彼らの過ごした0時間(タイムゼロ) 『プロローグ&第1話「0時間(タイムゼロ)」』
これはフィクションである
プロローグ
「えーいよいよ来てしまいました」
ニュースキャスターの安部 敦が続ける。
「地球最後の日。皆さん楽しい1日を。では人生において最後の一日をご堪能あれ」
そんなふざけたニュースを聞きながら俺「貴理塚 天樹」は学校に行く準備をする。
ニュースを聞いていたらわかると思うがどうやら今日が地球最後の日らしい。
これは実は前々から報じられていたことである。なんでも地球から飛び立ったスペースシャトルが月に行き、着陸するとき
に勢いが強すぎたらしく月が真っ二つに割れたとか。そしてその割れた月の部分(隕石)が地球に降ってくる、そんな事らし
い。
「…でもまあ人間はいつか死ぬし、その死期が早まっただけなんだよな…」
貴理塚はごもっともな独り言を述べる。
「けどそんな日なのになぜ学校というものがあるのか解せない…」
そんな事を口にしながら靴をはき、
「行ってきます」
貴理塚 天樹は人生最後の1日をスタートさせる。
「ただいま」
人生最後の学校生活は、いつもとあまり変わり映えしなかった。変わったとすれば朝の校長挨拶の時間が1分だけ延びた事
ぐらいしかない。
「ふう、疲れたぜ…。……なんかやることねーな」
という貴理塚の言葉に『テレビでも見たらいいじゃないか!』というご意見が多数寄せられたが、きょうは地球最後の日と
いう理由で芸能人、俳優、女優といった「テレビに出てる人」全員がお休みなので今テレビをつけても「放送を休止してま
す」という文字が流れるだけだ。
「飯食ったら、他にやることねーし…」
寝るか、という結論に達した貴理塚は足早に食事を済ませ、高校1年生にしては早すぎる「PM7:31」という時間に人生
最後の睡眠を始めた。
こうして最後「おやすみ……ZZZ…」という挨拶もなしに貴理塚 天樹の人生は幕を閉じた……つもりだったのだがどこか開
いていたらしい。
人生という扉を閉め終わる前に貴理塚の身にとんでもないことが起きた。
第1話「0時間(タイムゼロ)」
―――グワンッ
そんな感覚を覚えて貴理塚は目を覚ました。なんだなんだ?と思いながらふと貴理塚は寝るとき付けっ放しだった腕時計を
見る。
『PM11:58:49』
「……」
貴理塚は目を凝らし、目をこすり、いざっ!と決意を新たに見たが確かにこう書かれていた。
『PM11:59:05』
「……ってええっ!!!地球が滅亡するまでもう1分もないじゃん!!どうしよう!まじでどうしよう!このままだと俺は地球滅亡
の瞬間を目撃してしまう!」
などと喚いてる間に地球滅亡までの時間が刻一刻と迫ってくる。
『PM11:59:40』
…もう地球滅亡の瞬間を見届けるしかないと踏んだ貴理塚はしっかりと心の準備をする。
『PM11:59:51』
もうすぐだ…と貴理塚は少し身震いする。
「当たり前だ。誰だってこんな状況になったら震えるはずさ」
貴理塚は自分で自分を励ます。
『PM11:59:56』
「57、58、59―――」
終わりだ!と貴理塚は心の中で叫んだ。……が
『……………………………あれ?もう地球滅亡したよな…?なんで頭で考えることができるんだ?もう1秒以上経ってるな?』
貴理塚は恐る恐る目を開ける。が何もない…。
「はは、なーんだ地球滅亡なんてしてねーじゃねーか」
貴理塚は意気揚々と地球が滅亡してないか確かめるために貴理塚は腕時計を、見る。
そして絶句する。
なんとまあ…腕時計の針が反対向き、つまり「左回りに高速で動いている」のだ。
「…とりあえず外に出よう。何か知ってるひとがいるかもしれないし…」
ということで今、貴理塚はPUMAの上着を羽織って外に出ようとしているのだが…
「ちっ、なんで扉が開かないんだよ!?」
扉を開けようにもまず、ドアノブが動かないのだ。
「…やるしかねーか」
言うが早いか貴理塚は自分の部屋の扉をケチ破った。
そして同じように玄関の扉も…
そして扉を破り、目にしたのは…
頭上たぶん30メートルにあると思われる巨大な空中停止した隕石だった。
普通ならここで「終わりだー」とか叫びそうなのだがそれ以上に貴理塚は唖然としていた。
「なんてこった…」
これが地球の異変の始まりだった…。
貴理塚は自分が通っている神鹿高校の近くにある神鹿中央横町に行くことにした。
あそこなら人がたくさんいるかもしれないという淡い期待を胸に…
だがしかし彼の予想は半分当たりで半分はずれだった。
人はいた。だが人は人でも「動いていない人」だった。そして「動いていない人」は全員モノクロ、色がなかった。
「…時を止められているのか……。ああ、それしか考えられない……。そうじゃないとあの隕石はなぜ止まっているのか説明
できない……」
貴理塚は頭上30メートルの位置にある月の破片(隕石)を見上げる。
「畜生……なんだってんだ。どうしちまったんだ、この世界は…」
「どうもしていないよ、少年」
背後から聞こえた声に貴理塚は驚きと困惑によって凍りついた。だが…
「あんた…何者だ……」
貴理塚は後ろを振り向かずに背後にいる者に訪ねた。
「言語をしゃべる生物だよ、少年」
「そうか…本当だな……?」
「仮にそうでなければ私と君の会話は成立しないよ」
そう言われた貴理塚は納得し、後ろを振り返った。そこには……
「どうかしたかね、少年よ?」と喋る1人、いや一匹の茶色の毛をした犬がいる……気がする。
「……この異常は地球だけでなく、そこに住んでいる人の身体すらおかしくしたのか…?」
「だから私がどうかしたか?少年よ?」
「その言葉そのまま返すよ……」
頭を抱える貴理塚の前で、その犬は?マークを浮かべる。
「?……まあ良い…。自己紹介がまだだったな…、私はアリルクランス・フォオメイタ。アルと読んでくれ」
アルは握手をしようと右手を差し伸べたが貴理塚から見ると、……犬がお手をしてるようにしか見えない。
「ああ……、ついにお手までやりだしたよこの犬…」
「話を聞かないか!!少年!!」
ボケーとしている貴理塚を見て、アルは怒る(吠える)。がいつまでたってもこの無駄な会話が続くことを察したアルは、
「もう良い……貴様には呆れたわ…」
単刀直入に言う、とアルは犬歯をむき出しにし、
「……寝ろ」
まだふらふらしている貴理塚の懐に飛び込み、鳩尾に渾身の頭突きを喰らわした。
「ぐふっ!?なにしやが―――」
まだ足りないと感じたのかアルはさらに頭突きを続けた。
「がはっ!!!……テッ…テメェ……」
貴理塚は恨みの視線をアルにぶつけると気を失い、地に倒れた。
倒れて気絶している貴理塚を見たアルは、
「…『上の組織』よ…思い知るがいい…この子の力を…」
と言い倒れたままの貴理塚に静かに歩み寄る。
ここはとある建物の路地裏道。そこに1人の少年が寝かせられていた。そしてやがてその少年は目を覚ます。そして気付く。
「んん……あ!…ん?なんで俺こんなとこで寝てんだ?…って、ああっ!!」
自分の真横にアルがいることに。それと同時に貴理塚の脳裏に先ほどの映像が鮮明によみがえる。
「まあまあ……落ち着くんだ、少年」
とアルは優しくなだめるがその程度で収まる貴理塚ではない。
「これが落ち着いていられっか!!」
「では今から現在の地球の状態を説明するぞ、少年」
無視すんなぁ!!、と叫ぶ貴理塚だったが前例があるのを覚えていたアルはあえて無視して話を進める。
「今、この地球は時を止められている。」
「………知ってるよ…」
なんとかアルを殴りたい衝動を抑えた貴理塚は空中で止まった隕石を思い出し、そう返答する。
そうか、なら話は早い…、とアルは言った後、貴理塚に現在の地球の状態を詳しく教え始めた…。
話によると今、時を止められている地球(空間)を『0時間(タイムゼロ)』というらしい。
そしてその『0時間(タイムゼロ)』を作動させたのが『上の組織』という謎の組織。
何のためにそんなことものを作動させた理由は定かではないが、おそらく『地球を隕石から守ろう』ということで今地球は
隕石衝突1秒前で止められているとアルは言った。
でもなぜ?何のために?と貴理塚が聞いてもアルはわからないとしか答えなかった。そして―――
「先ほど私が君を気絶させた理由は、君の持っているその腕時計に問題があったからなんだ」
「俺の腕時計…?……あっ!」
貴理塚は自分の腕に目線を落とす。そこには針が高速逆回転している腕時計が。
そう、とアルは一息置いて続ける。
「思い出したようだね。そう…、その腕時計は君の眼から見てもわかるように明らかに異常動作を起こしている」
「でも何の問題が…?」
大問題だよ、とアルは言いこう続けた。
「その時計のせいで時間が1時間に0.1秒ずつ進んでいるんだ」
「じゃ…じゃあ…まさか……」
驚く貴理塚に構わず、アルは続ける。
「そのまさかだよ、少年。あとこの地球は10時間未満で1秒時間が進み……滅ぶのさ」
「な…なにか手立てはないのか?」
「うん、時間が進むのを阻止するにはその腕時計を壊せば問題ないのだが、そうすれば君もあのモノクロ人間の仲間入りって
わけさ」
「つまり…俺の時間が止まるってことか?」
たじろぐ貴理塚に構わずアルは続ける。
「それは嫌だろう?だから今からこの世界にいるためのある重要なことをする」
「重要なこと?」
「そうさ、少年」
そしてアルは言い放った。
「習得すればこの世界に存在できるようになる『魔法』を覚えるのさ、少年」
第1話「0時間(タイムゼロ)」 了
彼らの過ごした0時間(タイムゼロ) 『プロローグ&第1話「0時間(タイムゼロ)」』
ついに1話目終了しました。小説って書くの疲れるけど楽しいことがわかった気がします。
さあ、いったい次はどうなるのか…
続編いつになるかわかりませんが、部分部分公開していく予定です。よろしくお願いします!
読んでくれた人、本当にありがとうございます! 最下 最上