天邪鬼


私は、天邪鬼だ。

今まで好きあって付き合った恋人だって、離れていく。
人が私から離れる時に言う言葉はいつも似ている。

「俺のこと嫌いなら言ってくれ」


愛していないわけじゃなかった。それでも照れくさくて自分の気持ちを伝えられなかった。
だから正反対のことを言ってしまった。

そんなある日私は今まであったことの無い人種に出会った。

「素直じゃないところも好きだ」

だなんて。
彼は何を言っているんだと思った。
それでも彼とは長く付き合った。
でもある日の事。私はまた心にも無いことを言ってしまった。

「私に構わないで!」

私にそういわれた彼は、少し寂しそうな顔をして。

「ごめんな」

とだけ言って私の元を去ってしまった。
泣いて泣いて泣いて、それでももう私は彼を愛してはいけないのだと悟った。
一度口から出た言葉が戻ることは無い。
何度も相手の心を苛んでしまう。
自分で自分を傷つけて、愛する相手を傷つけて。
私は馬鹿だ。
それでも私はずっと彼が好きだった。


数年後、私の元に一つの招待状が届いた。
目にした文字に頭が真っ白になった。
「結婚式のお知らせ」
そこには数年前見慣れた名前と見知らぬ名前が書かれていた。

ああ、もう終わりなんだなと思った。
この思いはもう彼に伝えることが出来なくなる。
そうなる前に

「…久しぶり。元気だったか?」
「…うん。」

二人の間に何ともいえない空気が漂っていた。
それでも私は伝えたかった。

「前言った貴方のごめんは、」
「え?」
「私の言うべき言葉だったと思うの。」
「………」

彼は黙って聞いてくれていた。
涙が出そう、でももう少し待って。私はまだ泣いちゃいけない。

「私ね、貴方の事本当に好きだったの」
「!…うん」
「貴方のこと、幸せにしたかった。
でももうそれもできない。
貴方は幸せになれる、絶対。 でもね」
「…?」
「本当は、ホントは、私が貴方のことを幸せにしたかった。
でもね、貴方はもうこれから幸せになれる。」

だから、私はこう言うの。

「結婚、おめでとう。」

私なりの精一杯の笑顔、それから彼は「ありがとう」といった。
笑顔なんてもう崩れて涙がたくさん出た。

天邪鬼

天邪鬼

泣ける話なんて書けない事に気付いた

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-10-16

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