どうか、せめて、おなじ世界だけでも、見させて

 おわりのない国で、おわりのないひとたちが、おわりのない歌を、うたっている。
 みんな、機械だよ。
 ぼくたちは、いつか、壊れるってわかってる。
 ホットケーキの味を、忘れたはずなのに、あの夏の日に飲んだ、ラムネのしゅわしゅわ感は、ときどき、思い出すの。動物園で見た、檻のなかのライオンが、かわいそうって泣いた日。作りものの町で、ぼくたちは、生きていて、作りものの笑顔が、歪んだとき、ぼくたちは、失う、きっと、たいせつなものを。
 キスのしかた?
 そんなの、知らない。
 ぼくたちを作ったひと、恋、というものを、できるようにしてくれなかった。生活音と、環境音にまざる、ノイズ、なおしかたも、わからずに。おわりのない国の、おわりのないひとたちがうたう、歌は、かなしい、という感情を、生むという。かなしい、という感情の、意味は、よくわからない。いっしょに棲んでいる、ひとが、かなしい、というのは、たとえば、たいせつなひとを失ったときに、起こるものだって。
「つまり、きみが壊れたら、ぼくは、かなしい」
 いっしょに棲んでいるひとは、ぼくのあたまを撫でて、そう言った。
 ぼくは機械で、きみは、にんげんで。
 どうして神さまは、ぼくと、きみを、ちがういきものに、してしまったのか。
 おわりのないひとが、やっている、喫茶店の、いちばん奥の、薄暗いテーブルで、泣きながらえびピラフを食べている、きみを、ぼくは知っている。泣く、というのは、目から水を出すことだと、教わった。かなしい、という感情に、直結しているらしいけれど、そのあたりは、ごめん、まだ、よく、わからなくって。でも、泣く、という行為を、ぼくは、してみたいと思っているよ。動物園の、檻のなかで飼われているライオンが、かわいそうと、きみが泣いた、夏の日のように。

どうか、せめて、おなじ世界だけでも、見させて

どうか、せめて、おなじ世界だけでも、見させて

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-05-16

CC BY-NC-ND
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