二人のきずな

おおへんり 作

 少女も少年も、十六才だった。学校を卒業した二人は、前々から考えていたように、結婚しようと決意した。そして、お互いの両親に許可を願い出たが、誰からも反対された。そのため、二人は家出することにした。
 ある春の日。朝日が登る前の暗がりの中を、二人は駅へと続く道を歩いて行った。始発電車がホームに入ると、二人は電車に乗り込んだ。
「これからどこに行くの、あてはあるの」
「街に行こう、街に行けば住む所も働く所も見つかるよ」
 やがて、電車は大きな駅に着く。街に出た二人は、早速働く所を探し始めた。新聞の求人広告でいろいろ当たってみた二人だが、採用してもらえなかった。がっかりした二人が公園のベンチに腰かけた時は、すでに夕方になっていた。
「家に戻ろうか、僕らのような子供じゃどこもやとってくれないよ」
「いまさら何を言うの、家に戻ろうなんて、明日になれば見付かるわよ」
「これから電車に乗れば、遅くならないうちに戻れるよ」
「わたしたちはもう結婚しないのね」
「結婚はするよ、でも大人になってからだ」
 そんな言葉を聞いて、少女は泣き出した。少女に言い訳しながら、少年は駅へと歩き出した。二人はふるさとに向かう電車に乗って、黙ったまま窓から景色を見ていた。窓からは海岸が見えて、そんな時、電車が港町の駅に止まった。突然、少年は少女の手を引いて、ホームに飛び降りた。
「こんな駅で降りて、どうするの」
「岬に灯台があるんだ、行ってみようよ、去年おやじと魚釣りに来たことがあるんだ」
 二人は夜道の中を岬へと歩いて行って、使われていない灯台を見付けた。少年は入口のかぎを壊して、入ってみた。
「君もおいでよ、電灯が付くから」
「汚い所ね、ほこりだらけだわ、クモの巣も一杯、見て、あれ、大きなクモ」
「そうじをしたらきれいになるよ、クモもペットにしようよ」
「ここで暮すつもり、こんな所で」
「そうだとも、今夜からこの灯台が僕らの家さ、りっぱじゃないけど雨にも風にも負けない家さ、いやかい」
「いいわ、ここがわたしたちのお城ね」
「さあ、そうじを始めよう」
 この灯台で暮すことを、二人は決めた。その日から新しい人生が始まる。二人は、いつも一緒にいた。朝は海辺で遊んで、昼は街を散歩して、夜は抱き合って眠って。そのように余りにも楽しい日々を過ごした。しかし、持っていたお金がなくなると、二人は困り果てた。
「明日からどうするの、もうお金はないんでしょ」
「心配するなよ、どうにかなるさ」
 そんなことを言いながら、二人は眠りに付いた。けれど、少女が眠り込むと、少年は起き出して、夜の街に出て行った。そして、夜が明けるまえに戻って来た。朝になると、二人は目覚めて・・。
「駅前に新しいパン屋が出来たんだ、サンドイッチを買いに行こうよ」
「でも、お金がないのよ、貝がらで払うの」
「言っただろ、どうにかなるって、早く行こうよ」
 その日の夜も、その次の夜も、少年は少女に知られずに街に出た。そんなことが、何日も続く。いつになってもお金がなくならないことを、少女は不思議に思うようになった。そんなある夜のこと。少年はいつものようにベッドを抜け出して、街へと向かった。ふと目を覚ました少女は、少年がドアを開けて出て行くのをみて、その後を付けて行った。人気のない商店街まで来た少年は、周囲を見渡して誰もいないのを確かめると、商店を一軒一軒のぞいていった。そして、ある店なると、ポケットから道具を取り出してドアをこじ開けた。物陰で見ていた少女は、少年に続いて店の中に入って行った。
「こんな所で何をしているの」
「君か、驚いたよ」
「答えてよ、何をしているの」
「仕事だよ、僕たちが生きてゆくためにね」
「何が仕事よ、ドロボウじゃないの」
「大きな声を出すなよ、見つかってしまうよ」
 その時、突然電灯が付いて、男の人の声がした。
「お前たちは誰だ、ドロボウだな」
「すみません、もうしませんから、どうか許して」
 その時、男の人は飛びかかって、少女の腕を捕まんてねじり伏せた。すると、少年は向きになって、男の人を力一杯突き飛ばした。ひっくり返って床に頭を打ち付けた男の人は、大声で叫んだ。
「ドロボウ・・ドロボウ・・」
 ぼうぜんとする少女を引っぱって、少年は夢中で駆け出した。灯台に帰り着くとカギをかけて、疲れ果ててその場に座り込んだ。そのとたんドアが激しくたたかれて、騒がしく人の声が響く。
「きっと警察だわ、どうしよう」
「でも大丈夫だよ、逃げてやるよ・・僕がドアを開けたら、思いきり走るんだぞ」
 そう言うと、少年はドアを開けて、そこにいた人たちに体当たりして駆け出した。それより先に、少女も走り出していた。
「うまく逃げられたみたいだね、もう追って来ないよ」
「でも、見てよ、あれ、先回りしたのよ」
「おいで、向こうだ」
「向こうは海よ、どうするの」
「海に飛び込もう、僕の手を放すんじゃないぞ」
「放さないわ、どこまでも一緒よ」
 がけから海に飛び込んだ二人は、海中深く沈んでいった。そして、そのまま海底にぶつかった。
(意識を失った二人は、海底を突抜けて落ちていった。やがて、真白な陸地にたどり着いて、意識を取り戻した。
「わたしたち、天国に来たのかしら」
「どこかの離れ島に流されたんだろ」
「でも、海の底に沈んでいったのよ」
「ところが、こうして息をしているだろ」
 言い合いながら、二人は歩き出した。大地も大空も光るように白いその中に、青色の建物が高く大きくそびえている。そこの門まで来た二人は、扉をたたいた。すると、門が少し開いて、羽根のある裸の子供が出て来た。
「あなた方は誰なの」
「わたしたち、道に迷ってしまって」
「どこに行くつもりなの」
「港町に帰りたいんだ」
「そうか、あなた方は地上の人なんだね、それがどうしてここに来たの」
「わたしたち、悪い事をして追いかけられて海に飛び込んだのよ、気が付くといつの間にかここに来ていたの」
「そうなの、じゃあ、地上に戻れるか調べてくるよ」
「僕たちも中に入っていいかな」
「だめだよ、ここは運命を定める大切な所だから」
 しかし、二人は天使が止めるのを押し退けて、門の中に入って行った。
「付いて来ないでよ、神様に見つかるとしかられるよ」
「おとなしくしているから、一緒に行っていいでしょ」
「だめだと行っても、一緒に行くよ」
 天使は二人を連れて、長いろうかを抜けてある部屋の前に立った。
「ここは天国の一部で、運命の館という所なんだ、この部屋は命の部屋というんだ、あなた方の命の炎が燃えているか見てみよう」
 天使は、扉を開けた。そこは限りなく広く、無数のランプが置かれていて、多勢の天使たちがランプに油を注いだり、水を注いだりしている。
「あのランプ一つ一つ命なんだ、ランプに油が注がれると人は生きていられる、水が注がれると人は死ななければならない・・よかったね、あなた方のランプは光り輝いているよ」
「どうしてわかるの」
「知りたい人のことを考えて、意識を集中させるんだよ」
「ありがとう、地上に戻れるのね」
「さあさあ、早く館から出て行ってね」
「他にどんな部屋があるの、教えてよ」
「他には、誕生の部屋、結婚の部屋、成功の部屋、才能の部屋、いろいろあるよ」
「じゃあ、僕たちの運命を教えてよ」
「だめだよ、この館の神様は口うるさいんだから」
「いいわよ、自分たちで探すから」
 そう言った二人は、となりの部屋の扉を開けてみた。そこも限りなく広がっていて、無数の赤い光の糸が浮かんでいて、多勢の天使たちが光の糸と光の糸結んでいる。
「ここは何の部屋なの」
「ここは結婚の部屋なんだ、心から愛し合った人たちの光の糸を天使は結んでゆく、光の糸が結ばれるとその人たたはきっと結婚する・・ほら、見てよ、あなた方の赤い光の糸も結ばれているよ」
「見える、見えるわ」
「大変だ、神様がやって来たよ」)
 長くて深い眠りから、少女は目覚めた。そこは、病院の一室だった。別の一室で、少年も眠りから目覚めた。二人はお互いの無事を知らず、傷付いた心と体を休めて、いつしか退院していった。それから会うことがなかったが、二人は天国で見たことを信じて生きていった。そして、ある日再会した。

二人のきずな

二人のきずな

  • 小説
  • 掌編
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  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-05-18

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