夜と凍星の読書感想文。
怪物と少女の物語である。
まず言える事といえば、怪物と少女の物語であるということ。
わたしは、この夜と凍星という物語を、ヘンな話だなと思った。
それはたぶん、怪物の感情がまったく表現されていないからだとわたしは思う。
怪物は少女と過ごした時間を「忘れられないもの」と言ったが、その暮らしぶりは「平穏」の一言でのみ表現されているに過ぎない。
夢に囚われた少女に、怪物は慟哭を覚えるが、その慟哭には「涙の流れない」という枕がついている。
やがて怪物は我が身を犠牲に嵐となり果てる。
「私の願いは、ただ、」その場面は感情の局地である事に間違いないが、怪物の思いは完全に読み手に委ねられている。
委ねられてはいるが、ノーヒントである。
そもそも、感情が描かれているいない以前に、何がおきているかわからない物語でもある。
ただ、描かれているひとつひとつを考察する事が野暮に思える空気をこの絵本は湛えている。
たぶん、ありふれたことを描いているのだと思う。
だからこの作品は、抽象的で劇的だけれど、なにかきちんと手のひらにおさまるような感覚を持っているのだと思う。
人ごみの中にいる時、教室の喧騒の中にいる時、たくさんの声や視線があるのに、この世の全てから忘れ去られてしまったような孤独感。
昨日と同じ今日が繰り返されているような、灰色の空しい既視感と焦燥。
行き場の無い自己顕示欲と表現欲求が吐き出させる、歌や詩や絵、言葉。
大人の享楽を嫌って、無垢と透明を望み、それでも大人に近づいていく自己矛盾。
モラトリアムの終わりと、現実の始まり。
そうした、多くの人が感じてきたであろうありふれたものを、描いているのだと思う。
ただ、それは意図されたものではないようにわたしは思う。
著者のるりこが描きたかったものは、そうした寓話ではなく、ただただ「怪物と少女」だったのだろうとわたしは思うんである。
ただただ自分の中に何時からか存在する怪物と少女を描いたら、こうなったという話なのだろうと思うよ。
ビート文学の自動筆記ではないけれど、何かそうした超常的な部分を使って描かれた作品なのだとわたしは感じる。
書こうと思ったことは色々あったんだけれど、こうして感想文を書いているうちに、どんどんその気がなくなってしまった。
つまり、たぶん、そういう作品なのだと思うよ。
閉鎖的なくせに夜の闇の様に深く広い、屋根裏部屋の宇宙。
閉鎖的で居心地のいい、親しみ深い孤独が描かれた素敵な絵本だよ。
夜と凍星の読書感想文。