あなたの美しいひと

大人の身勝手

玄宗皇帝が楊貴妃を愛したように、平城天皇が薬子を愛したように、太陽王がモンテスパン夫人を愛したように、乾隆皇帝が香妃を愛したように、アルバート公がヴィクトリア女王を愛したように、白川上皇が玉藻御前を愛したように、光緒皇帝が珍妃を愛したように、父はその女の人を愛していたので、まあ、結果はひとつだ。私は自分の母親がたいへんきらいだったので、すぐ死ねばいいと思って、離婚と同時に(大学生でよかった)縁を切って(父とも切るべきなんだけど、戸籍上なかなか難しく、むりだった)ああ、これで私はまるはだかに1人きり、これで私が煮られようが焼かれようが揚げられようが、苦しんだり悲しんだりする人はいないんだあ、と思ったら爽快で市役所からアパートまで帰る途中、お寿司を買った。お父さんが幸せになるんだったらそれでいいと私は思った。そして、人を愛するというのはまことにけったいなことなんだなあと、お寿司を食べながら考えていた。私はその人に会うことはなかった。きっと、一生ないだろう。父の、いわゆる運命の女に、彼の美しいあの人に。私は、会ったことがないので勝手に美人にしているけど、実際はどうかな。まあ、美人の定義は人それぞれで、美人女優のだれそれさんだって、めちゃくちゃぶすだと私は思うくらいだから。ともかく父にとってその人は美しい人なのだ。帝王の恋人であるべきなのだ。だってその後迷惑をこうむるのはその他大勢のわれわれなのだから。離婚はもめた。もめにもめた。私は、大学生だっていっているのにしょっちゅう家に呼び戻されて、修羅場の真ん中に座布団しいて座っていた。だからきっと美しい人なんだろう。美しい人に見えるほどに愛しているんだろう。こういうのは、血だから、きっと私も似たようなことをする。お寿司を食べながら考えている。私もいつかきっとそうなる、私は、あなたの美しい私だから。

あなたの美しいひと

あなたの美しいひと

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-05-20

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