精一杯を、生きてみるから
短歌十首。
ひとつずつ
静かな距離を儚んで
求めた色は
星の夜に落つ
字を尽くし
いのち残した切れ端は
返事返せぬ最期のこころ
遠くから
何度も帰り また惑い
形見の顔が
母のようにて
時
眠る
いつかの日まで
「だいじょうぶ、精一杯を、生きてみるから」
鬱の月
温度も音も失いて
零れるままの時の停止で
「リルの鬱、ふわふわおっぱいで、治すわよ」
苛む夜に
笑みひとつ 降る
街の灯の
ひとつ ひとつぶ
ひたむきに
光る背中へ 歌を吹き込む
音は尽き
光彩までも 眼を潰す
半死のきわで
縋る
あのひと
ぢりぢりの 熱 立ち昇り
穂が乱れ
宿命の日は二度目の夏へ
みなしごのさだめ
七月
この地上
祈れる日への 空が欲しくて
七月は
飛べる空さえ哀しくて
千の地上へ ひと降りる幻(ゆめ)
いのち落つ 虚の七月は
風だけを 風だけを知り ぼくはなかった
薄い陽はただ一掴みの今日の糸
いまだ訃報の草原(くさはら)にいる
精一杯を、生きてみるから
作者ツイッター https://twitter.com/2_vich