を果たした。

レイチェルは、夜、夢の意味を考えた。
漢字の夢は、夕方の冠の上に、鬼が乗っている。
英語のDreamは、5つの字を番号にすると、4,18,5,1,13で、
『酔いは恋意味』『良いは、恋意味』『良い箱、良い意味』逆にすると、『見い以後、はいよ』である。

結局、どういう意味か、よく分からなかった。だから、レイチェルは泣いた。
「意味が分からないよ。まるで幻のように終わってしまうような物じゃないか。」

精霊が言った。
『レイチェルにとっての夢は、最後の答えじゃ。』
「それって、見い以後はいよの事?」
『そう。レイチェルの夢は、国のみんなのための物だ。そして、夢が終わった後も、みんなのために、生きるのじゃ。』
「わかりました。」
『数字を全て足すと、41(良い)になる。』
「そうだったんだ。」

レイチェルは金メダルをとった。
そして、アンジェロに金メダルをかけた。

ベラは、決勝では7位になってしまった。
それでも、演技から、今までのベラの苦労を感じさせた。

でも、ベラは、体操選手としては、一番みっともなくない選手だった。

22歳のオスカーは、まだ作曲家デビューできていない。
芸能界がどれほど呪いであふれた世界か分かっていた。
それでも、栄光の舞台を夢見続けた。

ジャスティンは愛する人と結婚した。
少しもったいない気がしたが、サッカー選手になっていたら、この幸福は決して訪れない。自分の子孫が伝説と縁があるのなら、作ってもらうことにする。

フェリックスは、病院で患者さんの車椅子を押しながら、魔法について考えた。
やっぱり、障害を持つ患者さんに、アンジェロがもらった魔法について、詳しく教えたかった。
夜になると、魔法に関する本を読みふけっている。
魔法についての謎が解けたら、本に書いてみてもいいかもしれない。
患者さんは、よく本を読んでいるので、フェリックスは小説を書いてみるのもいいなと思った。

ベラは、アンジェロでない男と結婚して、体操を捨てた。
アンジェロはいまだに1人だ。

イーヴィーはネイトと別れた。
ネイトは教師になったが、今のイーヴィーには、ほとんど何もない。
でも、まだ魔法が残っているので、スケートボードの指導は続けている。

レイチェルは競技を続けている。
もう一度、オリンピックの舞台を目指したかった。
飛んで、真っ白になった後に、時々、アンジェロの車椅子を押していた頃の記憶がよみがえる。

アンジェロは漫画を持って、歩いていた。
このまま、ずっと一人なのだろうか?
夢は、独身だけに与えられた物ではない。
少子化は問題になっている。

それでも、アンジェロは、一度、一人の女性のために、人生を失ったのだ。
それを想うと、少し安心した。

自分の夢で、たくさんの子供達に勇気を与えればいいのかもしれない。

End
[DREAM]
[Your magic power]
[The Coy Rose]
[Suki]
by Shino Nishikawa

DREAM

DREAM

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-06-09

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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