滅びを待つ島で

滅びを待つ彼らに

ファントッドはアドリア海の離島に生息するイヌ科の固有種である。現在確認されている個体数は約200。希少種にも指定されている。

彼らの種としてのもっともユニークな点は、イヌ科の個体でありながら完全な草食と言うことである。加えて一部のグループは海を泳ぎさえする。

この種の祖先が流れ着いたのは島と言えば言い過ぎなほどの過酷な環境だった。
全く巨大な岩と言った代物である。木立が疎らに生えているだけでそれ以外の生物はほんの微かな昆虫ぐらいしかいない。
仕方なくファントッド達は岩に生えている苔をかじることで細々と数万年の間一族の露命を繋いできたのだった。

正確に言うと、ファントッドには二つのグループがあってそれぞれ水種と陸種と呼ばれている。
陸種の個体は海に入って群生している海草を食べると言う生存手段を身につけた。
泳ぎを会得した分陸種に比べて足の筋力が強いのが特徴である。

彼らの生息地は狭小だが、その中でも海と陸に離れて進化したことが、結局この脆弱な生き物たちが死なずにどうにか繁栄した一番の原因なのかもしれない。

ただ最近困ったことが起きている。

近年の温暖化の影響で近海の海水面が上昇したことから、それまで完全な住み分けを行っていた水種と陸種の間に交配種が誕生してしまったのである。

動物学者達はこれを憂慮している。交配種は陸上生活に適応しながらも水種から由来した強い筋力を持っている。
そのため島に生えている潅木に登って葉を食べる事が可能になった。

離島の中に生えている木の数はたかが知れている。
このまま交配種の数が増えれば遠くなく島の木々は食い潰されてしまうだろう。

更に謂えばこの交配種は性格も非常に攻撃的で
純粋な陸種を襲って食糧である苔を横取りすると言う事態も起きているらしい。

このままでいくと食糧自給のバランスが崩壊して、
最善の可能性としても陸種のファントッドは絶滅するだろうと動物学者達は考えている。

この事態をどうするべきかについて学会で話し合いの場が何度か設けられた。
水種と陸種を別々の島に移動させて交配種の発生する原因を絶とう、と言う意見も出された。

だが、
結局はその案は否定された。学者達は、この危機に瀕した種を危機に在るままに見守ろうと、そう決めたのである。

動物とは自然に適応しながら生きている。状況に適応出来なくなったときに、種としての寿命の尽きる時が来るのだ。

ファントッド達は今状況適応の限界に立ち会って居るのである。

滅ぶ事で種、全体の寿命を終えることも生物としてのナチュラルなのである。動物学者達は最終的にこう考えた。

なので陸種のファントッドは今日も乾いた島の僅かな苔をかじりながら、自分たちの最期の時を待っている。

自分たちに最期が待ち受けていることを彼らは知らない。
ただ無心に、僅かな苔をかじっている。

滅びを待つ島で

滅びを待つ島で

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-05-26

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