リュウになる少女

おおへんり 作

 小高い丘に、小さな寺があった。その寺では、オショウが子供たちを相手に読み書きを教えている。ある日のこと、いつものようにオショウが子供たちに教えていると、少女が一人やって来た。少女は窓から身を乗り出して、オショウに頼んだ。
「オショウさん、わたしにも読み書きを教えてよ、利口になりたいんだ」
「感心な娘だ、いいとも、中に入っておいで」
 オショウが手招きすると、少女は窓を乗り越えた。そして、早速字を習い始めた。ところが、室の後ろの方では、いじわる好きの三人組がヒソヒソと相談を始めた。
「おい、アイツをいじめてやろうよ」
「それはおもしろい、どうやっていじめようか」
「こういうのはどうかしら、アイツの家にカエルを投げ込んでやるのよ」
「カエルなんてだめだ、ヘビにしよう、大きいのがいい」
「でっかいヘビがいる所知ってるよ」
 相談がまとまると、三人組は学習が終るのを心待ちにした。学習が終ると、子供たちは表に飛び出して行った。少女はみんなと仲良く遊んで、夕暮れになると帰りかけた。近くで遊んでいた三人組は、少女の後を付けた。川沿いの小道を上って行って、街外れにある大きな池の所まで来た。
「こんな所に家があるのかなあ」
「見ろよ、あんな所に小屋があるぞ」
「アイツ、小屋に入って行ったわ」
 三人組は少女が小屋に入るのを見ると、ヘビやカエルやヘビを窓から投げ入れ、木に隠れて様子を伺った。
「あれ、おかしいぞ、アイツ驚かないのかな」
「驚き過ぎて気絶したんじゃないの」
「とにかく小屋の中を見に行ってみよう」
 三人組は、窓から小屋の中をのぞいてみた。けれど、小屋の中は暗くて何も見えないので、入り口に回って足を一歩踏み入れた。その時、恐ろしい鳴声が響いてくる。三人組は先を争いながら、暗くなった川沿いの道を逃げ返って行った。
「先の声は何だ」
「あれはきっと化物よ」
「化物なんているものか、アイツがおれたちをおどかそうとしたんだよ」
「明日も寺に来たらひどい目に合わせてやろうな」
 三人組は寺の門の所まで来ると、そんなことを決めてお互いの家に帰って行った。
 次の日も少女は寺に出向いた。境内に入ると、少女は三人組とその友だちに取り囲まれた。
「わたしに何かようなの」
「きのうはよくもおれたちをおどかしてくれたな」
「あなたたちこそ、あんなひどい事をしたくせに」
「うるさい、こうしてやる」
 一人がそう言って棒で襲いかかると、仲間の者たちも少女に殴りかかった。少女は傷だらけになりながら、倉の中に逃げ込んだ。三人組は、倉の中まで追いかけた。倉の中は真っ暗で、何も見えない。
「気を付けろ、逃がすんじゃないぞ」
「わかってるよ、見つけたらもっとひどい目に合せてやろう」
「あっ、あそこで何か光っているわ」
 三人組は、その所に近付いてみた。すると、地の底から響いてくるような恐ろしい鳴声がする。驚いた三人組は、転がるように倉からはい出した。そこに、オショウがやって来た。
「どうした、お前たち、そんなに青い顔をして」
「化物がいるんだ、あの倉の中に」
「化物なんかこの世にいるものか、またわしをからかっているな」
「本当よ、わたしたち、恐ろしい鳴声を聞いたのよ」
 オショウと三人組が話していると、倉の中から少女が出てきた。オショウは少女の傷を見て驚い。
「どうしたんだ、その傷は・・お前たち、またこんなひどいいたずらをしたな、こっちへ来い、仕置きしてやる」
 オショウは三人をしかるため、三人組を本堂に連れて行った。その夜、打ち合わせた通り、三人組は少女の家のある池のほとりに集まった。
「アイツはきっと化物だ、本性をあばいてやる」
「そうだよ、あの恐ろしい鳴声はこの世のものじゃない」
「わたしたちで退治してやりましょ」
 三人組は足音を忍ばせて、少女の家に近付いていった。
「誰かのぞいて来いよ」
「おれが行ってくるよ」
「気を付けてね」
「アイツ、いないみたいだな」
「じゃあ、みんなで中に入ってみよう」
 三人組は、家の中に入って行った。家の中は油灯一つともっていて、ほのかに明るい。三人組は、家の中を歩き回った。
「なんだ、何もない家だな」
「ここに変なものが落ちているわ」
「あそこにも同じものが落ちている」
「何だ、これは」
「あっ、これはリュウのウロコだ」
「これがリュウのウロコだとすると、アイツはリュウなのか」
「早く逃げましょ、見つかったら大変だわ」
「何言ってるんだ、おれたちで退治してやるんだ、アイツが寝ているすきに家ごと燃やしてやろう」
 三人組が外で隠れてしばらくすると、池の中から大きなリュウが現われた。リュウは少女に化けると、家の中に入って行った。三人組は少女が眠るのを見届けて、家に火を付けた。次の瞬間、家は炎に包まれて燃え出した。
「やったぞ、リュウを退治してやったぞ」
「おれたちに逆らった罰だ」
「いい気味よ、地国に落ちるといいわ」
 三人組が高笑いしていると、炎に包まれた家の中からリュウがはい出してきた。それを見た三人組は、恐れおののいて一目散に逃げ出した。リュウはかん高け降く叫びながら、彼らの後を追いかけた。三人組は川沿いの道を駆りて、水車小屋に逃げ込んだ。水車小屋に三人組が潜んでいるのを知ると、リュウは胴体を水車小屋に巻き付かせてしめ付けた。
「誰か来て・・誰か来てよ・・」
「助けて・・助けて・・」
 三人組がいくら叫んでも誰も来はしない。水車小屋は、音を立てて壊れてゆく。リュウは一人が倒れた柱にはさまれて動けなくなっているのを見つけると、その一人を大きなつめで細切れに引き裂さいた。
「今のうちに逃げよう」
「どこに逃げたらいいの」
 リュウが仲間の一人に気を取られている間に、後の二人はその場から逃げ出して家にたどり着いた。がんじょうに戸にかぎをかけていると、その子の両親が見に来た。
「こんな遅くまでどこに行っていたの」
「父さん、母さん、大変だよ、リュウに追われているんだ」
「何をばかなことを言っているんだ」
「おじさん、おばさん、本当なのよ、リュウが追いかけて来るのよ」
「同じように何言ってるの、もう遅いから家に帰りなさい」
 その途端、壁が壊れてリュウが頭をのぞかせておぞましい声で一声鳴いた。例の二人はそれぞれ空の水かめの中に飛び込んだ。その子の母親は驚いてその場に倒れる。父親はおのを持ち出してリュウと格闘を始める。けれど、リュウの前足の一撃で父親は伸びてしまった。すると、リュウは水かめの一つに襲いかかり、水かめを壊すとその中の子をかみくだいた。となりの水かめに潜んでいたもう一人は、家を飛び出して駆け出した。
「誰か助けて・・誰か助けてよ・・」
 その子が大声を出しながら町中を走り回ると、家の中から次々と人が出てきて大騒ぎになる。通りも広場も橋の上も、人で人で一杯になる。その中をかき分けてその子は逃げてゆく。リュウも人たちを踏みつぶしながら追いかける。と役所から兵隊たちがくり出してきて、リュウを取り押さえようするが、大きな尻尾でけちらされてしまう。町はどこもかしこも、リュウに踏みつぶされた死体で一杯になった。
 その子が海まで逃げると、リュウも海まで追いかけた。その子が山ま逃げでると、リュウは山まで追いかけた。その子はいつまでもいつまでも逃げ続けて、リュウはどこまでもどこまでも追い続けた。何百年たったの現在も、それは続いているらしい。

リュウになる少女

リュウになる少女

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-05-18

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