青の種


 『彼女』は、茶色の小さな粒を五本指の手にそっと渡した。
「種を見つけたのですか?」
『彼女』は頷いた。創造者の問いに。
「貴方の意志に導かれたのですね」
『彼女』――桃色の丸く柔らかそうなものが一枚一枚、真ん中の黄色の部分を囲んでいて、体は黄緑色の細いものをたくさんつけたもの。『彼女』は音を立てながら、真っ黒で、所々光輝いている空間は消えていった。創造者は、そこを『白の庭』と呼んだ。創造者は『白の庭』を見下ろしながら、種を優しく握りしめて唱える。
「種に『始まり』を―――…」
 すると、種が反応した。種に、ひびが入る。種が、芽を出す。
そして、そこに花が咲いた。青い大きなものが伸びていき、真ん中の核を作り出す。咲いた、鮮やかな、青い花。伸び続けて、伸び続けて、しかしそれはふっと止まり、みすぼらしく縮んでいってしまった。
 しかし、花は、種を残す。縮んで小さくなった花は、一瞬にして散った。けれど、その散った光の中にまた新しいものができた。
 創造者はそれを『青の種』と呼ぶ。何もなかった『白の庭』にまたひとつ、新しい種ができた。創造者は、微笑むと二番目の『灰の種』へ舞い降りた。そして、そこで創造者は、眠った。

 どれくらい時が流れたのだろうか。
 創造者は目覚め、『青の種』へと向かった。向こうには、『赤の核』があった。『赤の核』はずっとずっと昔に、『白の庭』を覆い尽くすような赤い花を咲かせ、『赤の核』を残した。
『青の種』は、名前に合う通りに青くなっていた。とても、鮮やかな青。創造者は、微笑むと『青の種』へ舞い降りた。
その時、創造者は驚いた。
 『青の種』の中にぽつぽつと『光』が現れ始めたからだ。
 『光』の誕生。ずっと創造者が望んでいた事だった。見ると隣には『光』に還ろうとしている彼女がいた。
「貴方の意志のおかげです」
 彼女は何も言わない。『光』に消えていく。ただ、彼女の意思は創造者に伝わったようだ。創造者は、違いますよ、という風に。首を振る。
「種は、どこにでもあります。種は、芽生えて花にならなければなりません。 種は、芽生えて、美しい花になるんですよ。
種は、全ての始まりなのですよ」
 その言葉とその姿を『青の種』が記憶した。だから、その姿に『光』は最終的に進化する。創造者のその―――「人間」の型に―――。『青の種』の『光』は、使う言葉も創造者の言葉を一部引き継いだが、時を重ねた末にそれらは別の語として呼ばれることとなる。

『赤の核』は、のちに「太陽」と。
『彼女』は、「植物」と。
『白の庭』は、「宇宙」と。
『灰の種』は、「金星」と。
『光』は、「生命」と。
そして、『青の種』はのちにこう呼ばれたのだ。

『地球』

青の種

世界創造の話

青の種

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 時代・歴史
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-05-14

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