幽霊と会ったあの廃道で

完結したら描きます

1.虚空な空虚

───ぼくは朝が嫌いだ。 明けない夜はないというが、それは明るくて綺麗な人間が明るさを求めて綺麗事の話。ぼくはその真反対、暗い人間だ。朝なんか来なくていい...。


とは言いつつも地球は自転していて朝がやってくる。その朝が365回続いて公転する。ぼくの人生の好転はまだだというのに。

目覚ましなんて必要ない、どうせ今日も二限は終わってる。出席なんて時間を巻き戻す能力が無いとできやしない、、絶望的だ。
起きて運が良ければ講義に間に合う そのために大学にいく。
高校の時はこんな自堕落的じゃなかったはずだった。

それはそうだ。だって毎日決まった時間に目覚ましが煩くなってそれでも起きなければ祖母が布団をひっぺがして起こしてくれたっけ...
時間が無いからと緊急出動の消防士のように高校の制服を着て朝ごはんを食べずに登校しようとすると祖母が朝ごはんは食べていけ!と口煩く言われたものだ。
そしてそれを様子を伺うようになだめる祖父がいた...。
そんなドタバタで乱暴にペダルを漕ぎながらギコギコと激しく喘ぐ自転車を高校まで遅刻ギリギリで走らせた。そんな規則正しい朝が続いたから寝坊なんてできやしない。だが今は全てが違う、学校は全日制でもなく、起こしてくれる祖母もいないし、朝ごはんの納豆と白米とお味噌汁と野菜なんてもんは用意なんてされてない。

すべてが任せっきりで自己責任の生活になんて馴染めなかった。
言い訳をしていいわけ?良い訳なんてない。
大学に入って早々2ヶ月でこれだ。

気だるく歯を磨いて、顔を洗って、寝癖を整えて
そこらに雑においてあるシワだらけのTシャツと大手ジーパンブランドのロゴの自己主張が激しいジーパンをのらりくらりと着込んで、とぼとぼと講義に必要な教科書とノートをアウトドアブランドがついた黒いリュックに入れて、アパートの扉を開けて監獄みたいな大学へと足を運んだ。

アパートのコンクリ作りの階段がぼくの靴と重力でコツコツと固い音を鳴らしている。

そしてアパート前の私道にでるときにある"相棒"が
まるで「今日も湿気た面してるなぁ?」と言いたげに挨拶してくる。
いや、実際にはそう見えるだけだ。
なんせ喋らないし、無機物だ。
この"相棒"は祖父に貰ったものだ。
ぼくの免許の取得記念と祖父の免許返納ついでに貰ってきたもの──
と言っても形見とかではないし祖父はまだ生きている。
しかし車内に入ると祖父が吸ってたタバコの匂いが染み付き、お守りがぶら下がっている。
しかも今日日珍しい角張った車で正方形のヘッドライトが4灯で車体の色も茶色と今の車にない美しさだ。
この車は世の中には"セドリア"なんて呼ばれていて、ドライブの休憩がてら道の駅とかに行くと自動車オタクやおじさんからよく声をかけられる。
僕自身、そこまでこの車についてはよく分かってない、うんちくを語られても苦笑いしかできない。
僕が知っているのはこいつの運転方法と簡単なメンテナンスと生まれてこのかた祖父が運転するこいつに揺られてきた思い出だけだ──。

と語っても大学に学生用の駐車場はない。たまに人通りのない大学近くの小道に路駐したりするが
頻繁にやってると申し訳ない。
だから今日も電車で向かう。だからコイツに行ってきます。と心の中で挨拶をした。

2.通学は苦痛

相棒を横目に落武者のように歩くこと早10分。
バスが行き交い、タクシーが走る地元の駅にたどり着く。

日課のソシャゲをやりながら時たま周りを確認しながら歩きスマホをする。歩きスマホはぶつかったり周りを見ないからいけないんだ。
やっちゃいけない訳じゃない。

ボケーッと立ちながら死んだようにエスカレーターを上がり、自動改札に財布を押し付け、気がついたらホームにいる。

近くの踏切が軽快に電車がくることを警戒している
ファンファンファンファン...
と泣きながら

「まもなく2番線に急行...行が参ります。」
無機質に女性の自動音声が電車の接近を伝える。
ホームに入線してきたのは黄色い電車。ヘッドライトは丸目のすこし古めかしいデザインの電車だ。
おかげでシートはスプリング式でふかふか
寝心地も良い─。これに座って寝ればあっという間に大学がある駅までつく。
ギーゴギーゴと電車のインバータの音がボヤくなか、ぼくは空いてる車内に入り一時の心地よい揺れと座り心地の良いシートで耳にイヤホンして優雅に音楽を聴きながら夢の世界に飛び大学までドナドナされるのだった。──

だが時間は無情、気がつくと目的の駅に付いて改札からでて行きたくもない大学に行くのだった。

大学についてもやる事なんてない、、、
だから情報もわからない、一緒に授業も受けない。
少し早くついた大教室でスマホ片手に物思いに耽っていた。

友達?作るタイミングを逃した。そもそも授業ごとに違う人間が集まり各々勝手に過ごす大学でどう友達を作れと?サークルの新歓やインカレサークルなんていうものも手に出してみたが乗りが会わない。

それどころか住む世界が違った。
さも平然と酒を出され、皆飲んでいる、おかしいタバコと酒は20歳を超えるまで飲んではダメなはずだ。それなのに─。
そして何やらはしゃいでいる。大声で笑っている。
悪い回想が頭によぎる


ツカ、パンキョー ムズクネー?
パイセン 楽タン ナインスカ?ワンチャンナインスカ?
ゴチソー サマガー キコエナイー ハァイ!ノーンデ ノンデノンデノンデ♪
アトデ マージャン ヤル ヤツゥ~ ココニコォイ!

まるで異世界だった。異世界に転生したのかと。
ぼくは何かで死んで異世界転生したのかと
そう思った。ぼくはお酒もあってか周りがおかしく見えるようになって視界がぐるぐるしだして
怖くなって居酒屋から飛び出した。新歓は一年は無料だからお勘定は気にしなくていい
それより元の世界に戻りたかった。
そして静けさの香る夜道を歩くことでぼくは元の世界に戻ってきたんだと実感した。

まるで悪夢をみて寝起きが悪いような感じの動悸がした。

気がつけば講義が始まっていた。
民法がどうのとか用件がどうのこうの代理人がどうだこうだ とかいちいち授業を聞いて理解しようとしていたら頭が宇宙になってしまう。余った時間をSNSとソーシャルゲームに費やした。いや浪費した時間を。

気がつくと夕方 授業は終わり。何もない。明日は一限があるがたぶん出ないだろう。
行きはよいよい帰りが怖いとあるがその通りで
毎回この時間は帰宅ラッシュで電車が混む、
帰るのさえ面倒くさくなるがやる事もない帰るしかないのだ。
今日はアルバイトがない日なだけマシかもしれない。
こうして一日が終わっていく。

動かない"相棒"におかえりの挨拶をして
レトルトカレーを作って喉にいれてシャワーあびておしまい。さようならだ。
こんな酷い毎日が4年も続く その後はわからない。考えたくはない。

3.気持ちが乗らない肝試し

土曜の夕暮れだった。アルバイトが終わりその間に珍しく緑色のアイコンのコミュニケーションアプリに通知が来た。
このコミュニケーションアプリは、頻繁に通知がなるやつ程リアルが満たされてるなんて考えてるなんて考えてるがぼくは通知が来ない。

あまり積極的に人と関わろうとしてなかったからだ。
でも友達と言えなくとも知人くらいからはメッセージの通知がくるときもある。
今日は高校の知人らからの通知だった。
人間関係は似たような人が群れる。だから僕がいた群も似たような人間だ。俗にオタクと呼ばれてるヤツらだ。

1人は絵に書いたようなイキりオタクと呼ばれるタイプ、そう自慢や虚勢をはったタイプで見てる分には楽しそうなヤツだ。もう1人は鉄道オタクと呼ばれるようなものだけど、そういう知識になると何やら専門用語を使いたがる。専門用語を使いたがる人ほど知ったかぶりが多いなんてもんだがそれを地でいってる。
もう1人は、偏見が多いタイプだ。否定からいつも入るから話すと疲れる。
だから僕はあまり口数が多いほうじゃなかった。
だからコミュ障と思われていたかもしれない。
まぁともかくその3人組とよく高校時代はつるんでいた。
名前は各々あるけど正直どうでもよい。
しいて言うなら紹介した順にA,B,Cで良い
そんくらいの関係だ。

話が長くなった。そんな連中のうちイキりたいAが連絡してきたのだった。

今度の日曜に肝試し行こうぜ! 近くの山道にすげースポットあんだよ!お前クルマあんじゃん!いこうぜ!(原文そのまま)


ぼくは嫌だった。そんなのに行きたくないし縁起悪いし、なにより夜の峠なんか走りたくないものだ。
視界が悪いし、変な走り屋みたいなヤカラがいるかもしれないし、絡まれたら怖い。

だからのらりくらり断っていたら、とうとうコミュニケーションアプリを使っての着信がきた。
Aからだ。

《だからさー ノリ悪いんだよ~?他の2人も行きたがってるよ?グループチャットみてないだろ?お前?みんな日曜たのしみにしてるんだよ》
《そうじゃなくてさ~オレ達は友達じゃん!こうして大学行ってからも集まろうって卒業旅行すらいけてねぇじゃん!》
《車もってんのお前しかいないんだって!わかンじゃんそんなの~?》

こうやっていつも強い口調で否定をさらに否定で封じ込めるやり方はAのやり方だ。
マイナスをマイナスでかけたらプラスになると言うがその通りだ。ぼくは言い負かされて
嫌気を持ちながらその日の集合時間を待つことになりそうだ。
この時からなんだか胸騒ぎがした。なんか良くないことがおきるんじゃないかと同時に何か変化の予感がした。

4. いぐにしょんをいれていいん?

あれから気の乗らない日々を過ごした
といってもたかだか数週間だ。

憂鬱だった、、、。
大学をサボることもあった。ソーシャルゲームをしていた時もあった。
不思議なものだ。ポチポチとタップするだけで過剰な演出と効果で人に飽きさせない。
さらにはガチャというデータだけのガラガラポンをやらされる。
本当の運ゲーとだけあって一喜一憂されていく
ただ一通りデイリーミッションを終わらせたあとだと得体の知れない虚無が襲う。
さっきまではソーシャルゲームをやって刹那的に楽しかったはずなのに、、、

焦燥感が横切る。ただいたずらに時間がすぎていくだけだ。
大学にいたり同級生だった同い年の人間は恋愛をしたり、酒や場の流れに身を投じて異性と肉体関係を結んでいたりする。
僕は童貞だ。それ故に異性の肌も味わったこともなければ、美少女アニメのようなラブコメも味わったことなどない、、、そもそも女の子と話したことも余りない。住む世界が違ってると思ってる。
しかしながら巷では、誰々とヤっただの、気持ちよかっただの下世話な話が飛び込んでくる。しかし僕はそんな世界は、すこし卑猥で赤面しちゃうような漫画の世界での出来事だ。想像がつかない。
でも世間では裸でそんな卑猥な事を繰り広げて汚い所を舐めたり舐められたりそんな異次元みたいな事を異性と繰り広げるのが普通なんだろうな。
僕には解らない、、、でもそれが普通だとしたら僕は異常者かもしれない。たぶん異常者だ。
だって世間ではそれが普通のことができてないんだもん。

劣等感を胸に孕む度に、得体の知れない焦燥感が漂う クラゲのように──。
時は残酷だ。あと2年もしたら20歳だ。成人だ。
大人だ。
成人して童貞なら一生童貞かもしれない。
こわい1人は嫌だ。

嫌なことが打ち上げ花火のように打ち上げられては開花するそして消える考えれば考えるほど花火のフィナーレのようになる。

布団に入ってなんも考えず寝たくなった。でも許されない。なぜなら約束は無理矢理いれられたとは言えど約束だから

それが憂鬱な理由だった。
そして行きたくもない車を持っていて暇つぶしにと言われて駆り出されるドライブも嫌だった。
集合時間が刻一刻と迫る─。

重い腰をあげて携帯電話と予備の充電バッテリーと財布と...あとは...
冬眠から覚めた動物のように大学で使うリュックに入れ始めた。
ミニマリストじゃないが服も多いわけじゃないしものを入れるものも、このリュック1つだ。
公私共用。
あ、そうだ...。
忘れかけてたものがあった。家の鍵と車の鍵がついたキーケースを乱暴にとるとポケットに入れた。
すぐ取りに行けるけど戻りに行くのは面倒くさい...。

準備を終えると電気を消し、ガスの元を閉めて、窓を閉めて、ドアを開け、そして閉じて鍵をしめて、ガチャガチャと鍵がかかってるのを確認した。

コツコツとコンクリの階段がリズムよく鳴り響く、降りる僕、見えるポンコツ、どこがやるせない。

今の車だと、まるで魔法の杖のようにボタンを押すだけで車のライトが、帰宅してご主人様が帰ってきた事に尻尾を降って喜ぶみたいに点滅してドアのロックが開く。
だが残念ながらシリンダーだけの鍵は、そんなサービス精神豊富じゃない。乗るならこっちきてドアをあけろと言わんばかりの茶色い老体。
そんな事思ってると、階段は降り終わり、 ロビーをぬけて駐車場だ。
目の前にやけに角張ったソレがある。
僕は運転席に近寄りドアにある鍵穴に車の鍵を差し込んだ。カチャ...ガチャガチャと小気味よい音をならしドアのロックが開く。
そして鍵を抜く

ボゴッ って重そうな音を鳴らして開けたドア
昔の車は高級感出す為に音まで拘って設計されたと聞く そんな事よりやることはあっただろう...。

お邪魔しますとは言わない。今は僕の車だ。やけにふかふかのシートに腰掛ける。一苦労だ。
そしてさっきぬいた鍵を手にもったまま腕を上げる

─今の車は鍵なんか使わずにボタンで動くのに偉い苦労だ。二度手間だ。─

それなのにこいつは...。
悪態を付き、ハンドルの奥の側面にある鍵穴に鍵をいれようとする
そして鍵をいれて回す。まずは軽く回すと 警告灯が踊り出す。このままじゃ故障のオンパレードだ。警告灯が大行進をしはじめる。だが大丈夫 このポンコツは買ってから1回も壊れたことがないらしい
気合いのあるポンコツだ。僕には無理だ。
そしてまた鍵を奥まで勢いよく回す。

クククク グォォォン ボボボボボ...

鳴り響くイグニッションとエンジン始動の合図。
喜ぶ絶好調の直六エンジンの咆哮。
僕はその真反対だ。死んだ目をしながらハンドブレーキを下ろしてクラッチを半分踏みながらシフトレバーを二速にいれる
教習所では一速からだったが慣れたら二速から入れる。
今日日、マニュアルなんて好き者しか乗らない。バスやトラックでさえオートマの世界だ。
僕は好きでマニュアルを取ったわけじゃない。初めにのるのがコイツだから仕方なくとったんだ。
タダで車をくれるなら嬉しいに決まっている。
車なんて高いんだから...でもタダでも譲渡の手続きはなかなか面倒くさかった。陸運局で書類を書いたり一苦労だった。
そんな事を回想してるうちに近くのセルフガソリンスタンドに給油する
あとでアイツらから聴取しようと思う。
給油口カバーをあけて、給油口のキャップをあけ、なんも考えずに手が勝手に動く
まるでロボットのようだ。
夕焼けが綺麗だ。黄昏たくなる。これからある下らない人付き合いは考えたくない。そんな気分だ。
ガソリンスタンドで給油したら、また車を少し転がせれば、近所の駅だ。現在時刻は18時30分、集合時間まで30分前だ。人と集合すりときは早く来ないとまるで怒られそうで怖い。遅刻は人のすることじゃないと怒られてる人をたくさん学校で見てきた。
スポーツ型のゴム製の腕時計の睨めっこ。時々、携帯を除く
外からはハザードをつけた時代遅れの車。
僕の生まれて初めての一番長い夜が開始された。
ゴングが鳴り響いた。

5.幽霊の夜(前編)

幽霊と会ったあの廃道で

完結したら描きます

幽霊と会ったあの廃道で

完結したら描きます

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-06-08

CC BY-NC-ND
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CC BY-NC-ND
  1. 1.虚空な空虚
  2. 2.通学は苦痛
  3. 3.気持ちが乗らない肝試し
  4. 4. いぐにしょんをいれていいん?
  5. 5.幽霊の夜(前編)