ネコに恋したトラ

おおへんり 作

 山の奥深くの森に、若いトラが住んでいた。トラは森の主で、全てのことは思い通りになっていた。ある日、となりの山の森から友だちのトラが遊びに来た。トラは自慢の自分の洞穴に案内し、友だちのトラといろいろ話を交わした。
「おい兄弟、なかなかいい洞穴だな」
「そうだろう、広々としているし、夏は涼しいし、冬は暖かいし、奥に行けば泉が沸いている」
「なるほど、いい所だな、おい兄弟、花嫁はいないのかい」
「まだなんだ、いいメストラはいるかい」
「よし今度紹介してやろう」
「そいつはありがたい」
「おい兄弟、街に行ったことがあるかい」
「街なんて見たことも聞いたこともないな、それはどんな所だ」
「街はとてもおもしろい所だな、多勢の人間がいて毎日遊びながら暮している、欲しい物は何でも店という所で売っているから、おれたちみたいに一日中走り回ることはないんだ、ウシもブタもウサギも何でもすぐ食える、果物の酒よりうまい酒がある、そんな楽しい所だ、兄弟もぜひ行ってくるといい」
 友だちのトラから街の話を聞いたトラは、自分も行ってみたくなった。次の日、トラは山を下りて街に向かった。街に着いたのは、日が沈んだ頃。トラは夜の暗さにまぎれて、いろんな所を見物して回った。そうこうするうち、大きな屋敷の門まで来たら、その中からとても美しい歌声が聞こえてくる。その歌声にひかれたトラは、門を飛び越えて、歌声が響いている部屋に近付いていった。窓からその部屋をのぞき込むと、美しいネコが歌を歌っていた。
「お前は何と美しいんだ、おれ様の花嫁にしてやろう、さあ、おれ様と一緒に来い」
「バカを言わないで、あんたはトラじゃないの、トラの花嫁なんかになりないわ、あっちへ行ってよ、行かないと守衛を呼ぶわよ」
「ネコのくせに生意気なヤツだ、力づくで連れて行ってやる」
 トラは怒り出して、窓を破って中に入った。そして、ネコを捕まえようと追いかけ回した。ネコは軽やかに逃げ回って、大声で助けを求めた。すると、屋敷の奥から剣や槍を持った若者たちが駆け付けてきた。トラは彼らに散々ひどい目に合わされて、全身キズだらけになりながら、壁を突き破って逃げ出した。

 トラは体と心のキズで元気をなくして、長い間寝込んでいた。そこへ、再び友だちのトラがやって来た。
「おい兄弟、元気にしているかい」
「見てくれ、こんな有様だ」
「どうしたんだ、ひどいキズじゃないか」
「兄弟、聞いてくれ、おれがこんなひどい目に合ったのはな・・」
「森の王様であるトラがネコを好きになるとはばかなヤツだ、まあいい、おれが名案を教えてやるから、早く元気になれよ」
 友だちのトラの名案を聞くと、トラは元気がわいてきた。次の日から、トラは何も食べない。すると、体が日に日に小さくなる。その小さくなった体に木のしるを塗り付ける。そうなると、トラはどこから見てもネコに見えた。次の日、トラは再び街に向かって、あの屋敷を訪れた。門の前まで行くと、やはりあの美しい歌声が聞こえてくる。トラは喜び勇んで門を飛び越えて、ネコのいる部屋をのぞいた。
「やあ、元気かい」
「あなたは誰、何か用」
「おれ様は向こうの屋敷にいる者だ、お前に花嫁になってもらおうと思って、やって来たんだ」
「わたしに花嫁になってもらいたいって、考えてあげてもいいわ、その前にわたしの願いをかなえてくれるかしら」
「いいとも、どんなことでも言ってくれ」
 トラをいじめて追い返してやろう・・とネコはあれこれ考えた。意地悪な事を企むのは得意らしく、ネコはすぐにひらめいた。
「天井裏のネズミどもがうるさくて、よく眠れないのよ、退治してきてよ」
「それぐらい簡単なことだ」
 トラは勇ましく胸をたたくと、天井へと駆け登った。天井裏に入ると、大声でネズミの悪口を言い始めた。すると、怒ったネズミたちがたくさん集まってきた。トラは素早く柱を一本引き抜くと力一杯振り回して、集まっていたネズミたちを打ちのめした。そして、それを束にして、ネコのもとに帰った。
「一匹残らず退治してやったぞ、これで今夜からよく眠れるだろ」
「ありがとう、これでぐっすり眠れそうよ」
 笑顔でそう言ったものの、ネコは内心悔しく思っていた。トラを今度こそ困らしてやろう・・とネコはまたすぐに意地悪な事を考えた。
「それでは、もう一つ願い事を聞いてくれるかしら、庭の池の中で一番大きいコイが食べたいの、早く獲ってきて」
「そんなことわけないぞ」
 トラはりりしくうなずくと、窓から飛び出していった。池に着くと、池の中に首を突っ込んで池の水を全部飲み込んだ。そして、干あがった池の底でコイたちの中から、一番大きなコイをつかむと、池の水を掃き出して元に戻し、ネコのもとに急いだ。
「これが一番大きなコイだ、さあ食べてくれ」
「ありがとう、おいしそうなコイね」
 嬉しそうに言うが、ネコは益々悔しく思っていた。今度こそトラを絶対ひどい目に合わせてやろう・・ネコはまたまた意地悪な事を考えた。
「後一つだけ願い事を聞いてくれるかしら、この屋敷の裏の林にノライヌが住み着いているの、そのノライヌときたらわたしが表に出たら追いかけ回すのよ、そのノライヌをこらしめてくれないかしら」
「ふざけたノライヌだ、屋敷の外に放り出してやる」
 トラは高らかに笑うと、駆け出していった。トラが林の中に踏み込むと、においをかぎつけたクマより大きいノライヌが現われた。トラがノライヌの尻尾をくわえて振り回したら、ノライヌは尻尾からちぎれてどこかに飛んで行った。得意満面のトラは、ノライヌの尻尾をくわえてネコのもとに戻った。それを見たネコは、この相手なら願い事が何でもかなえられると思って、花嫁になることを決心した。
「あなたってすごいのね、花嫁になってあげるわ、明日倉の中で結婚式を挙げましょう」
 次の日、魚や酒や花束を担いで仲間のネコたちが、倉の中に集まってきた。仲間のネコたちは二人を祝福して、歌ったり踊ったりする。結婚式が盛り上がると、トラも幸せな心地に浮かれてしまって、自分の状態を忘れてしまった。そして、飲んではいけない酒を、食べてはいけない料理を、飲んだり食べたりし始めた。すると、トラの体は見る見るうちに大きくなって、トラらしい姿に変わっていった。
「トラだ、花むこはトラだ」
「逃げろ、食われてしまうぞ、早く逃げろ」
 結婚式に集まったネコたちは、たちまち倉から逃げ出した。だまされたことに気付いたネコは、怒り出した。
「あなたはこの間のトラね、よくもだましてくれたわね、またひどい目に合せてやるわ」
「今度はそうはいかないぞ、さあ、おれ様と一緒に来い」
 ネコとトラは、倉の中で追いかけ合いを始めた。その騒動に気付いて守衛たちが駆け付け、トラを見つけるとあの日のように散々たたきのめした。それを見ていたネコは、喜んでいたが、一人の守衛につかまれ門の外に力一杯放り投げられた。
 ネコとトラは、ひん死の状態で道端に転がっていた。ネコは仲間のネコに助けてもらおうと辺りを見回すが、みんな逃げ去った後で誰もいなかった。トラははい出してネコのそばに行くと・・。
「おれ様の花嫁になるんだ、さあ、一緒に来い」
「死んでもあなたの花嫁になんかならないわよ」
 トラはネコのそんな言葉を聞くと、ネコを一口で食べてしまった。

ネコに恋したトラ

ネコに恋したトラ

  • 小説
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  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-05-18

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