風凰学園HERO部の抑止力
第1章 主人公は多重人格!?
まず、自己紹介も無し語るのは気がひけ――――いや、引けないか。
まあ、なんだ聞いてくれ。
俺はこの世で一番怖いのは戦争でも原爆でもなく、『女の子』または『女性』だと思うのだ。
俺はある特殊な体質を持っている。
その体質にとって女の子は危険物でしかない、否、起爆スイッチでしかないのだ。
だから、俺は女の子が怖いのだ。
そんなこんなで短いプロローグであった……
『……そのまま直進、次の角を右に……』
耳につけたマイク付きイヤホンから女性の声がする。
「了解」
それに応答するのは俺、河西達彦である。
自己紹介をさせてもらうと、今の俺は天才の人格である。
俺には天才、天賦の才の神経、超直感、最強、の人格を持っている。
なんだその顔は。
嘘だと思ってるだろ! 決して嘘ではないからな! 何が悲しくてこんな嘘言わなくちゃなんないんだよ!
「……」
『……達彦さん、勝手な被害妄想をしないでください……』
……なんだろう、心を見透かされたよ。
俺はさっき言われた通りに道を進むとそこには女性が……そう、女性が……
じ、女性が……
「ちょぉおおおおっと、部長出せやぁあああぁあああ」
俺は叫んだ、そりゃぁもう周りが引くくらい叫んだ。
約一時間前……
「え? 部長、俺に仕事ですか?」
俺の目の前にいるのは風凰学園HERO部の部長、兼、リーダーの藤堂王香。
彼女は俺とは違うが才能を持っている。
彼女の才能はリーダーの素質、人の上に立つ才能を持っている。
性格は……なかなかいい性格をしている。
「ええ、可愛いあなたのために仕事を持ってきてあげたのよ、感謝しなさい」
ニコッと笑いながら俺の頭を撫でる。
……なんだよ、ああ、わかってるよ、だけど今の人格だと女性に弱いんだよ。
「あの、部長? そろそろ、放してくれないと仕事があるんでしょ?」
「それなら心配ないわよ、仕事は明日なんだしもうちょっとこうしてなさい」
ぶ、部長の大きな二つの膨らみが……そう、膨らみが……
「ぶべらっ」
俺は鼻血を豪快に噴射した。
「あらら、この子ったら」
鼻血を拭きながら微笑みかける部長
「……達彦さん、イチャつくのはいいですが私の仕事の手伝いをして欲しいのですが……」
「手伝いですか? ですけど、神崎さん俺はコンピュータは苦手なんですけど……」
神崎美枝、風凰学園三年、HERO部副部長でコンピュータを使わせると右に出るものはいない、あの人抜いては……
無口、無表情、無感情で有名で何を考えているか部長でもわからないらしい。
「……大丈夫、あなたは私の依頼人に会ってもらうだけ……」
ああ、パシリですか。
「いいじゃない、仕事なら私は口出しできないし、神崎、好きに使って頂戴」
部長からの許可が下りた。
「ですが部長、俺は相手が女の子だと……」
「そこは心配しなくても大丈夫よ、少なくても依頼人は達彦の好きなタイプだから」
ニコッと笑いながら伝える部長。
「はあ、分かりましたよ、で神崎さん、場所はどこですか?」
「……後々連絡します、とりあえず、これを耳に着けてください……」
そう言って神崎さんは俺にマイク付きイヤホンを渡した。
それを装着し俺は目的地まで歩みを進めた。
そして現在……
「何かしら、達彦」
「何かしらじゃないですよ! なんで依頼人が女子何ですか!」
嘘ですか! あの時言ったことはまるっきり嘘だったんですか!
「あら、達彦って女の子好きよね?」
な、な、何言っとんじゃごらぁあああああ
「冒頭文から読み直せぇええええええ」
俺の声がその場でこだました。
『……うるさいです、耳を遠くするつもりですか?』
神崎さんからの毒舌が飛んでくる。
「それよりも早く依頼人と話したら? 少なくとも達彦はこの手伝いをするって言ったのだから最後までやりなさい」
そ、そうですけど……
「……はあ、分かりましたよ」
俺は渋々依頼人(女性だが)のところへ行き依頼内容を聞いてきた。
それを神崎さんに伝えて俺の今日の仕事は終わりを――――
「あら、達彦、私にマッサージもせずに帰るつもり?」
部長が俺に微笑みながらそんなことを言ってくる。
……はい?
「マッサージですか? 俺、いつもそんなこ――――」
部長が俺の首に腕が……そう、腕が……
「て、部長キマってる、キマってるって! ホールドぉおおおぉおおおお」
「あら、何かしら」
「微笑みながらしないでくださいぃいいい、怖いからぁあああああああ!」
俺何か言いましたか、俺、何か悪いこと言いましたかぁああああ?
「わ、分かりましたよ、します、させてください、マッサージさせてくださいぃいいいい」
部長はうふふと言って関節技をやめた。
俺は渋々マッサージを始めた。
「たっくん、まだ帰らないの?」
俺が部長に奉仕している目の前にまたも美少女――否、俺の幼馴染みの鐘崎美琴が現れた。
美琴もHERO部の部員だ。
美琴は見つめた人を一瞬にして虜にすることができる。
だが、そのせいで男子陣との友達がいないに等しい。
そんなやつの幼馴染みをやっていられるのは俺が女の子が苦手だからだろう。
「あら、達彦は今、私が所有しているのだけれど、それでも持って帰るつもり?」
部長が挑発じみたことを言う。
ていうか俺って部長の私物ですか?
「ええ、そうですよ部長、それにもう下校時間時間です」
もうそんな時間なのか。
なら、俺も帰りの仕度を……
「何を帰ろうとしているのかしら?」
俺の方を見て部長が言ってくる。
視線が超怖いです。
フ○ーザも腰を抜かして帰ってしまうくらい怖いです。
「あのですね、部長、たっくんが帰ろうが帰らまいがたっくんの勝手ですよね? なら、帰らせてあげてもいいと思いますよ?」
よく言った美琴。
俺は心の中で幼馴染みを褒めていた。
「あら、私はただ、達彦に今日は帰らない方がいいと遠まわしに教えてあげてるのよ?」
は? 俺のため?
今日は俺の厄日か何かか?
「また、そんな嘘を」
「嘘ではないわよ? 達彦、ケータイのメールボックスを見てみなさい」
メールボックス?
俺は部長の言う通りにケータイのメールボックスを見ると……
「げっ」
「なになに? 何が来てるの?」
美琴も俺のメールボックスの中身を見ると同じくげっと言った。
「だから、言ったでしょ?」
部長が誇らしげに言った。
メールボックスの中身は姉からのメールだった。
今日一日で千件を超している。
しかも、内容は全てアイラブユーの平仮名、カタカナ、英語の三種類だった。
言うまでもないが俺の姉はブラコンである。
俺のポスターを作って壁に貼るくらいだ。
だから、俺は女子が苦手なのだ。
「今日は私の家に来なさい、私の家に来ればたとえあなたのお姉さんでも私の家には来れないわ」
俺の姉はどんな無理難題なパズルや迷路もクリアしてしまう才能がある。
故にコンピュータに得意な神崎さんでもハッキングでは俺の姉にはかなわない。
「いえ、今日は帰ります、俺が帰らないと姉ちゃんうるさいし、たとえ部長の家でさえ数秒もすればわかって侵入されるのは目に見えてますしね、ということで俺は帰りますね、行くぞ美琴」
美琴を呼んで部室を出る。
風凰学園から俺と美琴の家は遠くはない。
せいぜい歩いて三十分である。
ちなみに美琴と俺の家はとなり同士である。
「ホントに一人で大丈夫? 私も今日はたっくんちに止まっても……」
「そんな迷惑かけられないって、でも、身の危険を感じたらお前の部屋に行くよ」
「わかった、じゃあね」
「ああ」
美琴と別れたあと俺は嫌々ながら自分の家に帰った。
「た、ただいま……」
とりあえず返事は――――
「おっかえりーーーーーーーーーーーーーー」
か、悲しくなってきた。
「ね、姉ちゃん、帰ってきてたのね、はあ」
「あ、たっくん見て見て、たっくんを主体にソーシャルゲームとRPGとアドベンチャーゲーム作ったよ」
やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ
「あ、あとね同人誌も――――」
「やめてくれぇぇぇえええええ!」
これはあとで聞いた話だが美琴の家に俺の声が響き渡ったらしい。
そんなこと気にせず俺は叫んだ。
「姉ちゃん、たまに帰って来たと思ったら、いきなりそんなもの見せられて喜べると思うか? こっちはいい迷惑なんだ! 少しは考えて――――」
「えぐっ、うぐっ」
や、ヤバっ、姉ちゃん泣いちまったよ(嘘泣きだけど)。
「はあ、姉ちゃん、今日は一緒に寝てやるからもう泣くな」
泣いてないことくらい俺でもわかるが姉ちゃんは放っておくとマジ泣きするので今のうちに謝っておく。
「わーい、今日は私の命日だ!」
「命日かよ! 嬉しいのはわかるが命日じゃねぇよ!」
そのあと俺が料理を作り、俺が片付け、俺の風呂に入って来ようとする姉ちゃんを追い出しと邪魔しかしない姉ちゃんだが、寝るときはかなり甘えてくる。
「たっくん、もっと近くで寝ていい?」
「あ? ああ、いいよ」
俺自身眠いのでもうどうでもいいと思っている。
「たっくん、お姉ちゃんのこと嫌い?」
「は? 嫌いなわけないだろ? 俺たち姉弟なんだし」
これはホントのことだ、確かに俺は女子は苦手なんだが嫌いなわけじゃない。
「じゃあ、抱きついて寝てもいい?」
「……はあ、いいよ」
諦めてオーケーをしてしまう。
「やったー!」
そう言って俺に抱きつく姉ちゃん。
俺より年上だけあって大きな二つの膨らみが俺の同世代女子とは比べ物にならない。
くっ、このままじゃあいつが……変態な人格が出てきちまう。
「ね、姉ちゃん、もう少し離れて――――」
「すぅすぅ」
ね、寝てやがるこのバカ姉貴ぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいい!
『我慢することはないよ、もうひとりの僕、欲情は男の子として素晴らしい思いであって――――』
うるせぇえええええええ!
そんなこと考えるのはお前だけだ!
今のは俺の人格、超直感の人格である。
この人格は可愛い女子を見たり、触ったりすると自動的に出てくる人格なのである。
困ったことにコイツは加○良介よろしく変態なのである。
「くふふふふ、グへへへへへ、こ、これがお姉さんのお、お、お!」
言わせねぇよ?
俺は体の所有権を剥奪されたため、それと眠かったため体をあいつに明け渡した。
次の日……
俺の人格が昨日の夜姉ちゃんに何をしたかは定かではないが、朝起きたら姉ちゃんがご機嫌だったのは見なかったことにしようと思っている俺だったが、ふとケータイがなっていることに気づいた。
「誰だ? こんな朝早くに……」
確認すると部長であった。
「……よし、朝飯はパ――――」
「無視らないで欲しいわね」
背後から冷たい声と圧倒的な威圧感が俺の背筋を凍らす。
「ど、どこから入ったんですか部長」
声の主は当然部長である。
「私がどこから出入りしようと私の勝手でしょ? まあ、あえて言うならどこでも○アかしら」
なんだどこでもド○かぁ……
「なんてなるわけないでしょぉおおおおお? そんな青いたぬきが持っているであろう道具なんて誰も持ってませんよ!」
なんで朝から全力でツッコミをしなくちゃいけないんだ。
俺が息を切らしながらもツッコミをしていると部長は微笑みながら話しかけてきた。
「うふふ、冗談はさておき、そろそろ時間なんだけどなぁ」
ケータイを見ながら部長がそんなことを聞いてきた。
時間ってなんだ?
「部長、時間って何ですか?」
「あなたの仕事に決まってるでしょ?」
そうだった!
今日は俺に仕事が入ってたんだ。
「で、仕事って何ですか?」
「それは依頼人から聞いて、大丈夫、依頼人は私の友人だから」
「はあ……」
話していると部長のケータイの着信音が鳴った。
まさか部長の着信音がミッションインポッシブルのテーマだったことは聞かなかったことにしようと俺の中で念を込めた。
「達彦、場所は学園近くの駅よ、三秒で行きなさい」
「ささ三秒ですか!!」
「間違えたわ、コンマ三秒だったわ」
「なお、悪いわ!!」
俺は部長の言ったことを半分無視しながら、俺は手早く支度を済ました。
支度を済ませた俺は部長に言われた場所へと歩みを進ませた。
「確か、ここら辺だったはず」
駅なので間違えるはずはないのだが、依頼者らしき人影はない。
それどころか、さっきから殺気がすごい。
殺気で全身がピリピリする。
「なんだよこれ」
俺が殺気に動揺していると後ろから声をかけられた。
「あなたが今度の私の守護人?」
その声は透き通るような声で振り向かずとも美女だということがわかる。
「あ、あなたが依頼人ですか?」
自然と敬語になってしまう。
「突然だけど、助けて」
自己紹介もなしにいきなり助けてだって?
ちなみに俺はまだ振り向いていない。
「た、助けてって、な、何から?」
瞬間、殺気はこの子に向けられていることに気づいた。
そして、もう一つ俺の中であいつが久々に目覚めたことに気づいた。
『ほう、女性に助けを求められましたか』
最強の人格。
そいつが今俺の中で久々に目覚めやがった。
この人格は女性に助けを求められた時のみ目覚めやがる。
しかも……。
「さあ、愛おしき美女よ、私があなたを助けて差し上げましょう」
イタイことをいうのだ、この人格は。
「……」
あーあ、依頼者から冷たい目で見られてるよ。
そんなことを考えてるといかにもサラリーマン風の男性がいきなり襲いかかってきた。
「武道をなにも知らない方に私が負けると思っているんですか?」
俺、否、俺の体を使っている最強の人格はサラリーマンの攻撃をいとも簡単に払ってしまう。
攻撃を払うついでに攻撃を加えたのかサラリーマンは倒れたまま起き上がらない。
「ほう、まだまだ殺気の数が減りませんね、というよりさっきよりも増えてますね」
言うまでもないがこの人格は天才、天賦の才の神経、超直感を足してかけたくらいに強くなっている。
故に最強なんだが……。
「なら、あともう一人だけ相手をしましょう」
次に襲って来たのはどこにでもいそうな不良だった。
この攻撃も鮮やかに払いながら攻撃を与える。
不良はもがきながら蹲っている。
「さあ、教えてもらおうか、なんで君が会って間もない私に攻撃をするように催眠術を集団でかけたのか」
集団催眠術だって?
そんなことをしていたのかこの依頼人は……。
「……お見通しってわけね」
ここで初めて俺は体を依頼人の方に向けた。
「試したのよ、王香の可愛がってる、部員だからって必ずしも強いとは限らないでしょ?」
そういうことですか。
この方が集団催眠術を使えたことは気にしないとして俺今試されていたわけね。
「……あれ? 人格が元に戻った!」
最強の人格は何事もなかったかのように俺と入れ替わっていた。
『私のやるべきことは終わった、あとはあなたがするべきことでしょう?』
とか言ってそれっきり黙りだ。
「どうかしたの?」
「い、いやなんでもないんだ、それで? 依頼ってなに?」
あまりにも目の前の美女、否、美少女が可愛すぎて超直感が出てきそうだったのでさっさと依頼を終わらせようと話を進めた。
「聞いてないの? 私の依頼は守護人よ」
守護人それは決められた時間内何が何でもその依頼人を守るというものだ。
ちなみに俺はそういう依頼は苦手だ、なぜなら主に女性の依頼が多いからだ。
「わ、わかった、それで? 期間は?」
「ずっと」
「はい?」
「だから、これからずっと、永遠に、私かあなたが死ぬまで、よ」
ずっと、それは長い期間。
永遠、それはとてつもなく長い時間。
私かあなたが死ぬまで、それは一生。
「……それは長すぎやしませんか?」
「ホントになにも知らされてなかったのね、まったく王香ってば人をからかうのが好きなんだから」
それには同感です。
部長は誰かを(主に俺を)からかうのが大好きなのだ。
『それが王香さんのいいところじゃないか』
超直感はそう言ってくる。
『うん、とりあえずお前は黙っていようか』
俺も心の中で釘を刺しておく。
「どうかしたの? まさかこの依頼は……」
どこか不安そうな顔をする女性。
そんな顔が昔見たあいつの顔によく似ていて猛烈に守りたくなってしまった。
昔犯したミスをまた犯さないために……。
「はあ、わかったよ、その依頼を受けよう」
少女の顔が明るくなった。
「よろしくね、私の名前は沢井鈴音」
「俺の名前は――――」
「河西達彦、でしょ?」
「お前はエスパーか!」
「王香から聞いたのよ、成績は常にトップ、運動神経も抜群、勘も外したことがない、あなたって多重人格なのね」
部長はそこまで教えたのか!
「ちなみにさっきのは王香に教えてもらってないわよ?」
「じゃあ、なんでそんなこと知ってるんだよ!」
「その反応は当たりね」
また試されたのか!
『君は同じ手に何度もかかるんだね』
『うるせぇ、掛かりたくてかかったわけじゃねぇ』
無意識にかかってしまうんだよ。
「ふふ、あなたって面白いのね」
「あのぉ、何がですか?」
「そういうところ」
「何なんだぁああああああああ!」
風凰学園HERO部議事ログ
4月28日月曜日 晴れ
今日は俺の厄日らしい。
以上……。
「続くわよ?」
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