神様

神様

あなたの可憐なその御姿は神様だけに見せるつもりだったのかしら。
私はそれを知らないままに死んでいったというのか。
この世にたった今生まれ変わったばかりだというのに、あなたはいつも知らないふりをしている。
その姿がいじらしくてあどけない。私はこのまま現世を生きるべきだったのでしょうか。
それともまだあの世への一線を超えれなくて、この世に生きる喜びがわからなくなってしまったのでしょうか。
人間として素直に生きてこなかった私の無礼をお許しください。
でも娑婆の世界とはたかがそんな日常の現実の為だけにできているのではないかしら。
人はいとも簡単に淡く儚げに死んでいってしまう。それ由に美しいのです。ああ、死なんてもうすぐなのだわ。
この世の生命はいとも簡単に死んで無くなっていく運命の中で、生きる価値なんて本当はないのだとしたら、それはこの世の真理では無いのです。
この世に一つとしてない人生の灯が弱々しく薄い陽炎を放ち自問自答をしている。
この世の微かな陽炎の人生群のまわりに物悲しさでうっすらと沈んでいく。
それはあまりにも悲しいです。生きるむなしき物悲しさとは、神様さえも知らなかった人間の真実なのです。
人生とは本当にたった一つだけの宇宙なのでしょう。
それはそれで彼岸花の花が空中高くに飛び散っていく、良かった、私は神から愛されなくても良かったのですから。でもいいえ、私こそが神から愛されなければならなかったのです。
神はそれすらもいとも軽々しく優雅に私の心を見抜いて過ぎていってしまう。そんな簡単なものではなかったわ。
全てのものは過ぎ去っていく。
世界とはまた再びただ静かに黙って人間を静観しなければならなかったのか。それすらも今はもうどうでもいい事なのでしょう。
そんなうつつを抜かした淡白い夢の物語の中で、人生が自然にうまくいっていく。
そして私は誰も行った事のない秘められた天空の乙女の世界へといってしまった。
そんな人間の感情が確かな一つの感情では無くなるその時が本当に来たのでしょうか。
この世から完全に完全に姿がもうとっくになくなったのです。
あの世から全くの新しい人間像が私に提示された時に、ふと人間をやめるのです。
ふと人間をやめれることへの淡く気だるい彼岸の中で、白く佇む少女は一体何を思うの。
このような儚げな薄らいだ人間としてでは決してなく、私はこの世に生まれてきたのです。
そしてこの世で確かに生きてきました。こんな人間で本当に良かったのでしょうかと。

その問いに世のお経が鳴り響く仏教の大伽藍の中で誰も答えてくれない。
ああ何という事でしょう。私が人としてこんなにも感動した事があったでしょうか。
今日は何という全てを悟った美しい仏滅の日だ。

私が人として初めて真剣に自分自身に惚れて、いとおしくて死んでいけるの。この世からもういなくなるその時までまだ微かな温かい人間のままでいさせてください。お願いします。
私は人生をもう一度だけやり直す事はできるのかしら。
それも今となってはもうとっくに昔話になってしまいましたわ。この世は何という諸行無常できらきらと不可思議に移ろいゆくのでしょう。
私は人として初めて原型を留めなくなっていく、そのマリアとの快感の中に、1人の人生にふと儚くものの哀れを教えられる。きっと私は孤独に耐えなければならないのでしょう。
なんだか人として無理をして頑張って生きなくても、もう良かったと、ふと今になってそのように思えてきました。
今になってやっと、人生は何もかもがいとおしく思えてきて、泣けてくる。
死なんか何も感じない、ふんわり弱まり小さくなっていく。あなた、ただ私が生きているそれだけで良かったのと言って、お願いただ私だけを愛してほしい。それで美しくなれるのなら。もういいの、許せないこの人は。私はか弱い乙女だったのですから。
こんなあなたがそこにいるだけで、人生はエレガントになっていくのかしらと、ふと物想いに深く沈んでいく時、この世に誰も聞いたことのないふと神のお告げが微かに薄らぎ聞こえている。
私はもうすでにとっくに死んでいるのだわ。
いいえ、まだ私微かに死なないの。
ふと不思議で静謐な時空がふんわり昇天していく。ああ、死なせて、もうこのまま死なせて、ああ、ついに神の審判が来るのだわ。
やっとのことで今神に私の人生の結論を提示するのです。
こんなにも美しい人が、かつてこの世にいたなんて知りもしませんでした。ああ、この世が感動のうちに誰からも知られずに、すっと手からふんわりと溶けていく。
ああ、これでいいのです。お願い、神様、私をそのままで優しく死なせてください。

お願い、そんな事をあなたにしてしまった私がいけない人間だったのなら。人間としてもう一度だけ、私を正しく生かせる機会をお与えください。
でもそんな美しさはもうすでにこの世には存在していないのです。
そんな事は遠く彼方の淡き希望峰から眺める、娑婆の世界の心象風景で、もうすでにわかっています。
私は人間として人間らしくなる為に、善い行為をしなければいけません。少し今だけでもいい子にならせてください。
本当はこの世に生きている時にいい人になりたかった。
ああ、こんな現世の面倒な俗事なんてもうこれでお構いなし。
これで、もうどうなってもいいんだわ。

ふと雲間から何とも言えない美しい幾億光年の色の兆しに、ぼんやり神の光の啓示は、こんなにも不思議にふとうっとりと意味もなく、死なせてくれるのです。
私を死なせない、死ななかった人生とは、これほどまでに美しかろうに。
ああ、やっと私は人間ではなくなる時が来たのだわ。

私が人間ではなくなったその時、あの世とは感動に満ちた安住の休み場所だと知った。
人生に1つの真理を与えてくれた。こんなにも生きてきた人生の物語の中で、私を美しくしていったのでしょう。
こんな美しい私の人生の物語が確かにあったのです。
だって今まで本当に私は生きてきたのですから。私はこんな事で娑婆の世界は、神の箱庭の宇宙となったのです。
娑婆とは、素晴らしき娑婆でした。これで全てが正しかったのです。
何という心は移ろいゆく生まれ変わりの神様の転生なのでしょう。私は人として今まで生きてきて、これで良かったのだわ。
こんな一人の人間だったのです。私は人間としてうまくいったのです。

神様

神様

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-05-21

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