なつぞらダイバー 第10週 なつ、絵に命を与えよ

ようこそ、ムービーダイバーへ
ムービーダイバーは、お客様の希望する小説、映画、ドラマの作者、脚本家の傾向を分析し、AI化する事で、お客様の希望するストーリーの中に入り込む事ができる、
バーチャル体験型アトラクションです。

俺は、暑い陽射しの中、ムービーダイバーの店舗に向かっている。

暑い!

暑さを避けも兼ねてコンビニに立ち寄った。
そして、コンビニに入った途端レジの前におでんを発見した。
お・おでん!
このクソ暑い時におでんなんか売れるのか?
おでんを買う人がいないか気にはなったが、レジの前でじっとおでんを見つめるわけにもいかず、渋々店の奥の方の冷たい飲み物を取りに行った。
飲み物を取ってレジに向かうと、なんと!おでんをじっと覗き込んでる女性がいる。
しかも、なんといつものムービーダイバーの女性店員ではないか!

なにやら、店員に注文している。
「ジャガイモ1、タマゴ3でお願いします。」
あ、会計を済ませて出て行く、、、

この暑いのに、熱いおでん?いや、それよりタマゴ3ってちょっと偏っていないか?
そう思いながらも、俺も慌てて会計を済ませて後を追った。

足早に歩いて行く女性を、追いかけて追いついた。
まるでストーカーみたいだなと思いながら、声をかけた。
「こんにちは!暑いですね!」
「あら!お客さん!こんにちは!ほんと、まだ梅雨前なのに凄い暑さですね。
もしかして、今からうちに来られるんですか?」

「そのつもりだったんだけど、もしかしてお昼休み中?」
「いえ、今ちょうどカプセルが満員で、少し時間がかかるから、今のうちにお昼を食べとこって思ったんです。」
「満員ですか、、、、じゃ、また今度に」「大丈夫です!」
女性店員が言葉を被せてきた。
「待合室はクーラー効かせてありますから、汗が引いた頃にご案内できます!」
凄い勢いだ。

「ところで、お客様。」
いや、店の外で様付けで呼ばれるとなんか恥ずかしい。
「いや、様はやめて。」
「そうですか、それではお客さん、歩きながらで申し訳ないですが、今日はどの様なシーンにダイブされますか?」
おっと、ここで聞き取りですか?
「東洋動画で、大沢さんに怒られていた、アニメーターの男の人、あの人がなんか心配で、気になるんです。
なんで、あんなに原画で表現しろってこだわるのか、何か原因がわからないかなって気になるのですが、、、」
「うーん、できるかな?ちょっと、調べてみますね。」
やがて、俺たちはムービーダイバーの店に到着した。
女性店員は俺を待合室に案内すると、事務所に入っていった。

女性店員はコンビニで買ってきた、おでんとおにぎりを机の上に広げて、ヘッドマウントのゴーグルモニターを着けた。
「あのアニメーターさん、名前なんだっけ?」
女性店員はゴーグルモニターをつけたままおにぎりを食べ始めた。
動画を見て、人物指定して、、、、、あ!この人、堀内って言うんだ。。。。
次はおでんのタマゴを食べ始める。もぐもぐもぐもぐ・・・・
「お客さんとどこで、どういうシチュエーションで合わせるのがいいかな?
風車のカウンターで隣り合って、呑んで話してもらうのがいいかな?」
女性店員はゴーグルモニターをつけたまま、タマゴを食べ尽くし、ジャガイモも食べ始めた。
手元が見えないはずなのに、器用なものだ。
「あとは、隣り合う様に他のお客の座り位置を配置して、、、、、これでok!」
女性店員の昼食も食べ尽くされている。
ゴーグルモニターを外して、待合室に向かった。

「お待たせしました、お客様。
今回は、風車の前にダイブしますので、そのまま風車に入ってください。
堀内さんがと隣り合わせになるので、お話になれます。」

説明を聞いて、俺はカプセルに入ってダイブした。

虹色の光が消えると俺は風車の前にいた。
テレビで見る、岸川亜矢美のおでん屋そのままだ。
俺は暖簾をくぐって、引き戸を開き店の中に入った。

店の中は満員だ。
「いらっしゃい。」
岸川亜矢美の声だ。
「お一人さん?狭いけど、そこ座って。」

カウンターに一箇所だけ空いている席があり、それ以外の席は全て埋まっている。
そして、その席の横には、アニメーターの堀内が座っている。

しかも、かなり出来上がっている。

俺はカウンターに座って、とりあえず、ビールを頼み、カウンターの中を覗き込んだ。
「タマゴ3つとジャガイモ。」
亜矢美は驚いた表情でこちらを見た。
なんで、タマゴ3つとジャガイモってオーダーをしてしまったのだろう?
そういや、さっきコンビニで、おでんを買うところ見てたからか。。。。
そりゃ、タマゴ3つって驚くはなぁ。。。。

亜矢美は続けた。
「お客さんたち、知り合い?」

「二人とも、タマゴ3つとジャガイモなんて、珍しいよね。」

「そんな事はない!」
いきなり出来上がっている堀内が声をあげた。
「僕たちは、知り合いじゃない!ヒック!でも、いきなりタマゴ3つ頼むなんて、あなた通ですね。」
いかん、堀内は完全に酔っている。しかも、しゃっくりも混ざっている。
ここは、とりあえず肯定しておこう。

「そうそう、タマゴって全部同じように見えるけど、微妙に違うんですよね。
こうやって、3個並べると、大きさが微妙に違って、小さいのから順番に並べると
タマゴが育ってるように見える。このあとどうなるのかな?
誰かに箸を刺されて、食べられるのか?、はたまた生まれてひよこが飛び出すのか?
ありえない事を考えるの、楽しいですよね。」
俺は適当な事を喋っている。
亜矢美は、ふーんと話を聞きながらも、対面の客の注文があったので、そちらに向かった。

「ぁ、あなたなかなか、やりますね。ヒック!」
堀内が声をかけてきた。
何をやるのかは、よくわからないが適当な相槌をうっていると、堀内は語り始めた。

「アニメーションは人間が手で書くから、何が起きてもいいんですよぉ。
実写でね。おでんのタマゴを写したって、食べる以外何もないんですよぉ。ヒック!
で・でもね。アニメーションなら人が手で書くから、何でも自由にできるんですよぉ。
すごいでしょー!ヒック!」

「何でも自由に、すごいですね。
自分の想像を実現できるって、最高ですね。
仕事も楽しいでしょう?」
「ヒック!仕事は別。仕事は楽しくない!
何にも楽しくない。」
堀内は、急に黙って、ビールを煽っている。
俺もおでんを食べながらも、ここはちょっと探りを入れてみたくなった。
「楽しいことやってるのに、楽しくないですか。
そういう時って、業種は違うけど、うちの職場にギャンギャンギャンギャンうるさい奴がいたんですよ。
一つづつ人が積み上げてきたものを、後からヒョイとやってきて、あーだこーだ、いろいろケチつけて、、、
あの頃は楽しくなかったなぁ。。。。」

お!堀内がこっちを見つめている。
「ヒック!オタクも苦労されてたんですね。実は、うちにもいるんですよ。
人に頼んでおいて、出来上がりを見て気に入らなかったら、ギャーギャー言いだすわ、どうして欲しいのか聞いても、説明できない。
説明できないのに、ダメだダメだと言い続けて、Okを出さない。
結局ムスっとして、行ってしまう。やってられんですよ!まったく。」
予想外だ、堀内がこんなに毒を吐くとは、、、、人は見かけによらぬものだ。。。。
美大を出たのに、芸術家にならないのはどういうことだ、とか、芸術家になったら放浪画家が似合っているとか、
延々と続く愚痴を聞き続けた。

しかし、まぁ、よくこれだけの愚痴が次から次へと出てくるもんだ。
俺はビールを飲みながらずっと聞いていた。
「要は、指示通りに描いてるのにケチをつけられるんですね。それじゃ、もういっそのこと好き勝手書けばいいじゃないですか?
なんでも自由にできるのがアニメーションの魅力でしょ?」
堀内はジッと俺の顔を見た。
「ヒック!それができりゃ、苦労はしないのよ。。。プロはそう簡単に好きに描けない。。。」
ん?なんか、わかんなくなってきたぞ。。。
堀内は大沢に、考えて書けとどやされてるのに、堀内はそれができないと言っている?どういうことだ?
プロはそう簡単にって?何?

「プロはそう簡単に好きに描けないって、でも、自由に想像を膨らますことができて、
それをやってる人が、自由にするなって、なんかへんだ。」
「ヒック!自由に描いていいのは、原画を描く人だけだ。後は、その指示に従って奴隷のように描き続けるんだ。
そうしないと映画は完成しない。。。」
奴隷!?今時!?
「そん世界なんですか!それを知ってってその会社に入ったんですか?」
「まさか・・・ヒック!僕もね、会社に入るときは、いろんな夢を持っていました。ヒック!
会社に入って、最初の仕事で、僕もいろいろ考えて、動画を作ったんです。
それを見た、あの女(大沢)は、言ったんです。動画は原画の通りに描かなきゃ映画にならない。
お前の作品展をするんじゃない。プロだったら原画に忠実に描け!ってみんなの前でこっぴどく言われました。
まぁプロとはそういうものなんでしょう。だから、僕も原画に意思を入れることを期待しています。
それがお互いプロフェッショナルという事だと思ってます。」
なるほど、新人に入った時にいきなり、自由の翼をへし折られたわけだ。。。
「なるほど、向こうは相手にプロを要求しているのに、自分はプロの勤めを果たしていないわけだ。そりゃ、辛いわな。。。」
「ヒック!さすがタマゴを3つ頼むだけはある人だ。わかってくれますか。僕が言いたいのは、人にプロを要求するなら自分もプロになれって事なんですよ。」
堀内は自分の言いたいことが伝わったのか、満足している。
「ヒック!ところで、オタクのギャンギャンギャンギャン言う、やかましいのはどうしたんですか?」
おっと、逆に質問されるか?
俺はちょっと、昔のことを思い出した。
「あのときは、、、、ギャンギャン言う人って、基本的にいい物を作りたいって気持ちが強いんですよね。
その気持ちは俺も同じなわけだし、本当はぶつかる事はないはずなんです。
でも、その人は想いを伝えることがうまくできなくて、俺も敢えて表面に見えているものだけで、判断するようになってました。
同じ想いを持っているのに。。。
このままではいつまでたっても完成しない。
だから、俺が近づくことにしました。」
堀内は結構興味を持って聞いている。
「で、どうやったんです。ヒック!」
「いえね、ゴールは見えてるわけですよ。だから俺がゴールに到達するために、どう考えているのか、どう言う方法でやるか、を先に言うんです。
そうすると、そうするとその人は自分の中で考えを整理することができたんでしょうね。いろいろ話し合うことができました。
最初のスタートに少し時間は掛かるけど、後でやり直すよりゃ随分早く進むようになりました。」
俺は堀内の方を見ると、堀内は船を漕ぐように眠りかけている。

ちぇっ!人に聞いといてなんだよ。。。

俺も随分吞んだ。
なんか、眠くなってきた。
視界が七色の光に包まれた。

気がつくと、俺はカプセルの中に戻っていた。
あれ?
酔ってない。
「おかえりなさい、お客様。ダイブした先での飲食は、実際にはやってないんですよ。」
女性店員が笑顔で迎えてくれた。

「あれだけ、おでん食べてビール飲んだのに不思議ですね。」
俺はそう言い残して、ムービーダイバーの店を後にした。


家に帰ろうと少し歩くと、さっき寄ったコンビニがあった。
何故か吸い寄せられるように店内に入った。

おでんください。

なつぞらダイバー 第10週 なつ、絵に命を与えよ

なつぞらダイバー 第10週 なつ、絵に命を与えよ

  • 小説
  • 短編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-05-30

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work