A Hard Boiled

このお話を読む際の注意事項
①米印のあるところは、ト書きのため、読まないでください。
②米印のないカッコは、読んでくださいませ。
③若干、言葉遣いが荒すぎる箇所があるかもしれません。その点に関しては、ご容赦ください。
④若干、グロテスクなシーンがございます。ご注意ください。

A Hard Boild

〔登場人物〕
男性:大河(たいが)、悠大(ゆうだい)、隆太(りゅうた)
女性:茉奈(まな)、未来(みく)、雛乃(ひなの)
その他:キャスター(雛乃役の方が兼任で)

(※ここは、とある駅の路地裏。雛乃という女が、街を1人で歩いていた。勤務後のようで、スーツを着ていた。)

雛乃「今日も今日で、残業しちゃったわね。これで、累計何時間の残業かしら?みなしだったら、いよいよ私も辞(や)めるわ、この会社。」


(※すると、後ろから猛スピードで雛乃に向かって突撃してくる人が1人。全身が隠れていて、目元や耳元すらわからない。)

雛乃「ん?何かしら?」

(※後ろを振り向き…。)

謎の人(隆太)「うおぉーーーーーーーーーー!」

雛乃「キャーーーーーーー!!」

(※走って逃げようとするも、謎の人の手に持っていたナイフで雛乃がグサリ。
“通り魔”だ。)


(※翌日。朝のニュースは昨夜の通り魔事件で持ち切り。犯人は未だ捕まっておらず、目撃証言や防犯カメラの映像も意味をなしていなかった。)

悠大「…またか。また殺人事件かよ。

…これで2,3日に1人、誰かが殺められ(あやめられ)ているぞ。」

未来「本当に物騒ねぇ。

警察も色々と手は講じて(こうじて)いるらしいけど…。どうもイマイチね。」

悠大「俺は今日から3連休だから、買い物はその間に済ませよう。ちょうどペンやら文房具やらが底をつきてきそうだったから、ナイスタイミング。」

未来「あなた、お願いしますね。」

悠大「あぁ。任せろ。」

キャスター「続いてのニュースです。1週間前、住宅街で発生したレイプ犯の男が昨夜、死体で発見されました。
この事件は1週間前、女子大学生が何者かによって住宅街から近くの公園へと連れ去られ、性的暴行を加えられたというものです。犯人の正体は3日前に判明しましたが、昨夜、血を流して倒れた状態で見つかったということです。そして、その実行犯であろう男性から被害者の女性の家族へ、敵討ち(かたきうち)をした、という内容のメッセージカードが届けられたということです。そのカードには、カードの送り主の記載がなかったとのことです。」


(※場所が変わって、ここは駅前のビル群。今日も、たくさんの人で溢れかえっている。)

茉奈「さてと。今日は午前中で上がらせてもらえたから、早く家に帰って録画していたアニメでも見ようっと♪」


(※背後から、謎の殺気。)

茉奈「?!」


大河「おおっと、そこのイかした服のおっさん。なぁに勝手に、女性に手を付けようとしたのかなぁ?

(お姉さん、早くココから逃げて、どこか近くのお店に!)」

茉奈「(あ、あの男性、犯人を止めてくれてる。

わかりました。ここからすぐに、安全なところに行きます。あとはお願いします!)」


(※大河が、背後からの殺気の男を捕まえる。)

大河「まぁまぁ、そう暴れない暴れない。

暴れちゃうと、キミの手に持っているナイフを公(おおやけ)に見せびらかすことになっちゃうよ。それに、ちょうどすぐそこに…。お!気づいた気づいた♪これで、キミも、

『はい!それま~で~よ~♪』」


(※ナイフを持った男は逮捕。茉奈は、大河と共に警察官から事情聴取を受ける。
しかし、まだこのタイミングでは2人はそれぞれの名前を知らない。)

茉奈「あ、あの…」

大河「ん?なんだい??」

茉奈「先ほどは、私を助けてくれてありがとうございました。なんとお礼をしたらよいものか…。」

大河「いえいえ。わざわざそんなご丁寧に。お気持ちだけで十分ですよ。ありがとうございます。」

茉奈「あ、あの…。

よろしければ、お名前だけでも教えていただけませんか?私は、筒井茉奈(つついまな)と申します。茉奈さんと呼んでください。」

大河「茉奈さん。私は、黒木大河(くろきたいが)と申します。大河さん、とでも呼んでくだされば結構です。以降、お見知りおきを。」

茉奈「大河さん、ありがとうございます!」


(※時を同じくして、悠大と未来。)

未来「たくさん買ったわね。」

悠大「あぁ!たくさん買ったな!

…それと、一つ気になることがあってだな。」

未来「何かしら?」

悠大「俺たちを、背後からストーカーしているんじゃねぇかってさ。

今回は警備員に補導されていったから、多少はよかったんだろうが。」

未来「え?

…あ、さっきの、不潔なハゲているメガネの老人。」

悠大「そう、それ。

…面倒な世の中になっちまったもんだよなぁ~。」

悠大・未来「ハァ…。」
(※2人がため息をつく。)


(※翌日)

キャスター「ニュースをお伝えします。昨日の昼頃、駅前のロータリーで殺人未遂事件が発生し、男が現行犯逮捕されました。犯人は30歳の住所不詳、無職の、樹里目洋平(じゅりもくようへい)容疑者で、昨日、20代前半の女性を背後からナイフで殺そうとしたところを別の男性に見つかり取り押さえられ、そばにいた警察官によって現行犯逮捕となりました。洋平容疑者は『間違いありません』と容疑を認めています。しかし、ここ数日で多発している通り魔殺人に関しては、『自分ではない。自分は関係ない』と証言。その時の防犯カメラをあらためて見てみると、事件の発生したと思われる時間帯に、別の県で食事をとっている姿を確認し、容疑者は連続通り魔ではないことが判明。
一難去ってまた一難。連続通り魔の犯人は、未だに捕まっておりません。」


悠大「未遂、か…。被害者の命が奪われなかったのは大きいな。」

未来「えぇ、そうね。」


悠大「…あ、そういえば最近、大河から連絡が来てなかったなぁ。

前さ、同窓会があるって言って、それに行ったでしょ?その時、あいつ来なかったんだよ。しかも、出欠席(しゅっけっせき)の連絡もよこさずにさ。」

未来「え?そうなの?」

悠大「そうだったんだよ。

…ただ、噂によると、アイツに何か大きなトラブルがあったらしい。それで、ひどく落ち込んでいるようだよ。」

未来「へぇ。

その、大河って男性が犯人だってことはないわよね?」

悠大「多分な。

否定はしたいが、可能性が少しでもあれば疑うしかない。」

大河「(どこだ…?奴はどこにいる…?
俺の家族を、恋人を殺したアイツはどこにいる…?鬼ごっこや夜の殺戮〈さつりく〉ショーはもう終わりにしてくれ…。お前のクビは、俺がとってやる…。)」


(※夜、悠大と未来がドライブをし、未来がコンビニの店内へ。行き違いに、一人の男が店から出てくる。
すると、車内で待機していた悠大にその男が近づく。それは、悠大にとっては見覚えのある顔だった。)

大河「よぉ、ゆうちゃん。久しぶり。」
(※ゆうちゃんとは、悠大のこと。)

悠大「…?どちらs…。

あ!大河!久しぶり!こんなところで会うとはな。」

大河「あの時はスマン。同窓会の、あの件のやつ。」

悠大「皆、けっこう心配してたんだぞ?」

大河「わりぃわりぃ。

あのあと、幹事の奴らに今回かかった費用を、全額渡しておいたよ。
それで、これ。先にゆうちゃんに渡しておくよ。」

悠大「え?幹事の奴らから届くんじゃないの?」

大河「届くは届く。そうじゃなくて、久しぶりに会えたから飲もうかと思ってたけど、結婚してるんだったな、いい女性とさ。だから、夫婦で楽しむ分にでも当ててくれ。」

悠大「本当にいいの?」

大河「あぁ。かまやしないさ。それに、奥さんにもちょいと挨拶をしておいたよ。これからもゆうちゃんをよろしく、ってね。」

悠大「ハハッ。」


大河「…それに。

…もうすぐ、俺はこの世から消える。」

悠大「ん?どうせ冗談なんだろ?

お前はいつもジョークが下手でさ。」

大河「多分、ジョークになるんだと思う。」


(※未来が買い物を終え、戻ってきた。)

大河「じゃあさ、ゆうちゃん。

最後に、これ、渡すわ。いざっていう時にだけ見てほしい。少なくとも、俺がこの世にいるまでは、それを開けないでほしい。」


(※渡されたのは、1通の封筒。)

悠大「了解。」


未来「ただいま戻りました。」

悠大「…お帰り。」

未来「さっきの、あの男性が…。」

悠大「あぁ、そうさ。あいつが、俺の話の渦中(かちゅう)の人さ。一匹狼的(いっぴきおおかみてき)なところがあるけど、結構いいやつだよ。」

未来「頼もしい方のようね。」


(※それから通り魔殺人事件はなくなり、落ち着きを取り戻しつついた。
それから3か月後の、とある深夜。大河は“あの場所”にいた。“雛乃が殺された”あの場所。)

隆太「最近は色々ともめ事がうるさかったから静かになっていたが、今宵こそ、第二幕(だいにまく)を…。」


(※隆太の隠れているそばを通る、1人の女性。仕事帰りの女性らしい。)

隆太「今宵も、始m…。」

(※隆太のセリフを遮るように、突然叫ぶ男。)
大河「そうはさせるか!!」

隆太「ゲっ!」

大河「お姉さん!

…いや、“茉奈さん”!早く走って!」

茉奈「え?!」

大河「茉奈!早く走って、ここから逃げて!殺されても知らないよ?!」

茉奈「…は、はい!

(ありがとう、大河さん。頑張って…。)」

隆太「おのれぇ、大河…!」

大河「…隆太。お前、お前の犯した罪、すべて覚えているよな?

俺の関連するもの。」

隆太「あぁ、覚えているとも。

お前の家族を皆殺しにした。そして、お前の彼女も天に召させてやったよ。今頃、皆仲良くしているだろうねぇ~(笑)。」

大河「全て覚えてんじゃねえかよ。

それに、ここ最近頻発していた通り魔殺人の犯人は、木瀬隆太(きせりゅうた)、お前だろ?」

隆太「ご名答。全て私一人でやったとも。」

大河「何故、何故そんな真似をした?!何故俺の家族に、恋人に手を出した?!」

隆太「お前ばかり贔屓(ひいき)されてたからだよ!!

中学・高校と同じだった。生まれた境遇(きょうぐう)も似ている。学力・運動能力も、トップクラスで肩を並べていた。お前はバスケで、俺はバレーを部活でしていた。キャプテンだった。
…なのに、なのに、なのに、何故お前ばっか厚遇(こうぐう)されんだよ?俺ばかり冷遇されてんだよ!大学は分かれた。お前はほとんど遊んでいた。なのに成績はトップクラス。周りには可愛い子がたんまり。なのに、なのに、俺はひっきりなしに勉強しまくって単位もトップクラスでいたのに、周りには女の子はゼロ。カップルばかり。

…俺は決めたよ。“女性を襲撃する”ってね。俺は自己満足のためにやっているが、やって損はない。俺は一家が自殺をした。俺だけがいない間に。女もいないし付き合ったことすらない。なら、何をしたって迷惑は掛からない。迷惑をかけない遊びをしていただけさ。」

大河「それとこれとは話が違う!!

…なんで、なんで俺の家族や彼女にまで犠牲を出した?!彼らは関係ない!!」


隆太「うっせぇーー!!」

(※隆太と大河が取っ組み合う。)

隆太「大河ァ!今回は、貴様が死ぬ番だ!」


(※隆太がナイフを、大河に突き刺す。)

隆太「大河ァ!これで終わりだ!!」

大河「グハァ…。」

隆太「あばよ、大河…。

?!」

(※しかし、大河は持っていたリボルバーを隆太に向ける。)

大河「…そうはさせねぇよ。(※小声)」

隆太「た、タイガ…。」

(※バーン!銃の発砲音)

大河「ニヒ。」

隆太「く、クソ…。」

(※二人は倒れ、あたりは血の水たまりに。)

隆太「…」

大河「…ありがとう、未来、さん。ゆう、だ、い。ひ…な…。」

(※2人は、ほぼ同時に、命をひきとった。)


茉奈「…はい、警察ですか?はい、はい。連続通り魔殺人の犯人が現れました。そして男性1人が私を助けてくれて、犯人と戦っています。場所は、榎井(えのい)の16の7です。近くの電信柱(でんしんばしら)にそのマークが見えました。
早く、早くお願いします!!」


(※翌日。連続通り魔殺人の真犯人が見つかったというニュースで盛り上がり、それに関するニュースでその日から1週間は持ちきりだった。)

キャスター「ニュースをお伝えします。ここ数カ月の間で発生していた連続通り魔殺人の真犯人がわかりました。住所不明、自称・工事関係の木瀬隆太(きせりゅうた)容疑者、28歳。しかし
近くにいた他の男性に通り魔の瞬間を見られ、その人と取っ組み合いになり2人そろって亡くなってしまったということです。被害者の女性は、『私のヒーローが亡くなってしまい悲しいですが、これからはヒーローの分までも、1日1日を大切に生きようと思います』とコメントをしました。
犯人が亡くなった後(あと)、その遺族が警察に出頭し今までの連続殺人の償いを被害者の家族にすると説明。遺族一軒一軒(いっけんいっけん)周り、謝罪をしに行くもようです。」

悠大「…。」

未来「貴方…。

…よかったじゃない。連続殺人も、これで終わりになったんですし。」

悠大「…あぁ。これで、終わったんだ。

悲劇が、これで、収束したんだ…。」


(※その後、悠大と未来、茉奈が大河の葬儀に出席。最期を見守った。)

悠大「…そういえば、そろそろ気になっていたあの手紙を読んでもいい頃だな。タイミング的にも、アイツが口にしていたそれになったし。」


(※手紙の封筒を開け、内容に目を通す悠大。)

大河『悠大へ。封筒の封を開けるタイミング、間違えてないよな?フライングをしていたら、どうでもいい内容だからな!(笑)
さて、話なのだが、俺がずっと表に出なかった理由だな。電話や連絡をしなかった理由なのだが、実は、俺、家族や恋人をあいつに殺されたんだ。復讐の機会を狙っていたけど、奴は一向(いっこう)に現れなくてな。だから、殺人や性的暴行、誘拐のシーンを見たらすぐに助けに行くようにしているんだ。俺以外に誰も泣いてほしくない・被害を生んでほしくない。そんな思いで生活をしているんだ。まぁ、“復讐のための練習”って思ってもらって結構さ。
それが、まさか人助けになるとはねぇ。何かのゲームでもしているんじゃねぇかなぁ、って気持ちになるのさ。今でもそう思ってる。
残念ながら、俺はGAME OVER(ゲームオーバー)になっちまったわけだけど、悠大は、“未来さんを護衛する”ってミッションが残っているから、それを終えて、ミッションクリアになるまではこっちの世界には来るなよ。
それじゃあな。またどこかで会おう。』


悠大「た、大河…。う、うぅ…。」
(※声を殺しながらも泣いている悠大。)

未来「貴方、コーヒー淹れ(いれ)ましたよ。飲みましょう。」

悠大「あ、あぁ…。

(大河!また一緒に、飯に行ったり、飲みに行ったりしような!)」


(※茉奈は、大河の弟が実は生きていたことに気付かなかった。その彼と結婚。命の恩人のそばに居〈い〉られることに成功した。)

茉奈「(大河さん。貴方以外にも、家族の生き残りが1人いましたよ。貴方の弟さんです。彼と籍を入れたので、これからはずっと、貴方のそばにいますよ。)」


(※ちなみに大河本人は、彼の弟が無事だったことは知らなかった。)

茉奈「さてと。

あなた、朝食の用意が出来ましたよ。一緒にいただきましょう♪」


END

A Hard Boiled

訂正情報
・7月19日(金) 権利情報を変更。
・9月17日(火) 本文を一部修正。
・10月12日(土) 本文を一部修正。
・11月9日(土) 本文を一部修正。

A Hard Boiled

もし、あなたの家族が、大切な方が、何者かによって殺されてしまったら、一体、どうしますか?もし、それが、顔を知らない方だったら。 これは、そんな状況に見舞われた1人の男と、それを取り巻く人間模様の物語。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • サスペンス
  • 青年向け
更新日
登録日
2019-05-11

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work