花火を見に遠くまで行こうと言った

報われない無視

子どものころ大きな川の近くに住んでいた。河川敷で夏にお祭りがあった。打ち上げ花火は河向こうから上がるんだけど、人々はこちらの岸の河原のぎりぎりまで私を連れて行くので、弾ける時の音の凄いことは、さっき食べたお腹の中身を
どおおんどおおん
と揺らすほどであった。
そのために私はかなり大きくなっても花火が苦手だった。その鮮やかな姿は憎まないまでも、あの、お腹に堪えるような炸裂音。
私は事前にそう言っていたのだけど、それにしても
「一緒に花火大会に行こうよ。」
と言ったその人が、会場からまるで逆の方に進んでいくのにはいぶかしい気持ちになった。
「どこいくの?」
と聞いたら
「いいとこあるから。」
と言った。今日のためじゃなくいつも開いている屋台のお店でたこ焼きとフランクフルトを買って、途中コンビニによって麦茶とビールを買った。
着いたところは小さなビルだった。
「なにここ?」
「昔うちの家が持ってたビル。借金のかたに手放したんだけど、買った人も結局なににも使ってないんだ。鍵が壊れてるの、ずっと知っていたから。」
我々はたかだか3階分の階段を登って、あるんだか無いんだか分からない、少なくとも何かの意図にここしばらく利用された形跡のない、埃っぽい屋上で、音もなく上がる花火を二人で見た。
「ここなら音も怖くないでしょう。」
つまり私が安心して花火を見られるように、その人は連れてきてくれたのだった。
その人にはちゃんとした好きな人が遠くに住んでいた。
私は、私をちゃんと好きでいてくれるのでない人が、私にこころを配ってくれたことを、とても悲しく想っていた。

花火を見に遠くまで行こうと言った

花火を見に遠くまで行こうと言った

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-05-20

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