ロジックに朝ごはん
湯田 夏
静かな朝の住宅街。今朝も我が家は騒々しい。
「お母さん、朝練だって言ったでしょ。もっと早く起こしてよ」
悲鳴に近い叫び声は長女の高菜である。
「文句ばかり言わないで顔洗ってきなさい。朝ごはん作るから」
あわただしく台所に立つ妻の香菜子が廊下を突き抜けて洗面所へ言葉を投げ返す。
私も急がないと電車に乗り遅れる。
「お姉ちゃん、早くどいてよ。私だって洗面所使いたい」
どうやら次女の青菜まで起きてきたようだ。珍しい。
「そうだ。青菜も今日から朝練なんだったわ」
妻の香菜子のつぶやきに納得した私だった。
今度は次女の青菜が洗面所から叫んできた。
「お母さん、洗濯したジャージ乾いてる?」
思い出したのか、妻の香菜子が濡れた手を拭きながら台所から消えてしまった。
いつもことだ。
わずかなため息を漏らし、私は食パンをトースターに差し入れる。
妻の香菜子も忙しいのだ。朝食を作り弁当を作り、身支度を準備して、と。
朝ごはんくらい自分で用意する。
それがせめてもの私ができる家事の手助けだ。
ちょっと苦しい言い訳だな。ただ、一人で食べる朝ごはんは少し寂しいものだ。
食パンが焼けたよ、とトースターが教えるので牛乳をカップに注いだ。
「きゃー、お母さん。知らない人が家にいるぅ」
食パンをかじろうと開いた口のまま私は止まってしまった。次女の青菜が驚いた顔で立っていた。
「バカね、青菜。よく見なさいよ。あたしたちのお父さんよ」
すぐに現れた高菜があきれながら青菜の肩をポンと叩いた。
高菜に遅れて妻の香菜子までが戻ってきた。
「あら、あなた。もう朝ごはん食べているのね」
そして手に持っていたジャージを次女の青菜に渡してから言った。
「あなたの弁当、今日もありませんから外食でもして」
香ばしく焼けた食パンだったが、こぼれそうな涙でふやけないように、私は急いで口に押し込んだのだった。
ロジックに朝ごはん