笑わない王様

おおへんり 作

 旅をしながら暮しているピエロが、ある小さな国を訪れた。都に着くと、早速華やかな衣装に着替えて、にぎやかな広場で道化をやり始めた。広場にいる人たちはピエロに目をやったが、逃げるように広場を立ち去ってしまう。広場は、ピエロ一人きりになる。がっかりしたピエロは、広場に集まって道化を見てくれ・・と通りを回って人々を誘った。そんなピエロを見ると、道を歩く人たちは姿や声を消すし、家にいる人たちも戸や窓を閉めるし。そうするうち、兵隊たちが何十人もやって来て、ピエロを取り囲んだ。
「お前は何をしているんだ」
「僕はピエロさ、みんなを笑わせようと歌ったり踊ったりしているんだ、もちろん、少しだけお金をもらうけど」
「この国では笑ってはいけないのだ、人を笑わせようとはけしからんヤツだ、他の国へ行け」
「この国はおかしな国だなあ、どうして笑ってはいけないんだ」
「いけないからいけないのだ、早く出て行け」
 ピエロは悔しかったけれど、兵隊たちが怖い顔をするので、他の国へ行こうと広場を立ち去った。すると、若い娘が小走りで追いかけて来た。
「待って、ピエロさん、待って」
「僕に何か用かい」
「このパンとワインをもらって、ピエロさんの道化はとてもおもしろかったから」
「そうかい、じゃあ笑ってくれたんだね」
「いいえ、笑わなかったけど、本当に本当におもしろかったわ」
「おもしろいと言ってくれるのに、どうして笑ってくれないんだね」
「この国では笑ってはいけないのよ」
「先の兵隊たちといい、君といい、おかしなことを言うもんだなあ、そんなことを誰が決めたんだ」
「王様が決めたのよ、十年前にひとりっ子の王女様を亡くした王様は、それが余りにも悲しいために笑えなくなったの、それからというものは笑うことを憎むようになって、笑った者はロウヤに入れられて二度と出て来られないのよ」
「何と身勝手な王様だ」
「でも、十年前まではりっぱな王様だったのよ、それがあの事があってから変わってしまったの、悲しんでいる王様、笑えない王様、わたしはそんな王様がかわいそうでならないの、何とかしてあげたいんだけど」
「君の言う通りだ、悲しんでばかりいて笑えないなんて、かわいそうな王様だ、それなら僕が力になってあげよう」
「力になってくれるの、でも王様の心の奥の氷を溶かせるかしら、いい考えがあるの?」
「あるとも、僕は世界中を旅して世界中の人を笑わせたピエロさ、その僕が王様を大笑いさせてやるんだ、きっと王様は悲しみを吹き飛ばして、以前のようなりっぱな王様に戻り、笑ってはいけないなんて言わなくなるよ」
「それはいい考えね、それならわたしにもいい考えがあるわ、明日はこの国の祭なんだけど、王様は大広場で国民にあいさつするの、その時がいい機会だと思うわ」
 そうして、ピエロと娘は明日の行動を計画して、明日大広場で会う約束をした。
 次の日、ピエロは城の前に広がっている大広場に出向いた。大広場は国民がたくさん集まって、にぎやかになっている。しかし、笑っている者は誰もいない。そんな大広場の片隅で、ピエロは王様が現われるのを待った。そこにきのう出会った娘がやって来た。
「こんにちは、ピエロさん」
「こんにちは、娘さん」
「もうすぐ王様が現われるわ」
「用意はできているぞ」
 二人が話している時、兵隊たちを引き連れた王様が現われた。王様は台の上に上がると、国民に語りかけた。
「国民のみなさん、きょうはこの国の生れた日で、めでたい日だ、だからみんなでお祝いしよう、しかし、決して笑ってはいけない、笑うなんてけしからんことだ、命令に背いた者は死ぬまでロウヤに入ることになるぞ、さあさあ祭の始まりだ、笑わないで楽しんでくれ」
 王様がそう語っている時、ピエロは王様の前に飛び出して、歌ったり踊ったり宙返りをしたり。それを見た兵隊たちは笑いたいのをがまんして、ピエロを取り押えた。
「放せ、放してくれ、僕がどんな悪い事をしたというんだ、言ってみろ」
「お前は何なんだ」
「僕はピエロだ」
「あれは何のまねだ」
「王様を大笑いさせてやりたかったんだ」
「この国では笑ってはいけないのだ、お前みたいなヤツはロウヤに入れてやる」
 王様が兵隊たちに命令すると、兵隊たちはピエロを連れて行こうとした。そこに娘も飛び出して王様に言った。
「王様、わたしたちは王様の悲しみをなぐさめようと思ったのです」
「お前たちにわしの悲しみがわかるものか」
「もちろんわからないでしょう、でも大声で高らかに笑えば、王様の悲しみも和らぐでしょう」
 娘にそう言われた王様は、益々怒り出して、娘も兵隊たちに捕まえさせた。そしてピエロと娘をロウヤに入れるように命じた。
「お前たちは明日死刑にしてやる」
 ロウヤに入れられたピエロと娘は、すっかり落込んでいた。
「ごめんなさい、わたしのせいでこんなことになって」
「君のせいじゃないよ、僕がヘマだったんだ、僕の道化おもしろくなかっただろ」
「あの踊りおもしろそうだったけど、すぐに捕まえるんだもの、本当に残念だったわ」
「それにしても、困った事になったなあ、このままだと死刑にされるし、こんな事になるんだったら魔術も習っておいたら良かったよ、これぐらいのロウヤは簡単に抜け出せるのに」
 二人が話している時、どこからか声が響いてきた。地下室の暗がりの中を、二人は目だけで探し回った。
「ここです・・」
 そんな言葉が聞こえた方に、二人は目を向けた。すると、ランプの明るさの下に少女が立っていて、二人に近付いて行った。
「君は誰だい」
「わたしは十年前に亡くなった王の娘です、もちろん今はユウレイですが」
「・・・・・」
「・・・・・」
「わたしが亡くなってから父は悲しんでばかりなので、わたしは心配で天国に昇れないのです」
「それはかわいそうに」
「でも、それなら王様に悲しまないように頼めばいいのに、王女様の元気な姿を見れば王様も悲しむことを止めるのに」
「わたしもそう考えているのですが、父はとりとめない悲しみのためにわたしの姿や声に気付かないのです」
「それは困ったものだ」
「どうしたらいいのかしら」
「このままでは、わたしはいつまでも天国に行けないでしょうし、あなた方も死刑になるでしょうし、もし父が笑いを取り戻すことができたなら、わたし姿や声も父にわかるのですが」
「もし僕がロウヤから出られたなら、今度こそ王様を大笑いさせてやるのに、僕の道化は世界一なんだ、笑わないはずがないんだ」
 そう言ってピエロは立ち上がると、得意の踊りをやって見てた。すると、娘もユウレイの王女もおなかを抱えて笑い出した。
「お願いです、ぜひ父を笑わせてやってください、二人が死刑台に上がる時、兵隊たちは台から転げ落ち、あなた方のなわは解けて自由になれるでしょうから」
「やるよ、やってやるとも、王様も兵隊たちも国民もみんな大笑いさせてやる」
 ピエロのそんな決意を聞くと、ユウレイの王女は安心して消えて行った。

 次の日、地下室のロウヤに兵隊たちが入って来て、二人をなわでしばって連れ出した。そして大広場に設けられた処刑台に、二人は連れて行かれた。大広場には、きのうと同じようにたくさんの国民が集まっている。ピエロは台の上に上らせられると、なわをほどこうと暴れた。すると、彼を取り押えようとした兵隊たちは転んで台から落ちた。なわがほどけたピエロは、王様の前に進み出た。
「親愛なる大王様、わたくしは世界中を旅しているピエロでございます、これから世にもおもしろい道化をごらんいれましょう」
 口上を言い放つと、ピエロは兵隊たちから素早く剣を取り上げて、次々と空中に投げて回転させ始めた。王様は怒り出して、あの男を捕まえてすぐに殺せ・・と兵隊たちに命令した。兵隊たちは向きになってピエロを追いかけるが、ピエロはすばしっこく逃げ回って、あちらで剣を回転させたり、こちらで剣を回転させたり。すると、兵隊たちは銃を持ち出してピエロを撃つが、ピエロはすばやく身を交わして、あちらで逆立ちしたり、こちらで宙返りしたり。そして、あの得意の踊りを踊り始めると、大広場に集まった国民の中から、笑い声がめばえ始めた。
「今笑っているのは誰だ・・兵隊たちよ、あの笑っている者たちを捕まえてすぐに処刑しろ」
 王様の怒りは爆発して、恐ろしい顔で兵隊たちに向かって叫んだ。兵隊たちは笑っている者も笑っていない者も手当たりしだいに捕まえて、数百人を処刑台の下に連れて来た。騒ぎ立てていた国民は、にわかに静かになった。屋根の上で踊っていたピエロも、元気をなくして座り込んだ。
「お前たちにわしの悲しみがわかるものか、娘が生まれる時きさきは命を落としてしまった、そのためわしが何から何まで面倒をみた、母のいない娘がかわいそうでとても大切にした、それなのに死んでしまうなんて・・」
 王様が涙ながらにそんなことを話し出すと、国民の中から泣き声がもれ始めて、いつしかみんなが泣き出していた。大広場は、物悲しい泣き声に包まれる。みんなの泣き声は、長い間大広場に響いた。いつしかどういうわけか、王様は嬉しそうに笑い出した。ピエロも娘も、国民も兵隊たちも、王様は悲しみのために狂ってしまったと思い、王様の様子を伺った。けれど、王様は笑い出したまま止まらない。
「王様、どうしてそんなに笑っているのです、みんなは王様をかわいそうに思って泣いているのですよ」
「だから嬉しくて笑っているんだ、娘を失った悲しみからとはいえ、わしは国民にひどい事をしたというのに、みんなはわしに同情して泣いてくれている、何だかわしは嬉しくて嬉しくて、笑いがこみ上げてきた・・」
 そう言う王様が笑い続けていると、ユウレイの王女が現われた。
「お父様、わたしです」
「・・・・・」
 王様は驚きのため声も出ないでいると、王女は王様に歩み寄った。
「わたしが死んでからの十年間、お父様は悲しんでばかりいるので、わたしはそのことが気がかりで天国に上ることができないのです、今まで何度もお願いに来たのに、悲しんでばかりいるお父様にはわたしの声も姿もわからなかったのです、でも今、お父様は笑ってくれたからわたしの声や姿がわかるようになりました、わたしはもう安心です、どうかこれから悲しまないでください」
「そうですよ、王様、もう悲しんではだめですよ」
 王女の手を取ったピエロは、その手を王様に握らせた。王様は王女を引き寄せると、力一杯抱きしめた。
「お前の体も心も何と温かいのだろう、わしはもう悲しまないから安心して天国に行っておいで」

笑わない王様

笑わない王様

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-05-18

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