どん底の少年
一日、一日と生きていく毎に、僕の汚れは少しずつ増加していく。
けれど、それは僕が故意にそうしようと思った訳ではなく、
ただ生きていたいと願うだけで、そうなってしまったのだ。
僕は、汚れを引きずりながら、今日も歩く。
道の端で座り込んでいた女の子が、僕が通り過ぎる一瞬、
顔を上げて「それでも、生きていて恥ずかしくないの?」と、問いかけた。
僕は女の子の目を見ずに、通り過ぎた。
何も言わずに、何も言わずに、ただ何も喋らずに、黙って。
僕は、課された寿命の分だけの日々を、淡々と生きる。
罪に未練を残したところで、誰が同情してくれるわけでもない。
だから罪は罪として、自分の両腕の中に抱え込みながら生きていかなければ、ならない。
そうやって、自分自身を追い詰めていく。
酷く荒涼とした心地だ。
僕は、独りで佇んでいる。
街から少しだけ離れた、街全部を見渡せる丘の上。
僕は、しゃがみこんで、体操座りをしてただただ時間が流れるのを待った。
誰も迎えに来ないのならば・・・。僕は、そう思って酷く暗澹たる気持ちにかられた。
辺りは薄闇に覆われてきて、僕の周囲は、何かから途絶されてしまったようだ。
僕は、頭を抱えて塞ぎ込んだ。
何故、今日もまた失敗してしまったのだろうか。
僕は、誰からも必要とされていないような感覚にかられる。
何故、何度も何度も同じことを繰り返すのだろうか。
足は前に進むために、必死に動かしているつもりなのに。
なにが、足りないのだろうか。間違っているのだろうか。
それとも自分の命が、過ちなのだろうか。
もう。動けない。
何に縋ろうともがいても、何も(誰も)縋らせてはくれないのだ。
ある日、僕は街中でふらりと倒れた。
傍を歩いていた人々は驚いて、すぐに救急車を呼んで僕を病院へと運んでくれた。
僕は、そのまま命が終わってしまえばいいのに、と思っていた。
深い、深い意識の底で。
もう、目を瞑ったままで十分だった。息が、できなかった。
看護婦は、ベットの脇から僕に向かって、「それでも、生きなさい。」と言った。
僕は、空想の中で、そう言った看護婦を滅茶苦茶に殴打する様子を思い描いたが、
けれど、すぐに僕の良心がそれを掻き消した。
何故、僕の命を放っといてくれないの、何故。あなたたちはすぐに傷付くの。
僕のせいで傷付くのなら、僕の命を排他して下さい。
両親も、友人も僕のことなんか必要としていないのだから。
けれど、医者は無情にも僕にビタミン剤を投与して治療を施し、
看護婦も笑いながら看病を続けていった。
不幸な少年は、もう何処にも逃げ場を失った。
光明はなかった。
少年は世界が嫌いだった。許せなかった。
そしてー。
街からはずっと離れたある森の奥で、少年は崖を見付けた。
それは見るからに一発で死ねそうな高さを誇っており、少年は喜んで、その崖に感謝を伝えた。
この場所なら、街の誰からも見つけ出されることはない。
そうして少年は、躊躇わず飛び降りた。
女の子は、街はずれの崖の下で、瀕死の少年を見付けた。
その顔は、女の子の街では見かけたことのない顔で、
きっと崖向こうの街にいた少年なのだろうと思った。
女の子は、少年にどんな事情が背負われていようとも、少年を助け出そうと考えた。
そこに理由はなかった。
ただ、単に。女の子は少年に恋をしてしまったのだから。
助け出された少年は、その街で、新しい名前を授かった。
そうして、第2の人生を歩み始めた。
どん底の少年