Mariaの日記 -11-

Mariaの日記 -11-

 朝。
 真理子は、「Mariaの日記」を読んで首を傾げた。
 内容が不自然なのだ。マー君の手紙をMariaが解釈出来ないことではない。
 Mariaの頭が変であるように書かれていることなど、今更問題ではない。
 この日記にはブログ主から真理子へのメッセージが書かれている。
 真理子は結論を声に出してみた。

「マー君はMariaに好意など無い」

 やはりこのブログは、真理子を馬鹿にしたいだけなのかもしれない。
 では何故、郵便入れに指先を入れるような手間を掛けるのか。
 あれはブログ主ではなかったのかもしれない。例えば、部屋を間違えただけなのかもしれない。
 郵便入れに差して置いた何かを取り出そうと指を入れた後、部屋を間違えたことに気付けば慌てて逃げてしまうだろう。
 もしくは、空き巣目的の泥棒が各部屋の様子伺いをしていた可能性だってある。

「あーもう、イライラする!!」

 真理子は大きな溜息を吐いた。
 どんなに考えたって結論など出ないのだ。真実を知っているのはMariaだけなのだから。
 隣の部屋からガタリと大きな音がした。隣人が何かを落としなのか、真理子の声が大きすぎてイラついて何かを叩いたのか分からない。だが真理子の今の声が聞こえてしまったことは間違いないだろう。安普請なアパートなのだ。

――結婚か……。

 もう二十八歳。やはり結婚相手を掴み取ることだけはMariaを見習わねばならない。
 真理子はクローゼットを開けて今日の服を選ぶ。毎朝の助手席を利用しない手はない。品は良いが少し短めのスカートを選んだ。
 真理子のスマートフォンが鳴る。課長の車がアパート前に到着した合図だ。

「おはようございます!」

 真理子は努めて明るく挨拶をしてから助手席に乗り込んだ。
 課長が運転する車の中、真理子は今日の「Mariaの日記」についての感想を告げた。

「マー君はMariaに好意など無いって内容ですよね」

「うん、私もそう思った……」

 課長は、運転しながら言葉を続ける。

「……玄関ドアポストに手紙って気になるかな。土曜日の件もあるし……。雨山は自尊心の高い男だから」

「自尊心……ですか」

「うん。自分は大路さんに好意など無いと虚勢を張っているかもしれない」

 真理子は、課長の言葉を繰り返すように呟く。

「虚勢を……張っている」

「そう。金曜日に駐車場で接触したり土曜日に部屋まで訪ねたりしたことを後悔している。反省って意味じゃなくて、女の為に動いたなんて俺様のプライドが許さないって意味でね」

「反省の後悔じゃなくて、失態の後悔ってことですか」

「暫くは安心なんじゃないかな」

「え?」

「接触したことを後悔しているなら、暫くは接触してこないでしょう」

 真理子は、課長の言葉に頷いた。

 そして課長が宣言した通り、今日の雨山は大人しかった。いつもなら真理子を叱り飛ばすような場面でも気味が悪いほど大人しい。
 机に座り俯いて、何かを考え込んでいるようにも見えた。

――課長の言った通りだわ。

 真理子の中にある、課長への信頼や尊敬の気持ちは膨らんでいく。
 それに伴い、特別な感情も膨らんでいく。



Mariaの日記 72日目

皆さん、こんばんは。
いつもたくさんのコメントありがとうございます。
一人ずつお返し出来なくて本当に御免なさい。
私は人気者で、みんなのMariaだから許してくださいね。

昨日は私が大好きな俳優さんのドラマがスタートしました。
毎週楽しみです。
でも相手の女優さんがあまりパッとしない感じで残念です。
あの女優さんより私のほうが可愛いし……。
いっその事、私がドラマに出られたらいいのに……なんて、これは冗談ですけど。
だってマー君は普通のサラリーマンですもの。
私が女優になったら釣り合わなくなっちゃう。


 朝、真理子は目覚めると枕元に置いてあるスマートフォンに手を伸ばす。
 日課となってしまった「Mariaの日記」を確認するためだ。昨夜も更新はされているが大した内容ではない。
 雨山が大人しくなってきたのに伴い、「Mariaの日記」も大人しくなってきた。
 最近は食事やテレビドラマの感想などばかりで、すっかり毒気が抜け落ちている。

――このまま終息するのかしら……。

 真理子は、スマートフォンを置いて溜息を吐いた。
 終息するのなら喜ばしいことだが……。

――チャンスは二度と来ないかもしれない。家まで送ってもらっているうちに行動しないと……。

 真理子はチャンスを生み出す決心を固めた。
 課長と真理子、互いに一人暮らしであることから生み出されたルールがある。一週間に一度は寄り道して郊外の大型スーパーへと買い出しに行くのだ。
 そして今週は金曜日に行くことになっていた。
 真理子は課長とスーパーで買い物をする行為が嬉しくてたまらなかった。
 でもカートは二つ。
 それが真理子には寂しかった。

――ひとつのカートで買い物出来たら良いのに……。

Mariaの日記 -11-

Mariaの日記 -11-

ピンチをチャンスに! 棚から牡丹餅降ってきた! でもそれ本当に牡丹餅ですか?

  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-05-30

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