【連載】生涯青春ラケットとジェットの物語 301

万田 竜人(まんだ りゅうじん) 作

301(もも) 吾輩は猫ではない

吾輩は猫ではない、ましてや、自分は犬だとも思っていない。
公園で、同系のミニチュアダックスフンドが親し気に近づいてきても嬉しくもない。

グランパにトリミングに連れて行ってもらって、トリミングが終わると茜(あかね)
お姉さんがカズさん(グランパの奥さん)にお迎え頼むの電話をかけると決まって
吾輩の・いや・私の耳の後ろに、しっかりとリボンを取り付ける。

茜お姉さんは、このリボン選びが楽しいらしくて、私のトリミングが仕上がった顔
を見ながら、これも、茜お姉さんが考えた秘訣らしく、次のトリミングまでリボン
が外れないように、リボンの台座を作って、リボンをしっかりと取りつける。

私は、この耳の後ろに付けたピンクのリボンなどを、前脚で引っ掻いたりせずに、
いつも付けたままにしているためか? 近所の小学校に入学したばかりの学童
がグランパに次のような質問をしてきたのだと云う。

「ももちゃんは、生まれてきた時から、耳にリボンが付いていたの?」

小学校に入学したばかりの子供の発想は微笑ましい。

そして、グランパは、茜お姉さんのトリミングが完了すると、大げさに迎えに来る。
「ももちゃんカッコいいね!」と、云って両手を広げて来るので、しょうがないから、
いかにも嬉しそうに、全身で喜び表現をして、グランパの胸に跳び移る。

茜お姉さんも「やった!」と、云う顔をして、私の顔を見てくるので、感謝の気持ち
を尻尾を振ることで意思表示してみせる。

そして、グランパがお気に入りのフィールダーと云う車に乗って自宅に戻ると・・・

「お帰り!」と云って、カズさんが、出迎えてくれて、
「お腹、空いたよね!」と云って、夕食にありつく・いや・夕食をいただく。

「夕食は、鶏のむね肉を電子レンジでチンとばかりにロースト風にして、食べやすく
刻んだものと、キャベツおよびドッグフードの三種盛り」になっている。

この三種盛りは、先代のシェリー先輩から続くもので、ダイエットを考えてグランパ
とカズさんが一緒になって工夫しながら考え出したらしい。私の時代になってからは
ドッグフードに粉末牛乳を振りかける工夫が加わったと云う(この経緯は後述)。

しかして、この「三種盛りドッグフード」の工夫には、物語風のエピソードがあって、
第一話における華の話題にすることにしよう。

私は、埼玉県入間市の「入間ケ丘」で暮らしているが、先代のシェリー先輩は入間市
久保稲荷で暮らしていた、自転車で10分くらいの距離だが住環境は少し異なる。

「なんでも、その事件は、隣接する小学校の秋の運動会の時に起こった」のだと云う。
「シェリー先輩は、日中は外で暮らして、夕刻にグランパが帰宅すると屋内に入って、
翌朝、グランパが出勤するまでは、室内犬として暮らしていた」のだと云う。

「その日、隣接する小学校の校庭では、運動会で、お馴染みの小旗が風に吹かれて
棚引き、シェリー先輩が庭の木陰で通りを見渡していると、校庭で騒ぎまわっている
子供たちに向かって、母親たちが道を急いでいるときに嫌な予感がした」のだと云う。

「やがて、運動会が始まり、シェリー先輩が苦手なピストル音が鳴りだし、これは危な
いと思ったのだと云う。なんとかして逃げだすことは出来ないかと考えて庭をぐるぐる
と巡回、グランパが閉めていった鉄柵の端に鼻先が突っ込める隙間を発見した」

「ここなら、鼻先でこじ開ければ、外に出ることが出来る」と判断したのだと云う。

「外に出ると、ひたすら遠くへと思い、グランパと散歩で時折出掛けた林を抜け、さらに
公園を抜け299バイパス道路を横断して、大型パチンコ店の駐車場まで逃げた」

「このバイパス道路は、飯能市と狭山市をつなぐ道路で車も頻繁に通るが、たまたま
道路が空いていて、すんなりと渡り切ることが出来た」のだと云う。

「そこから森林までは近く、ゴルフ場の森林に繋がる広い空間が果てしなく広がって
いるので、しばらくは、そこで昼寝をしたのだ」と云う。

「昼寝をした場所も、グランパと散歩したことがあるので不安感はなかった」と云う。

いいかげん、昼寝をして気持ちも落ち着いてきたので、さて帰ろうかと考えて、大型
パチンコ店の駐車場に戻り、299バイパス道路を横切って、家に戻ろうと考えたが、
どうにも車の流れが止まず、右往左往していると・・・

若いお兄さんが側に来て「危ないよ!」と声をかけてくれた。

「どっから来たのかな?」
と云いながら、お兄さんが車に乗せてくれた。

「グランパの車は4ドアだが、お兄さんの車は若者らしく2ドアだった」

しばらくして、入間市のアウトレットにつながる道に出て、お兄さんの勘が働いたら
しくて、林の中に人家がまばらにある地域に車を止めて・・・

「この辺りの住宅で飼われていた犬が迷って大型パチンコ店に来たもの」と判断して
「この森の中に放してやれば自分で自宅に帰るに違いない」と考えたらしいと云う。

「シェリー先輩にしてみれば、まったく、見当違いの場所なので、お兄さんの車から
降りる訳に行かない、車の中で踏ん張って、車から降りなかったのだと」云う。

お兄さんも、困り果てて、近くにあった自動車の修理工場に車を止めて・・・

修理工場の簡易事務所の窓口を覗くと、修理工場の奥さんが出てきたので、
「今、バイパス道路を渡ろうとしていた犬を助けたんですが、この辺で犬の飼い主を
探すには、どうしたらいいでしょうか?」と助けを求めたのだと云う。

すると・・・

「私の処で預かってもいいわよ」と云って、お兄さんの車の処まで、来てくれて、

「あら、綺麗にブラッシングされていて大事にされているワンちゃんじゃないかしら、
とりあえず警察に届け出て、うちで預かっておくわよ」と云われて、お兄さんは安心
してシェリー先輩を無理やり車から降ろして、奥さんに抱き渡したのだと云う。

「うちならば、夜は修理工場の中に放し飼いに出来るので、飼い主さんが見つかる
までに時間がかかっても大丈夫よ」と云われて安心して預けたのだと云う。

(続 く)

【連載】生涯青春ラケットとジェットの物語 301

【連載】生涯青春ラケットとジェットの物語 301

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-05-14

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