精一杯を、生きてみるから

精一杯を、生きてみるから

短歌十首。

   











ひとつずつ

静かな距離を儚んで

求めた色は

星の夜に落つ





字を尽くし

いのち残した切れ端は

返事返せぬ最期のこころ




遠くから

何度も帰り また惑い

形見の顔が 

母のようにて




時 

眠る 

いつかの日まで

「だいじょうぶ、精一杯を、生きてみるから」




鬱の月

温度も音も失いて

零れるままの時の停止で




「リルの鬱、ふわふわおっぱいで、治すわよ」

苛む夜に

笑みひとつ 降る




街の灯の

ひとつ ひとつぶ

ひたむきに

光る背中へ 歌を吹き込む




音は尽き

光彩までも 眼を潰す

半死のきわで

縋る

あのひと




ぢりぢりの 熱 立ち昇り

穂が乱れ

  宿命の日は二度目の夏へ




みなしごのさだめ

七月

この地上

祈れる日への 空が欲しくて




七月は

飛べる空さえ哀しくて

千の地上へ ひと降りる幻(ゆめ)




いのち落つ 虚の七月は

風だけを 風だけを知り ぼくはなかった




薄い陽はただ一掴みの今日の糸

いまだ訃報の草原(くさはら)にいる




  

精一杯を、生きてみるから

作者ツイッター https://twitter.com/2_vich

精一杯を、生きてみるから

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-05-16

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