心から言えること

保坂アヤ 作

いわゆるうちの子というやつを少しは動かしたいと思いながら書いたら、いつの間にか彼らが欲望のまま動いていました。

大雑把にまとめた二人の関係

カイル……ヘレンにぞっこん。五感が鋭い。明るく快活、好かれやすい性格。自らの恰好悪い姿を見せるのは苦手。過去にヘレンへ告白経験あり。

ヘレン……カイルのことが大好き。元修道女。誰にでも優しく、慈悲深い性格。いつか幸せを失うことを恐れてなかなか告白の変事が出来ない。

夕暮れ。紅が、音も無く沈んでいく。紫がかったその色に身を照らされながら、愛しい人のベッドの中で裸のわたしは身を捩った。
男のにおいの染み付いたベッドが乾いた音をたてて軋む。目をつぶるとこの部屋の主がわたしの脳内ですきだ、と甘く囁いた。挿れたい、お前をめちゃくちゃにしてしまいたい、と妄想はさらに続く。一度は神に仕える身であったのに。自分が情けない。それでもとまらず普段聞き慣れた彼の声を思い出す。彼にはしたない言葉を喋らせるというのがどうしても申し訳なくなる。でも、その淫らな妄想がわたしをたかぶらせているのだ。だらしなく開かれたわたしの中と自身の指とが濡れていた。涙を浮かべ天井を見る。目の前は、紅。
「カイル……」
何気なく飛び出した自分の声は今まで聴いたこともないほどに甘く切なかった。わたしはびくびくと痙攣しながら快感に身を委ねると、漏れた自身の声に興奮を覚えた。
喘ぐわたしはみっともない。性欲に負け、他人の部屋で自分を慰めているのを誰かに見られたら。恐ろしいはずなのにそれだけで身体はゾクゾクする。カイルはわたしを汚い、気持ち悪いと思うのだろうか。嫌だなあ、と思う。でも、でも……。
自分の体臭に甘い雌のにおいが混じっていることに気づいたのは、達しようと深呼吸している時だった。

「うぁー、疲れた……」
と、突然、ドアの向こうからだるそうな男の声。わたしは息を飲んで動かす手を止めた。裸の身体を毛布で包み、どうしようかと辺りを見渡す。逃げ場はない。
取り返しのつかないことをしてしまった……。
ドアがぎぎ、と音を立てた。わたしを見るなり男は「うわっ!」と声をあげた。一番居ないと思っていた人の存在に驚いたようだった。

「ヘレン……?な、何やって……」
「ごめんなさい!!」

わたしの謝罪に目を丸くするカイル。そのあとあっと声をあげて目を逸らした。わたしが裸であることに気づいたらしい。

「わたし……あの……」

もう一度ごめんなさい、と続けようとした。でも声が出なかった。カイルはわたしを軽蔑するに違いない。まさに自業自得。悲しくて恥ずかしくて、涙が溢れた。

「おい」


どうせ、次に来る言葉なんて悲しいものに違いない。わたしは俯き、服を探しはじめた。

「おい、ヘレン」

「ごめんなさい。許さなくていいから……すぐにいなくなるから……」

「何言ってんだ?」

その言葉が終わる頃には、わたしはカイルの腕の中にいた。
突然のことに頭が真っ白になった。
そしてわずかな時間のあとで、彼が欲情していることを悟った。
カイルのごつごつとした大きな手がわたしの首元をなぞった。自分で触れるより数倍大きな快感が全身を痺れさせ、思わずハッと息を呑む。

「何してたんだ?」

抱かれる。それは瞬時に分かった。そしてこんなふうになってしまった以上逃げられないことも、何を言っても彼の興奮が収まらないことも分かった。

「……怒らない?」

カイルはわたしの額に頬をすり寄せ、わたしの髪をかき抱いていた。くすぐったくて、気持ちよくて、もっと、もっとして欲しいと思った。

「ちゃんと喋ってくれるなら怒んねえよ」

意地悪だなぁ、と思った。でも普段はよっぽど我慢しているのだろうな、とも思った。既に下腹部に温かい彼のものが当たっていたからだ。

「カイルのこと、考えてて……」

それ以上は続けられなかった。貴方に抱かれる妄想を膨らませながら自慰をしていた、そんなふうには、言えなかった。

「それは知ってる。聞きたいのはそれじゃない」

わたしは恥ずかしくて耐えきれず、思わず涙ぐむ。

「う……、一人で、え、エッチしてた……」

下腹部に当たったカイルの欲望が更に熱くなっているのがわかる。わたしの髪を弄ぶ彼の指の力が、さらに強くなる。

「そだな、見りゃわかるよ」

「幻滅しない……?」

彼はへへ、と耳元で微かに笑う。そうしたあとで「うーん。幻滅というか、興奮はしたぜ」と囁いた。

「……外に人はいないの?」

耳に鋭い刺激が走る。どうやら耳たぶを噛まれたらしい。甘噛みとはいえ、カイルの力は強いので、少しばかり痛すぎた。

「今はどうだっていいだろ、多分まだ戻ってこねぇから」

カイルの少し苛立った声と唇が耳のひだに当たる。息の荒くなった男の低い声が鼓膜で震え、神経を伝って、脳をも震わせた。
力が抜ける。頭がとろけてしまいそうだ。
そのままベッドに押し倒され、仰向けになる。わたしは覆いかぶさって来るカイルをそのまま声も出さずに受け入れた。カイルはむき出しのままの女の胸を早く自分のものにしたいのか、わたしの首筋に触れて指をもぞもぞさせていた。

「初めてだから、やさしくしてね」

「……おう」

おそらく、彼だって初めてなのだ。
ふたりで海の絵を眺めた時、お前が初めて好きになった女の子だと告げられたことを思い出しながら、ぼんやりとそんなことを思った。
その答えは未だに返していない。
言葉にしてしまえば最後、彼を閉じ込めてしまうような、幸せがこぼれ落ちてしまうような気がして、好きというただそれだけを言うことすら出来なかった。

「俺さ、多分下手くそだから、その……痛かったら言えよ」

格好悪い所を見せたがらない貴方がそんなことを言うなんて、なんだかかわいいなと思った。

『貴方が初めて好きになった男の子だよ』

あの時は言えなかった。

でも今はあの頃じゃない。
すき。
わたしは掠れるような声でありふれた愛の言葉を囁いた。
短く、どことなく自信なさげな自らの声。
きっと耳のいいカイルは聴こえているのだろう。
でもわたしはもっと、もっと……カイルを愛してる気持ちを、このどうにも言葉にしづらい心をしっかりと伝えたかった。

「大好きだよ、カイル。たくさん愛して」

カイルの目付きが変わった。どうやらわたしの言葉によって彼の中で理性の糸が切れたようだ。
カイルはわたしの胸を覆うように手のひらをあて、やや乱暴に揉みしだいた。汗ばむ手からは体温が伝わる。彼の動きがわたしの触覚を通して少しの痛みと悦びに変わっていく。乳房の先端をくすぐられ、思わず淫らな声を上げてしまう。カイルはそんなわたしの声に反応し、ぴくりと身体を震わせた。そして僅かな無呼吸のあと胸に顔を埋め、まるで赤子のように乳首を貪りだした。私はカイルに身をゆだね、目をつむった。

見ることをやめると、ベッドに染み付く男のにおいよりも強いものがあることがはっきりわかった。硬質な髪の毛が顔に触れる。好きなにおいが強く感じられる。彼は間違いなく生きていて、興奮していて、わたしをめちゃくちゃにしてやりたがっていた。自身が作り出す霞のような妄想より、ずっと強かった。

胸からの刺激がわたしの秘部に伝わり、これまで以上に蜜が溢れ出す。乱れたリズムで仰向けの身体に電撃が走る。
「も、片方も……あ……ん……。ね、カイル? 」
喘ぎ喘ぎそう伝えると、カイルは素直に反対の胸元へ唇を落とす。あまりのいとおしさにわたしは彼の頭をゆっくりと抱く。わたしは彼の長い髪をかき分けいやらしい手つきでうなじに指を這わせた。
あ、と力の抜けた、彼にしては高い声を漏らすカイル。そして乳を吸うことも忘れ、身を縮めた。

「きもちいい? 」

しばらくそうやったあとで声をかけるとカイルが不服そうに唸った。くすくすと笑いながら目を開ける。そしてああ、かわいい、大好きよと思いながらカイルのことを見つめた。カイルは快楽に耐えながら、何してんだよと言いたげな顔をしていた。それでも彼を愛撫する手はやめなかった。彼は逃げたいような、でももっとしてもらいたがってもいるような切ない表情を浮かべていた。

「ね、次はカイルとキスしたい。まだしてないでしょ?」

「あー、分かったから、その手、離してくれ」

どうやら彼はこんな時、情けない姿を見せることが恥ずかしくなるらしい。もっときもちよくなってほしい思いはあったけれど愛撫する手を止め、代わりにたくましい腕に掴まった。

「首はだめだっつーの」

さりげなく手を繋ぎながらむくれるカイル。そのまま唇を奪われ、強い力で口の奥深くを犯された。舌を絡ませ、唇を吸い、上顎に舌を這わせる。カイルの唾液をごくりと飲み込み、また舌を絡ませる。溢れたふたりの唾液はわたしの顎に伝わった。言葉を発することも出来なければ満足に息もつげない。でも、それで良かった。鼻から口から漏れるこもった喘ぎと口の中に広がるカイルの味があれば、もう何もいらなかった。
カイルだって私でいっぱいなんだ。ふと、そんなことを思った。その途端なんとも言えない興奮が首筋をビリビリ刺激して、苦しくなった。カイルは名残惜しそうに私の口内をひと舐めして離れた。多分わたしの身体に力が入ったのがわかったのだろう。どちらのものかも分からない唾液が口元からだらりと垂れた。
「カイルのキス、温かかった」
やや呂律の回らない口調で、えへへと笑う。既にわたしの身体は脱力してふにゃふにゃになっていた。性欲の塊に成り果てたカイルの目がさらに強さを秘めた。
「次はどこがいい?」
恐らく言わなければおあずけのまま、焦らしてくるのだろう。どうにもいじわるが好きな人だ。おおらかで人の嫌がることをしない普段の彼からはとても想像出来ない。見るからに我慢出来るのが得意では無さそうなのにそんなことを言ってしまう、子供みたいな彼が本当に愛しくて堪らなかった。
「教えてくれよ」
そんなことをカイルが言うものだからわたしは彼の右手を取り、ゆっくりと太ももを触らせた。わたしが何も言わないせいで脚をまさぐることも出来ないカイルがもどかしそうな表情をする。
「どこにしようかな」
カイルの手がわたしの欲望の溢れる場所からどんどん離れる。
「……ごめんって」
空いている方の手でわたしの頭を撫でたカイル。彼の少ししょげている表情が、おやつを貰えない大型犬に似ていた。シャツから見え隠れするたくましい身体。あの中に埋もれたい。わたしの理性もだいぶぐちゃぐちゃになっていた。
「そろそろ服を脱いで欲しいな」
そしたらわたし、あなたの胸を感じたい。そう言うと、カイルは大人しく服を脱ぎはじめた。手入れの行き届いていない髪が大きく揺れる。余計なものが一切無くなったカイルの姿はいつもより大きく見えた。勃ちあがった欲望の塊は紅潮してどくどくしている。腹に血管が浮いていて、一刻も早く解放されたがっていた。
今度はわたしが彼の胸に埋もれる番だ。ありったけの愛を込めてめいっぱい抱きしめた。カイルの男臭いにおいを吸い込んで、わたしの肺をカイルで満たした。カイルの指がわたしの腹に、尻に、そしてしばらく撫で回したあとそのうちの一本がわたしの欲望の割れ目に触れた。ぐちゃぐちゃと粘り気のある水音がわたしたちの頭を空っぽにしていく。そのうちにカイルの指がもう一本、わたしの中を犯していく。そしてばらばらの動きをする彼の指に弄ばれた。その動きが早くなるごとにただひたすらに身を捩り、息を切らし、喘ぎ、高揚する性欲を感じるしかなかった。
もう何もかもがどうでも良くなった。知能は退化し、欲に忠実に身体全体を強ばらせていた。
「あ、あっ……もう、も、げんか、い……、あ……!」
しばらく全身に恐ろしく力が入ってカイルの指を締め付け、次の瞬間には目の前が真っ白になっていた。
痙攣する身体。目の前はチカチカする。はー、はー、とやけに自分の呼吸音が頭の奥に響く。
カイルの指がぬるりと出ていくのを感じた。だめ、もっとちょうだい。そう言うだけなのに最高のふわふわの中では声に出せず、情けない喃語のようになってしまう。
脚を広げてどろどろに溢れた秘部をカイルに見せつける。もう一回して欲しい。もっと、もっと。
カイルは何も言わなかった。代わりに、わたしの身体がカイルの大きなものをゆっくりと飲み込んだ。やっぱり、想像していた通り痛い。でも最高に幸せだった。痛かったら言え、そんなことを言われた気がしたけど、わたしはそんなことを言う気にもなれず、ただ彼の目を見つめた。その目は切なそうに歪んでいた。そしてキラキラと潤んでいた。獲物を捕らえ満足そうな顔をするのだろうと思っていたわたしは、その表情に何故か涙が零れてしまった。
「カイル」
大きな喘ぎの合間に、彼の名を呼ぶ。
「な、に」
わたしのからだを感じている。
「待たなくていいよ、がまん、しないでいいよ」
彼は強く、遠慮なしに動き出した。
わたしを激しく突き上げるカイルは全てが強すぎてお世辞にも上手いとは言えなかった。けれど、この強い痛みと少しの快感はたしかに彼の愛だった。
「う、ぐ……ふ……うぅ」
彼の口から漏れるそんな喘ぎは耐え切れぬ快感なのだろう。
痛みに耐えながら、わたしは彼の腕を優しく握る。
「こえも……いいん、だ、よ……」
「……やだね」
「ききたい」
「こ、んど……」

今度とは、いつのことやら。
しばらくしてからカイルは何も言わず、息を止めて静かに果てた。脱力したカイルの身体は既にわたしから離れていた。彼の白い愛は全て外に出ていて、わたしの愛液と滲んだ血とが混じりあっていた。

「ヘレン」
か細い声だった。わたしを後ろから優しく抱き寄せるカイルは、普段のおおらかなカイルに戻っていた。
「ごめん」
痛かっただろと言うのも辛いのか、悟られぬよう息を潜めていた。恐らく、少しべそをかいているのだろう。
優しくしてねって言ったじゃん。そう言うのはまた「こんど」。満たされた幸福を背中に感じながら、わたしは優しく声をかけた。
「大好きだよ」

心から言えること

……小っ恥ずかしいですね。
読んでいただきありがとうございました。

心から言えること

とある男女のはじめての話。ラブラブです。

  • 小説
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  • 成人向け
  • 強い性的表現
更新日
登録日 2019-05-31

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