君影

君影

完結しました!!

~プロローグ~


「あ、あたし、朝霧が・・・す、好き!!・・・な訳じゃないけどね。」
 


高校二年生の春、屋上にて朝霧秋こと俺は今現在、なうで告白されている。黒髪で二つ結びの可愛い顔の見たこともない知らない女が、目の前にいる。
俺は自慢じゃないが、一度も告白されたことはない。どやぁ。だからこの告白らしきものをされている状況は喜ぶべきなんだろう。そう、なんだろうけど・・・・。

「べ、別に勘違いとかやめてね!?あ、あたしが好きって言ってるんだからすごいのよ!!全然あんたのことなんか気にしてなんかないんだからね!?あ、あんたがあたしのこと好きだったとかなら別だけど!!それなら喜ばないこともないけどね!!あ、でもそうだったら嬉しいかも・・・。」

・・・喜べねえ。長い。あれ、告白ってこうゆうものなの?こんなにめんどくさいものだったのか・・・?とにもかくにも聞いているのがめんどくさくなった俺は目の前で自分の世界に入りかけている女に話しかけた。
「あの・・・。」
「え?あっ!な、なによ!」
忘れてたみたいな顔されたんですけど。なんでやねん。
「よく・・・わかんないんで・・・友達・・・ってことでいいですか?」
「え、と・・・友達?と、ともだち?・・・い、いいわよ!友達ね!!と、ともだち・・・。」
よくわからないが納得してくれたみたいだ。そろそろ授業も始まる。はやく教室へ行かなくては。
「あたしは鈴本蘭花。あ、知ってるよね、ごめんごめん!じゃあね!」
ブツブツつぶやきながら鈴本蘭花は去って行った。

何が起きたかよくわからなかった俺だが、一つだけ言えることがあった。それは、
「存在知らなかったなんて、言えねえ。」


『運命って信じる?』side秋


「あはははっwwwテラワロスwですね!その告白wwよくオレに話しましたねww」
「笑うな、うざい。」
「じょ、冗談ですよ(笑)笑いすぎてお昼ご飯リバースしそうです。」
さっきからうざい金髪のクソ野郎は、望月夕。どこかの国のハーフらしい。なぜか毎回敬語で話している。そしてこのクソ野郎は幼馴染でもある。
「でも、知らない子とゆっても名前ぐらい聞いたんでしょう?誰だったんです?」
「鈴本蘭花って奴だよ。」
「鈴本サン?あの子有名ですよ。アキは知らなかったんですか?」
「え、初耳。なんで有名なんだ?」
「そりゃあ、まず顔でしょうね。」
顔か。確かに可愛い顔をしていた。(気がする。)
「あとはー・・・、周りの女子の難しさでしょうかね。オレは嫌いじゃないですけどね。」
難しい?・・・意味不明だ。
「まあアキはわからなくていいんですよ。ってあれ、鈴本サンじゃないです?」
「え?どこ?って、うわっ!ちょ、オイ!何するんだよ!!」
いつのまにか俺の席の隣にいた鈴本蘭花は俺の手を掴むと引っ張ってきた。
「き、来て!!来なきゃ許さないからっ!!」
「い、痛い!痛いから!わかったから!行くから!引っ張るな!」
「・・・ホント?」
「ああ、友達だしな。(棒読み)」
「友達・・・う、うん!」
「アキも色々罪な奴デスヨネー。」
「よくわからんが黙れクソ野郎。」
「うっわ!アキったらヒドイ!」
「・・・。このクソ野郎はほっといて行くぞ。」
「え、あ、うん・・・。」



今、俺は鈴本蘭花と共に屋上にいる。今は昼休みだが誰もいない。
「で、なんで俺を呼び出した?」
「あ、あたしは、あんたに・・・朝霧に聞きたいことがあるの。」
「俺もお前に聞きたいことは山程あるぞ。」
俺は言い返した。っていうか突然すぎるんだよ、色々と。
「先にいいわよ、何でも答えてあげる。」
「そりゃ、どうも・・・。」
にしても、こいつは友達とか(俺以外)はいないのだろうか。俺とこんなことしてるよりも女子とかといた方がいいんじゃないのか?とは聞けないのが俺だ。っていうかとてもめんどくさい。とりあえず一番初めに聞くことは決まっていた。
「何故俺に告白のような名状しがたいものをしたんだよ。」
「名状しがたいって失礼ね!きちんと「告白」したじゃない!」
「あれが告白か!?途中勘違いするなとか好きな訳じゃないとかほざいてたじゃないか!」
「えっ、あー・・・。そ、それは、その・・・照れて・・・言葉がうまくまわらなかった・・・と、いうか。」
「で、お前は俺を好いてくれてるのか?」
「え・・・、そ、そうよ!何度も言わせないでよ!」
本気らしかった。てっきり冗談だと思っていた。・・・でも。
「俺は人を好きにならない。だからごめん。」
「え!?何よ、その理由!あたしが・・・ダメなの?」
「そうじゃねえよ。人を好きにならねえってことだよ。」
「・・・人じゃなければ、好きになってくれるの?」
「そうゆうことじゃねえよ!ってかお前人間だろ!?」
「・・・・・・。」
黙り込んでしまった。話が・・・かみ合わねえ。
「・・・ねえ?」
「ん?何だよ。」
「あんたは・・・運命って信じる?」
何を言い出すんだコイツは。アホか、アホなのか。
「は?言ってる意味が・・・。」
「今日の放課後、近所の神社に来て。」
「・・・は?え?何故?」
「いいから!返事は!!」
「は・・・はい・・・。」

こうして、俺はよくわからないままに鈴本蘭花と話して、約束までしたのだった。

2

『俺は・・・。』side蘭花


彼はいつも神社にいた。その神社には、必ず鈴蘭がたくさん生えていた。
彼はいつも何かを願っていた。
それをただ見守るしか出来なかった。
でも、運命が、神様が、背中を押してくれた。
だから今ここにいれて、彼を救えるようになった。
あとは、「鈴本蘭花」ががんばらなければ。
「鈴本蘭花」が彼を助けなくては。



それが、「鈴本蘭花」の存在している意味なのだから。



彼を、この神社に呼び出してみた。拒否されるかと思った。でも、彼はとても優しい人だ。それは痛いほど知っている。だから彼は優しくしてくれる。・・・にしても、「告白」をしたら人は喜んでくれると聞いて、「告白」したのにあまり喜んでいる様子ではなかった。何故だ・・・?何がいけなかったのだろうか。あと男の子が好きらしい「ツンデレ」にも挑戦したのだけれど・・・それもあまり喜んでいなかったように思う。
彼は何が好きで、何が嫌いなのだろうか。
彼は今、何をしているのだろうか。
何も、知らない。彼が優しくてかっこいいことは知っているけれど、それ以外何も知らない。
でも私はそれでいい。彼がいれば、それでいいんだ。彼と居れるだけで幸せ。

「おまたせーってお前来るの早いな。そんなにダッシュしたのか?w」
彼がこっちに向かって笑いかけてくれる。私はこの笑顔が好き。
「そ、そう!ダッシュしてきたの!」
「お前足早いんだな~。えっと、鈴本?だっけ。」
「鈴本蘭花、だよ!」
「で、鈴本。なんで呼び出したんだよ?」
「聞きたいこと・・・があって・・・」
「聞きたいこと?別にいいけどよ・・・。にしても久しぶりだなあ、この神社。中三の頃ずっとここに通ってたんだ。」
知ってる。知ってるよ。だって、ずっと見てたもん。ねえ、なんでそんなに悲しそうな顔をしているの?
「まあ、昔のことだしな。で、何だ?」
聞けない。とてもじゃないけど聞けない。その頃、何を願っていたの?なんて聞けないと思ってしまった。
そんなに、悲しそうな顔しないで?
「えっと・・・。あのね、聞きたいことは・・・と、友達!そう!友達って何!?」
「は!?」
『友達』という単語を知らなかった。人と人との何かだというのは知っているけれど・・・。
「俺と、お前みたいなことだよ。仲がいい・・・とか、よく話す・・・とか?かな。」
「本当に!?あたしとあんたは仲がいい!?」
「え、お、おう・・・(未来形)」
嬉しい。純粋に、嬉しい。彼と「友達」という絆でつながっているという事実が嬉しかった。
「そっかぁ・・・そっかぁ・・・。えへへっ!!」
「・・・もしかして、お前友達いないのか?」
「え?うん!いないよ!あんたが初めて!嬉しい!」
「・・・あのさ、よかったら学校でも話しかけて来いよ。相手してやる。」
「・・・なんでそんなに優しいの?昨日会ったばっかりなのに。」
「俺は・・・もうだれも失くしたくない。」
「・・・あ、あたしはあんたをおいていかないよ!いなくならないし、一人にしないよ!」
嘘をついてしまった。あまりにも悲しそうだったから。でも・・・。
「・・・ありがとう。」
彼の笑顔が、見れたから。私はまた、嬉しくなった。



彼の隣に、少しでも長くいたい。
そんな希望を、持ち始めていた。




       

3

『なんで、泣いてるの?』side秋



あの日、鈴本蘭花に呼ばれたのは俺が昔よく行っていた場所だった。そして、その場所で俺は鈴本蘭花に友達というものが一人も存在していないことを知った。鈴本蘭花は悪い奴ではなかった。むしろ友達という意味すら知らなかったアホだった。もっと色々なことを教えてやりたいと思ってしまった。



馬鹿か、俺は。



人とはもう関わらないと決めたはずなのに。ちなみに夕は人に分類されてない。
何故だろう、何故だか、鈴本蘭花にすべて話しそうになってしまった。
・・・でも嬉しかったな。「いなくならない」と言ってくれたのは。その言葉だけで俺は嬉しくなっていた。
俺は鈴本蘭花ともっと話してみたいと思っていた。

次の日、俺が学校に行くと夕が俺のところにダッシュで走ってきた。
「アキ!アキ!大変です!あの、大変です!」
「何だよ、そんなに急いで。眠いんだからでかい声だすなよ、響く。」
「鈴本サンが!怖い女子に連れて行かれたらしいです!!なんかかなりヤバイらしいです!」
「・・・それどこだ。」
「えっと・・・屋上・・・って、ちょっとまってください!アキ!!」
体が、勝手に、屋上へと向かっていた。
不思議だった。
眠いのに、俺は超ダッシュで屋上に一直線だった。
「はあっ、はあっ、はあっ・・・つ、着いた・・・もう一生走らねえ・・・絶対走らねえ・・・。」
屋上のドアを開けようとした瞬間、声が聞こえた。
『あんた、なんでそんなにヘラヘラしてられんのー?』
『どMなの?wアハハwバカじゃないのw』
『可愛そうな子。友達もいないで一人ぼっちってw今日もパシリちゃんだねw』
『一人じゃない!!あたしにだって友達いるんだから!!』
・・・も、もしかして俺のこと言ってるのか?複雑な気分だ。にしてもいつのタイミングで入ろうか・・・。
『・・・もしかして、朝霧くんのこと?嘘ついてんじゃねえよ。ブスが。』
・・・え?お、俺?なんで俺だってわかったんだこいつら。
『ブスのくせしてあたしたちに反論するとか百年早いわwあははw』
お前らは人のこと言えないと思うけど。
『朝霧くんみたいなかっこいい人があんたなんか相手にするわけないじゃない。バカな子。』

「バカはお前らだ、クソ女共が。」
俺は耐えられなくなり、ドアを開けた。鈴本は3人の女子に囲まれていた。
「え・・・う、うそ、朝霧くん・・・!?」
「ま、まさか本当に・・・?」
「かっこいい・・・。」
「朝霧!!来てくれたの!?」
「ああ、友達だしな。」
「朝霧くん・・・そんなやつより、あたしたちと話さない?」
「そうだよ!それがいいよ!」
「うんうん!」
俺の怒りが爆発しそうだった。何なんだコイツら。鈴本はこんな奴らと今まで関わってきたのか?
「・・・朝霧、いいよ、大丈夫。来てくれただけでいいの、ありがとう。」
お前はなんでそんなに満足そうな顔をしてるんだよ。もっと怒れよ。もっと・・・欲を出せよ。
「・・・お前を傷つけた奴らを許すほど俺はいい奴じゃない。お前はもっと怒っていいんだ。もっと欲を出せ。そうしなきゃ伝わらないことだってあるんだ。手遅れになることだってあるんだ。だから聞け、お前ら。」
「え、あ、あたし達?」
「あたし達は別に何も・・・。」
「何も、してない!!」
「うるせえ。次コイツに何かしたら許さない。さっさと散れ。」
「い、行こうよ、怖い・・・。」
「そうだね・・・。」
「い、行こ!!」
あの三人が帰っていく足音が聞こえた。

「・・・何で助けてくれたの。」
「・・・・・・。」
答えられなかった。
お前を『あいつ』と重ねている俺がいるなんて言えない。
「答えなくていいよ、ありがとう。」
そう言うと鈴本は背伸びをして俺の頭を撫でた。
なんだかすごくほっとした。
「ごめん・・・ごめん・・・ごめんなぁ・・・。」
いつのまにか流れていた涙が屋上のアスファルトに落ちていた。
鈴本はずっと俺の頭を撫でていてくれた。


なあ『木葉』、こんな俺を見たら、どう思う?



「なんで泣いてるの?」
「・・・ごめんな、俺は友達失格だよな。助けに来たはずだったんだけどな・・・。」
「・・・そんなことないよ・・・?」
「俺は最低だよな・・・あはは・・・。」
泣いたのは『あの時』以来だ。・・・変な気分だ。
「朝霧は最低じゃないよ。だって、あたしの友達って言ってくれたもん!あたしに希望をくれたから!!」
「希望って・・・何だそれw・・・大げさだなあ、お前は。」
「大げさじゃないよ!」
「ありがとうな、鈴本。」
「あっ!鈴本って言ってくれた!!」
「うっうるせえな!!」
「照れてる!!可愛い!!」
「別に照れてないっつの!!」

そして俺は鈴本と一緒に屋上を後にした。

4

『マジで行ってください。』side秋


俺が鈴本を助けてから一週間が過ぎた。あれから鈴本は学校に来ていない。何かあったのだろうか。・・・心配なのは山々だが、俺は鈴本の家も携帯番号も知らなかった。だから何も鈴本にしてやれなかった。

「最近鈴本さん来ないですねえ。」
「そうだな。それがどうしたクソ野郎。」
「まだそれ続いてたんですか!?・・・というか、それがどうしたって・・・いいんですか?だって一週間も来てないなんておかしいでしょう。」
「それは・・・そうなんだけどさ、俺あいつのこと何にも知らないんだよ。だから何もできない。」
「思いあたる場所とかないんですか?」
思いあたる場所なら、ある。あの神社だ。それ以外俺は思いつかなかった。
「ないことも・・・ない。」
「じゃあ行ってみたらどうですか?心配ですし。」
「心配ならお前が行けばいいんじゃねえの?」
「それじゃあ意味がないんですよ。アキが行かなきゃいけないんです。早退したってことにするので行ってきてください。」
「・・・え?マジで行くの?」
「マジで行ってください。」
夕がやけに真剣だった。
「わかったよ。行けばいいんだろ、行けば。」
「それでこそアキです。」
夕はいつもの笑顔に戻っていた。
「じゃあ早退って言っとけよ?」
「アイアイサーです!!」
夕が(あのクソ野郎が)こんなに真剣に言うのだから、鈴本のところに行かなくては。一応これでも夕とは幼馴染だ。夕のことは信頼している。
「・・・さて、行くか。」
俺は教室から出た。



side 蘭花


もう一週間も学校へ行ってない。きっと彼も心配しているだろう。行かなきゃいけないのはわかっているけれど・・・。
助けてもらったあの日、私は自覚してしまった。前から気づいてはいたのだけれど。


彼に、「恋」というものをしてしまった。

「告白」というものをした時は、男の子が喜ぶと思っていたからで。その時の「告白」に深い意味はなかった。でも、今ならわかる。彼を初めて見たときから、ずっと彼のことが好きだったのだ。そう考えると彼が目の前に出てきたら、耐えられないんじゃないかと思った。だから、学校を休んでいたのだけれど・・・。


「こんなに寂しいと思わなかった・・・。」


最低だ。彼のことが好きなのに、とある嘘までついている。彼は本当の「鈴本蘭花」を知ったらどう思うのだろうか。それを考えると怖くなる。だから、彼には嘘をついている。


『・・・あ、あたしはあんたをおいていかないよ!いなくならないし、一人にしないよ!』


そんなこと、不可能なのに。


「やっぱりこの神社にいたのか。お前何してるんだよ、学校に来いよ。」
彼が、来た。
何故ここに私がいると分かったのだろうか・・・。というか、彼の今いる位置からは見えていないはずなのだけれど。
「・・・。」
「返事ぐらい、しろよ。」
「・・・どうして来たの?」
「どうしてって・・・逆に何でお前はココにいるんだよ。」
「・・・そ、それは・・・会いたかったから・・・。」
「は?誰に?」
「だ、だから!!会いたかったの!!朝霧に!!わ、わわわわかったか!!」
うわぁ。な、なんだコレ。恥ずかしい。
「・・・。」
・・・何か黙られてしまった。何、この微妙な空気。
「あの、さ。」
「は、はい!!」
吃驚して敬語を使ってしまった。すると、いつのまにか彼が私の正面に来ていた。
「抱きしめさせて・・・。」
「え」
その瞬間、彼の匂いに包まれた。抱きしめられたと気づいたのは数秒後だった。温かくて、優しかった。にしても、突然彼はどうしたのだろうか。
「・・・どうしたの・・・?」
「・・・木葉・・・木葉ぁ・・・。」
「この・・・は?・・・泣いてるの?」
「木葉を・・・思いだしちまって・・・。ごめん、鈴本。急に抱きしめたりして・・・ごめん。」
彼は、何か辛いことを思い出してしまったらしかった。私と、「このは」という人を重ねているのだろうか。
「・・・泣いて、いいよ。」
「ごめん・・・俺が迎えに来たのに。」
「いいよ、無理しないで。」
「ありがとう・・・鈴本には・・・全部話すよ。」
もしかしたら「このは」さんと、彼がこの神社にいたことが関係しているのかもしれないと思った。

彼の背中に手をまわすと、震えているのがわかってしまった。

5

『君の目をもう一度見たかったんだよ。』side秋


『彼女』を初めて見たのは中学一年生の春だった。
『彼女』はとてもきれいな人だった。サラサラの茶髪に真っ白な肌で、とても不思議な女の子だった。
『彼女』と初めて話したのは中学二年生の頃だった。クラス替えをした直後の席替えの時に隣の席だったのが『空川木葉』だった。初めて見た時はただきれいな人だな、としか思わなかった。

その時の俺は『空川木葉』が俺の大切な人になるとは全く思っていなかった。



「君、名前は?」
席替えをしたばかりなのに話しかけられた。
「え?何、突然。」
「いいから早く答えてよ、朝霧くん。」
「・・・俺の名前知ってるじゃん。」
「いいから。」
何かめちゃくちゃ睨まれた。何故だろうか。
「朝霧・・・秋。」
「アキくん・・・かぁ。何?秋が好きだからアキなの?」
「いやそうゆうわけじゃねえけど・・・。」
「じゃあ嫌いなの?」
「うーん。嫌いじゃないけど俺は秋より冬のほうが好きかな。こたつがあるし、寝れるし。」
俺がそう答えると、俺の目をみながら彼女は言った。
「私は秋が好きだよ。」
その言葉に俺は不覚にもときめいてしまった。俺に言っているわけではないのに。
不思議な人だと思った。何故こんなことを聞いてくるのだろうと、疑問を感じながら聞いた。
「何で秋が好きなんだ?」
すると彼女は俺の目をもう一度見ながら言った。
「私は君が好きだから、秋が好きなんだよ?」
「・・・・・・は?」
彼女はとても嬉しそうに笑いながら言った。
「とりあえず友達から始めましょ。」
「は!?何で!?」
「え、何でって・・・だから、君が好きだから。」
俺の頭は真っ白になっていた。もう、わけわからん。
「じゃ、私用事あるから。」
「あ、おい!!ちょ、ちょっと待て!俺はお前のこと何もしらねえぞ!!」
「"お前"じゃないでしょ。私の名前、今から言うから覚えてね。」
「いや、そこじゃなくて・・・。」
「空川木葉。木葉って呼ばなきゃ刺すから。」
何でだよ、怖いわ。
「木葉・・・じゃあ俺じゃ木葉から告白されたってことでいいのか?」
「違うわよ。これは告白じゃないわ。」
「は!?じゃあ・・・何なんだよ。」
「君のことが気に入ったの。だからこれからも一緒にいようねっていう予約。」
「予約・・・?」
「じゃあ覚悟しててね。ばいばい。」
「・・・お、おう・・・。」


それから俺と木葉はいつのまにか一緒にいるようになっていた。



多分俺は彼女を『好き』になっていたのだと思う。



一緒にいるのが当たり前になって一年が過ぎようとしていたときだった。
その日はは12月24日のクリスマスイブだった。俺は木葉と神社の前で待ち合わせていた。
「木葉~!お待たせ、遅くなって悪いな。」
「遅い、遅すぎて遅い。」
「意味わかんねえよ。」
相当怒っているようだった。
「君が早く来なかったせいで私はとても退屈しているの、はやく行くわよ。」
「・・・怒ってる?」
「全然怒ってないわ、全然、怒ってない、わ。ぜんっぜん、おこってないわ。」
「何で三回繰り返した。怒ってる、怒ってるよな絶対。」
「いいから行くわよ。手・・・冷たい、温めて。」
「・・・りょーかい。」
つないだ手は本当に冷たかった。どれだけの時間ここにいたのだろうか。
「じゃ、行くか。今日はどこに行くんだ?」
「・・・どこにも行かない。ここで話しましょ。」
「ここって・・・神社で?」
「そうよ。ほらっ、座って。」
そう言うと木葉は俺を岩場へと誘導した。
「で、何だよ。珍しいな、話なんて。」
「私は本当に君が好きだったの。君の・・・君の目をもう一度見たかったんだよ。」
「・・・何の話だ?」
「私はもう十分楽しめたよ。だから君に言わなきゃいけないことがある。」


何故だか、胸騒ぎがした。木葉が消えていなくなってしまうような気がした。


そう思った瞬間俺は木葉の手を掴んでいた。
「どこに行くんだよ。行かないでくれって言ったら行かないでくれるのか?
「・・・私は君が好きだよ。はじめて私から声をかけたとき、君と話したり、笑ったり、冗談を言い合ったりすることがこれほどまでに楽しいなんて思わなかった。ありがとう、君と・・・会えてよかったよ。」
「・・・何・・・言ってんだよ。俺達はこれからも一緒に話し合えるし、笑えるし、冗談も言い合えるぞ?だから、そんな変なこと・・・言うなよ・・・。」
「・・・無理・・・だよ・・・。君と私はもう一緒に居られない。」



一 緒 に い ら れ な い ?



「・・・木葉、どうしたんだよ、今日はいつもより変だぞ?」
「変じゃないの、ごめんね。」



言葉が出なかった。冗談だろ、と言おうとした。でも木葉の顔があまりにも真剣で、綺麗で、何も言う事が出来なかった。



「じゃあね。」


そう言うと木葉は神社から飛び出すように走って行った。俺はしばらく信じられずにいた。

俺は木葉に振られたのか?木葉に辛い思いをさせたのか?


(全部聞かないと納得できない。)


俺はそう思ってしまっていた。この時に素直に現実を受け止めていれば、納得していれば、あんなことにはならなかったのに。
そんなことも考えているわけがない俺は立ち上がり、木葉が走って行った方向に走り出した。



「木葉・・・木葉ぁ・・・!!」



神社の階段を駆け下り道に出ると木葉が見えた。
道路を挟んで俺の目の前に木葉は立っていた。
俺は夢中になって木葉のいる場所へと、走った。
そして、これからどうするかを考えていた。

まず木葉を抱きしめよう、そして納得するまで話し合って、全部聞こう。そしてちゃんと言葉にして・・・ーーー

「え・・・あき・・・?うそ・・・っダメ!秋!危ないっ!!!!!ーーーーーー」




「好きだよ」って、伝えるんだ。







「・・・眩しい。」
「気が付いたかい?ここは病院だよ。」
「病院・・・?なんで・・・木葉・・・木葉は・・・?」
「トラックに轢かれたんだよ。まあ、正確に言うと空川さんが、だがね・・・。」
木葉が轢かれた?この人は何を言っているんだろう。」
「冗談は・・・よしてくださいよ。・・・えっと・・・。」
「私はこの病院の主治医だ。おじさんと呼んでくれて構わないよ。」
「おじさん、冗談はほどほどにしてくれ、木葉に、会わせてくれ。」
「話を聞いてくれ。実は・・・。」
「木葉に会わせてくれよ!!!」
「彼女は君をかばってトラックに轢かれたんだよ。まあ、植物状態になってしまったんだけれどね・・・。」
「植物・・・状・・・態・・・?」



嘘だと信じたかった。でも、納得している自分もいた。



そして俺は彼女を失った。

6

『・・・決めた。』 side秋


木葉のこと全て話し終えるまで鈴本は黙って聞いてくれていた。鈴本はとても驚いた顔をしながら聞いていた。そして、
「ちょっとまっててね。」
と言い残すとどこかに行ってしまった。
しばらくすると、鈴本は一輪の花を持って帰ってきた。それは鈴蘭の花だった。
「この花なんだかわかる?」
「鈴蘭だろ?」
「そう、正解。よくわかったね。」
「そりゃあ鈴蘭の花好きだし。」
「・・・。」
何故か黙り込んでしまった。何かよからぬことを言ってしまったのか俺。
「・・・この花のもう一つの名前、わかる?」
「え?鈴蘭だけじゃないのか?名前って。」
「ちがうよ(笑)」
「じゃあわからん・・・。」
「まあわかんないだろうねぇ、そりゃあ。」
「何だよ!!じゃあ最初から聞くなよ!!」
「あ、笑った。」
「わ、笑ってねえよ!!むしろキレてるわ!!」
「嘘つけぇ(笑)」
「・・・そ、それより、その名前って何なんだよ。」



「その名前は、君影草って言うんだよ。」



「君・・・影・・・草・・・?」
「そう、いい名前でしょ?」
「そうだな。鈴蘭も奥が深いもんだな。」
「えへへ!!」

鈴蘭は俺の好きな花だった。俺は退院した後にこの神社に来て『木葉が生き返りますように。』とよく願っていた。その時も、今も、この神社には必ず鈴蘭がたくさん生えていた。毎日見るうちに好きになっていった。
にしても、鈴本は何故俺に『君影草』という別名を教えたのだろうか。
「・・・ねえ。」
俺が口を開く前に鈴本が声をかけてきた。
「何だ?」
「鈴蘭は・・・好き?」
「さっきも言っただろ。好きだって。」
「前に、朝霧は人を好きにならないって言ったよね?」
「ああ・・・おう。」
「なら、人じゃなければ好きになってくれるの?なーんて。」
「そうゆうことじゃねえよ!!・・・ってこのやりとり二回目だな。」
「あははっ!そうだね!・・・。」
鈴本と話していると本当に楽しいと感じている自分がいた。自分の心が癒されていくような感じがした。
「・・・決めた。」
「ん?何をだ?」
「ううん、なんでもない。」
「そうか?」
「あたし今日は帰るね!わざわざ来てくれてありがとう!明日から学校行くね!ばいばい。」
「おう、じゃあな。」

俺は走っていく鈴本に手を振りかえした。

7

『』 side 蘭花


神様、ありがとう。
こんな私を人間にしてくれてありがとう。
私は後悔なんて1つもしていない。
私は彼に「恋」をした。
彼は私を、私の本体を、好きと言ってくれた。これ以上嬉しいことは何もないじゃないか。
なのに、なんで、なんでなんでなんで、
私は涙を流しているんだろう。
私は幸せだったのだ。
私は本当に後悔なんて1つもないはずなのだ。



「好きだよ・・・秋・・・。」


そして私は携帯の送信ボタンを、押した。




side 秋


鈴本が帰った後、しばらく俺は帰らずに神社にいた。
「"君影草"・・・か。」
俺は鈴蘭の花を見ながら、考え事をしながら携帯が震えた。
「・・・?メールか?・・・だれだ、これ。」
迷惑メールだろうか。知らないメールアドレスからメールが届いていた。
そのメールの内容は、『病院に行け』というものだった。
この地域での病院は木葉がいる病院ぐらいしかなかったはずだ。
つまり、このメールの送り主は『木葉に会いに行け』ということを言いたいのだろうか。
そんなことを考えていると、今度はいつぞやの病院のおじさんから電話がかかってきた。
『秋くん!たいへんだ!空川さんが・・・目を覚ましたぞ!』


「木葉!・・・っ!!」
俺は木葉が寝ているはずの部屋のドアを勢いよく開けた。
すると彼女は、あの大きな目で、こちらをしっかりと見ながら言った。











「やっと会えたね。久しぶり、秋。」

8

『ずっと好きだよ』 side秋


「木葉が・・・いる・・・。」
「何よ、いちゃ悪いかしら。」
俺はまだ信じられなかった。嘘なんじゃないかとほっぺたを叩いたけど、ほっぺたはちゃんと痛かった。
「いや・・・嬉しいんだけど・・・お、驚いてて・・・。」
「君にもう一度会えてよかった。本当に、よかった。」
何を話していいかわからない。それは木葉もきっと同じはずだ。

「・・・ごめんな、あの時俺が目の前を見ていれば・・・。」
「ううん・・・いいんだよ、君を守れてよかった。」

「「・・・。」」
気まずい。
俺と木葉の間で沈黙が続いた。その沈黙を破ったのは木葉だった。

「あの時私は転校することになってた。」
「え?」
「それを言うのがつらくて・・・ごめん・・・。」
木葉は泣きそうな顔でこちらを見てくる。・・・やべえ、可愛い。
「もう、そんなのどうでもいいよ。それより聞いてくれるか?」
「・・・何?」



「俺ともう一度付き合ってください。」



「・・・え、い、いいの?」

「いいに決まってるよ。っていうか俺はお前じゃなきゃダメなの。」

「で、でも・・・。私は・・・この通りいろいろ歪んでるし・・・。それにこれからリハビリとかもあるし・・・。」

自覚あったのか。歪んでるって。

「その歪んでるのが好きなのは俺だし。リハビリはできる限りサポートする。」

「・・・じゃあ、君と、付き合おう・・・かな・・・。ありがとう、秋。」

「こちらこそ。」

俺たちはしばらくの間、笑い合っていた。



木葉と別れた後、俺は神社へと向かっていた。
最後に神社へ言って、お参りをしたかったからだ。これからの木葉のために。

神社につくと、神社に咲いていた鈴蘭がなくなっていた。
「何だよ・・・これ・・・。」
鈴蘭が一本も咲いておらず、ガラリとした雰囲気となっていた。
すると、俺の耳についさっきも聞いていたはずの声が聞こえた。



「朝霧、聞こえる?」




鈴本の声だった。どこから響いてくるのか、わからない。


「あたしね、もう力をつかっちゃったから、朝霧には会えないんだ。」


突然そんなことを言われても。
何を言っているんだ、鈴本は。
またいつもの冗談なのだろう。

「冗談じゃない。ごめんね。でもね、あたしもう人間にはなれないし、花にも・・・鈴蘭にももどれないけど、後悔してない。朝霧が全部、教えてくれたんだよ。ずっと朝霧のちかくにいるから。えへへっ、なんか照れるなあ・・・。



さよなら、秋。」



鈴本は泣きながら言っていたのだろうか、無理して笑っているようだった。
鈴本は何か違う、ということは、勘図いていたはずなのに。俺は初めの頃、鈴本を嫌がっていたはずなのに。



今では、鈴本が消えるのが嫌だと思っている。


「大好きだよ、ずっと、これからも。」



「待ってくれ!消えないでくれ!俺は・・・っ、俺は!!!」
俺はいつのまにか、空に向かって手を伸ばしていた。

「約束したのに・・・ごめんね。」
彼女は、今まで聞いたこともないような声を出す。



「蘭花ぁっ!!」



手を、伸ばす。
だめだ

届かない・・・!!



「ありがとう、愛してる。」



抱きしめられている感触がした。
鈴蘭の香りもした。



その感触も、香りも、すべて消えていくような気がして、
忘れてしまうんじゃないかと思って、
不安になった。



「ばいばい」



そして彼女は




消えてしまった。

エピローグ

「秋、ここは・・・あの神社ね、懐かしい。鈴蘭の花がたくさん咲いてる。キレイ。」
「そうだろ?俺が植えたんだから、当たり前だ。」
「すごい自信ね。ガーテニングが趣味にでもなった?」
「さあね、俺にもわかんないや。」

高校三年生の春、俺は幸せに過ごしていた。木葉も病院を無事に退院し、神社にもともとあった鈴蘭は消えてしまったので、俺がすべて植えなおした。
ガーデニングも悪くないな、と思ったのはここだけの秘密である。

「私ね、病院で目が覚めるまで夢を見ていたの。」
「夢?」
「そう、長い夢を見たの。鈴蘭の香りがするかわいい子がね、私に教えてくれるの。"アキは元気だよ"とか、"アキが悲しんでる"とか、"アキが笑ってる"って言ってた。」
「蘭花・・・?」
俺はうれしくなった。そして、鈴蘭を見ながら俺は木葉に話しかける。



「なあ、鈴蘭のもう一つの名前、知ってるか?」








俺は一人の鈴蘭の香りがする、愛しい女の子を思い浮かべながら言った。









「君影草って、言うんだってさ。」

君影

やっと完結しました。(ただ私がタイピングしなかっただけ)

この小説の初期設定はだいぶ違いました。このストーリーは・・・なんだろ、わりと思いつきで書き始めました。
そしたら、ヒロイン2人でてきちゃって、主人公二股なの?これwって自分でも思いました←

でもそうじゃないんです。

蘭花はたしかに恋してたけど、秋の幸せを一番に考えていたし、秋は蘭花のことを恋ではないけど、好きになっていたはずです。まあ木葉と秋はリア充になりましたけどぅ。
蘭花と秋の関係が好きです。こうゆうのもありだとおもいます。
鈴蘭が君影草だと知ったのは、授業中に電子辞書をいじってたせいですw
蘭花はその名の通り、秋の影で支え続けます。
ってことを言いたかったんですね。伝わりにくいかな~とおもったので、ここで解説をいれさせていただきます。

でわ、これにて。

君影

主人公の朝霧秋はとある理由で人を好きにならないようにしていたが、唐突に鈴本蘭花に告白される。 はじめは戸惑うが、秋は蘭花と出会いだんだん心をひらいでゆく。 しかし、蘭花は何かを隠しているようだが・・・? ギャグもほんの少々な恋愛小説。(という予定) 完結しました!! バンザイ!

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-10-16

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