オニが出た

おおへんり 作

 ある所に大きな山があり、ひとりのオニが住んでいた。その山のふもとには、小さな町があり、人々が平安に暮らしている。町の人々は山に度々出かけるが、そのオニを見ることがない。オニは人間に会わないようにしていたからだ。
 ある日、木を切りに来た町の者二人が、道に迷って山の奥深くに入り込んでしまった。オニは見つからないように林の中に身を隠し、二人が行き過ぎるのを待った。
「こんな山奥じゃオニが出るんじゃないか」
「そうかも知れないな、早く帰り道を探そう、オニに出会ったらどんなひどい目に合わされるかもしれないぞ」
「ああ、恐ろしい恐ろしい」
 二人はそんな冗談を言いながら、道を探していた。それを聞いていたオニは怒った。
『何を言いやがる、人間の方がひどい事をするくせに、こうなったらオニがどれほど親切でやさしいものか、見せてやる』
 道に迷った二人を助けてやろうと考えたオニは、林の中から声をかけた。
「おうい、お前たち、道に迷ったらしいな、おれが帰り道を教えてろう」
「どこの誰かは知りませんが、ありがとうございます、ぜひ道案内をお願いします」
「じゃあ、おれに付いて来い、こっちだこっちだ」
 オニは林の中から二人の前に姿を現わした。その途端、二人は驚いて走り出した。
「オニが出た、オニが出たぞ」
「おうい、そっちじゃないぞ、反対の道だ」
 二人はオニの声も耳には入れず、ただひたすら駆けていった。
『ばかなヤツらだ、せっかく親切に教えてやろうと言っているのに』
 オニは益々腹を立てながら、すみかに戻って行った。次の日、オニは山を下りて、町の方に向かった。オニが親切でやさしいということを教えてやる・・とつぶやきながら。その途中で、車輪が壊れて動けない荷車に出合った。オニは近付いて行って、笑顔で話しかけた。
「これは大変だ、おれが直してやろう」
 荷車を引いていた男は、オニの姿を見ると驚いて逃げ出してしまった。
『ばかなヤツだな、こんなうまい酒を放り出して逃げるなんて、おれのどこが恐ろしいんだ』
 荷車に積んでいた酒を、オニは嬉しさ半分悔しさ半分で全部飲んだ。そのまま、酔っ払いながらすみかに戻った。オニは次の日も町に向かった。オニが親切でやさしいことを教えてやるぞと思いながらも、何をしようという当てもなく歩いていた。町外れの金持らしい大きな屋敷の前まで来ると、中が異常に騒々しいことに気付いた。
『あいつら、強盗だな、おれが捕まえてやる』
 塀越しに中をのぞいたオニは、そのまま屋敷に飛び込んでいった。暴れていた強盗たちは、驚きに驚いて、オニの前にひれ伏してしまった。
「どうだ、お前たち、その首をぶっちぎってやろうか」
「どうかお許しください、命だけはお助けください、もう二度とやりませんから」
 オニは強盗たちをいかくして、勝ち誇っていた。その有様を見ていた屋敷の者たちは、オニを強盗の首領とかん違いした。そして、すきを見て門の外に飛び出して、助けを求めた。
「助けてくれ、オニが出た、助けてくれ」
 その声を聞き付けて周囲から人が集まってきて、オニや強盗たちに石ころぶつけ出した。強盗たちはみんなに取り押さえられたが、オニは塀を乗り越えて逃げ出した。
『何という恩知らずの人間どもだ、せっかく助けてやったのに』
 オニは酒をあおりながら、ぐちをこぼしていた。その頃、捕まった強盗たちは役人の調べを受けていた。
「私たちはオニにおどされて、しかたなくやったのです、おれ様の言うことを聞かないと食ってしまうぞって、その恐ろしさはもう地国にいるようで、とても嫌だと言えませんでした」
 ということで、オニは益々悪者にされていた。そして、オニを退治しようという話がまとまった。
 翌日、朝早くにオニの討伐隊は山へと出発した。腕自慢の若者ばかり十人もいる。山に入ると、町の者が出合ったという所を調べた。
「あそこに大きな社があるぞ」
「こんな山奥に社を造るのはオニぐらいのもんだ」
「おれが一番手柄だ」
「いや、おれがオニの首を取ってやる」
 先を争うように討伐隊は勇ましく近付いていった。その気配を感じ取ったオニは、愛用の金棒を肩に担いで姿を現わした。
「おれに何の用だい」と言うと、人の倍ほどもある金棒を振り回した。討伐隊の若者たちは、先の威勢の良さも消え失せて一目散に逃げ返った。ところが、一人だけ腰を抜かして動けない者がいる。
「お前は逃げないのか」
「はい、オニ様、足腰が立たなくて」
「ははは・・おれと一緒に来い」
 オニはそう言うと、その若者を抱えて社に戻った。そして、部屋に案内すると、酒とごちそうの用意をして、もてなした。
「お前、オニをどう思う」
「はい、オニ様、オニは恐ろしいものと思います」
「ははは・・それは間違いだ、本当はオニは親切でやさしいんだ、わかったか、町に戻ったらみんなにそう伝えるんだぞ」
 やがて、若者もオニも眠った。しかし、真夜中起き出した若者は、眠っているオニの首を切り落とした。そして、夜が明けると、オニの首を下げて山を下り出した。その時、オニの首も目覚めた。
「ああ、どうしたことだ、胴がない」
「へへへ・・ばかなオニめ」
「お前、よくもあざむいたな、あんなに親切にしてやったのに」
 町に戻ると、若者は町中の人たちの大歓迎を受けた。そして、オニの首は大橋の欄干にさらされた。町の人たちはオニの首の前を通るたびに、オニの首に悪態をつく。オニの首も言い返すが、なぐられたり、つばきをかけられたりする。オニの首を取った若者も毎日大橋を通って、オニの首に平手打ちをしたり、小便をかけたりする。オニの首は、そんな悔しい日々を送っていた。首をなくしたオニの胴は、首を探してさまよい歩いた。首がなく周囲が見えないものだから、探すのは大変だが、首と胴とは心ひかれるものがあって、胴は次第に首の近くに迫っていった。そうして、町中が寝静まったある日の深夜、首と胴は結ばれた。
『あの若僧め、首を切り落としてやる』
 胴がつながってもオニは胴を布で隠して、いつものように欄干にさらされていた。朝になると、いつもと同じに、そこを通る人たちはオニの首に悪態をつきながら通って行く。そのうち、例の若者もそこに来た。
「へへへ・・ばかなオニめ、きょうの気分はどうだ、何とか言ってみろ」
「きょうは最高にいい気分だ」
「そうか、その分もっともっとぶったたいてやる」
「おもしろい、思う存分やってくれ」
 オニはそう言うと、布を振り払って立ち上がった。若者は驚きに驚いて、腰を抜かした。
「どうしたんだ、早くぶったたいてみろ」
「オニ様、どうかお許しください、命だけはお助けください」
「お前みたいなヤツはこうしてやる」
 オニは岩石のようなこぶし振り上げると・・。その時、火事だ、火事だと遠くから声が聞こえる。その響きを聞いてオニは、振り上げたこぶしで布をつかむと若者を欄干にしばり付け、煙が立つ場所へと駆け出した。
「どこだ、どこだ、火事はどこだ」
 オニは火事場に着くと、火山のように炎を上げる屋敷の中に飛び込んで、中にいる人たちを救い出した。しかし、炎は広がって町を飲み込んでゆく。オニはやぐらによじ登ると、雨雲を呼び続けた。炎はやぐらに燃え渡って、オニへと迫ってゆく。オニがなおも呼び続けると、雨雲が押し寄せてきて、大雨が降り出して、炎を消してゆく。しかし、オニはやぐらが焼け落ちて、地上に投げ出されて気を失った。気が付いてみると、寺の講堂に寝かされていて、町のたちのかっさいを受けていた。町の真ん中に社が築かれ、オニは生き神様として祭られた。オニの世話は、例の若者の仕事になっている。町の人たちが参拝に来ると、オニはこう言いながら高らかに笑う。
「町の人たちよ、知っているか、本当はオニは親切でやさしいんだ、困ったことがあれば何でも言って来い、わはは・・」
 けれど、町の人たちは、ばかなオニだなあ・・といつも心の中で笑っていた。

オニが出た

オニが出た

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-05-18

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